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投手より野手? ドラフト戦略がチームを決める

野球データアナリスト 岡田友輔

10月25日のプロ野球ドラフト会議が近づいてきた。選手にとっての「運命の一日」は球団にとっても将来を左右する一大イベントだ。抽選で引き当てたスター候補が期待外れに終わることもあれば、下位指名からチームの顔に成長する選手もいる。本物の"当たり"はどこに潜んでいるのか。様々なリスクとリターンを踏まえ、ドラフト戦略を考えてみたい。

大リーグは「MVPは野手から」

米カブスのセオ・エプスタイン副社長は「ドラフトでは野手を優先的に取り、投手は完成品をフリーエージェント(FA)など市場で獲得する」という方針を明言している。108年ぶりとなった2016年のワールドシリーズ制覇は11年に就任した同氏が掲げた「5カ年計画」の集大成だった。カブスは今年もポストシーズンに進出した。かつての弱小球団が強豪に生まれ変わったのは、エプスタイン氏の手腕に負うところが大きい。

野手を優先するのにはそれなりの根拠がある。「野球は投手」といわれるように、投手は勝敗に大きな比重を占める。ただし、ここで注意が必要だ。確かに1試合だけを考えれば、抜群の力をもった先発が完投すればチームは高い確率で勝てる。ところが長丁場のペナントレースでは事情が変わってくる。というのも、野球における役割分担は基本的に野手が6割、投手が4割という比率になっているからだ。

CSで対戦したヤクルト・山田哲(手前)と巨人・菅野。今季は圧倒的な成績を残した菅野も、WARでは山田哲に及ばない=共同

攻撃と守りの重要性は50%ずつ。攻撃でオーダーに名を連ねるのは9人だから、50を9で割った5~6%が打者1人あたりの試合への関与度となる(打順により変化する)。一方、守備側の50%の内訳は7~8割が投手(三振の数などにより変化する)、残りが野手(守備力)という比率になる。二塁や遊撃など守備機会の多いポジションであれば、攻撃と合わせ、試合の8%程度に関与することになる。

ところが投手はそうはいかない。年間フルイニング出場も可能な野手に対し、現代野球の登板間隔で投手が試合に関われるのは、200イニングを投げてもシーズンの総イニングの15%程度にとどまる。攻撃面ではほとんど戦力にならないため(パ・リーグでは打席にも立たない)、シーズンを通した関与度はエース級でも5~6%にとどまる。「神様、仏様、稲尾様」や「権藤、権藤、雨、権藤」のように1人で多くのイニングを投げ抜いた時代には、最も影響力があったのは投手だったケースもあったろうが、現在のペナントレースではよほどのことがない限り、最も優れた野手に及ばない。

大リーグの最優秀選手(MVP)が専ら野手から選出されるのも「勝敗への影響は野手の方が大きい」という前提が共有されているからだ。前回紹介した「WAR」という勝利への貢献度を測る指標を思い出してほしい。今季、圧倒的なパフォーマンスで沢村賞の7項目をすべて満たした菅野智之(巨人)は7.6勝分と、投手では突出している。それでも、二塁を守りながら打率3割1分5厘、34本塁打、33盗塁を残した山田哲人(ヤクルト)の8.4勝分には及ばないのである。

実は「投手は水物」

もうひとつ注意したい固定観念は「打撃は水物」というものだ。大量得点を挙げた翌日、打線が沈黙するのは確かによくある。しかし、シーズン単位でみると"水物"なのは打者よりも投手なのである。

年度ごとの相関係数(0~1の範囲で1になると完全に一致)をみると、打者の長打力や本塁打を打つ力を示す指標は0.8前後。つまり、こうした能力はシーズンをまたいでも安定して発揮される。対照的に投手では最も再現性が高い三振奪取能力でも0.6。防御率や勝率に至っては0.2~0.3程度と変動が大きく、前年の成績は当てにならないのだ。

以前のコラムでも書いたように、ある打球がアウトになるか安打になるかは投手にはコントロールできない。当然、失点も投手の責任範囲には収まらない。さらに投手とは、フォームや指先の感覚が一度狂ってしまうと簡単には元に戻せないデリケートな生き物だ。期待の新人が鳴かず飛ばずで終わってしまうことが野手以上に多いのは、プロとアマのレベル差に加え、こうした事情も関係していると考えられる。

以前、ドラフト指名時の属性とその後の成績の関連性を調べてみたことがある。使った指標やデータがやや古いため細かい変動はあるかもしれないが、大まかな傾向を紹介しておこう。最もリスクが高いのは高校生の投手だ。松坂大輔(中日)、ダルビッシュ有(カブス)、田中将大(ヤンキース)といった超高校級であれば高い確率で成功するが、全体では4人に1人が1軍登板さえできずに引退する。モノになれば大きいハイリスクハイリターンの投資対象だ。

当たると大きい高校生野手

反対に最もリスクが低いのは大学生。成功の基準をどこにおくかは様々な考え方があるだろうが、高校生や社会人に比べ最も戦力になる割合が高い。ローリスクハイリターンの優良な投資対象といえる。ポジション別で最も難しいのは捕手だ。一定の傾向が見当たらず、どこに当たりが入っているのか分からなかった。

リーグ3連覇を果たし、ファンに手を振る鈴木(左)と丸。広島のドラフト戦略の成功例だ=共同

いうまでもなく、投手も野手も1位指名選手の成功率は総じて高い。抽選になるような選手であればなおさらだ。これは裏返せば、球界の勢力図には2位以下の選手の成功が大きな影響を与えることを意味する。ときに"大当たり"が入っているのが2位以下の高校生野手だ。進学すれば4年後には1位候補という素材を青田買いして自前で育てられればチーム力は大きく上がる。西武の浅村栄斗(3位)、広島の丸佳浩(高校生3位)、鈴木誠也(2位)、ソフトバンクの中村晃(高校生3位)、上林誠知(4位)、日本ハムの西川遥輝(2位)らはそういう存在だ。

V9時代の巨人や黄金期の西武から現在の広島に至るまで長期にわたって強いチームは例外なく野手の顔ぶれが充実している。ドラフトでは「即戦力投手」に人気が集まりがちだが、カブスのチームづくりは5カ年計画だったことを忘れないでほしい。行き当たりばったりではなく、「いつ勝つか」を明確にすることが強いチームづくりの第一歩といえるだろう。

 岡田友輔(おかだ・ゆうすけ) 千葉県出身。大学卒業後、民放野球中継のデータスタッフやスポーツデータ配信会社勤務を経て2011年に独立。株式会社DELTAを立ち上げ、野球のデータ分析やプロ球団へのコンサルティングなどを手がける。著作に「デルタ・ベースボール・リポート1」など。

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