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Jリーグ四半世紀、企業を本気にさせ新たな段階へ

FIFAコンサルタント 杉原海太

1993年に本邦初のサッカーのプロリーグとしてスタートしたJリーグは誕生から四半世紀がたった。日本のスポーツ界に革命を起こしたJリーグの意義をかみしめつつ、これからの「J」の在り方について思うところを述べてみたい。

俗に「オリジナル10」と呼ばれるクラブ数でJリーグが始まったとき、清水エスパルスを除く9クラブは、日本リーグ時代から企業内の部活動としてサッカーと縁のあるところばかりだった。

「ソーシャルビジネス」を先取り

しかし、「地域密着」を理念にうたうJリーグが爆発的なブームを呼ぶと次々に賛同者が現れ、今ではJ1、J2、J3合わせて54ものクラブが存在する。その中には札幌や新潟のように、日本リーグ時代からの大きな責任企業(昔風にいうならば親会社)を持たずに、地元の企業やメディアに支えられながら地域のリソースをフル活用して地域のアイコンになったクラブもある。

鳥栖に勝利し、サポーターにあいさつする札幌イレブン。コンサドーレ札幌は地元に支えられ地域のアイコンになった成功例といえる=共同

J1なら30億円前後の収入で経営されている、それら地方のクラブは、学生スポーツか企業スポーツしかなかったこの国のスポーツ界にこつぜんと現れた。町おこしという意味でも新たなビジネスの創出という意味でも、これは画期的なことだった。計画段階を含めると30年近く前にそうした構想を唱え、具現化したことは、Jリーグ最大の功績だと思っている。

今でこそ、社会課題を解決する活動をビジネス化し、持続可能にしていくことを「ソーシャルビジネス」と呼んで、若い経営者を中心に強い関心を持たれるようになったけれど、Jリーグが果たしたことはその完全な先取りのように思える。Jリーグが唱える地域密着は「地方創生」として今の時代にも求められていること。その先見性には本当に驚くばかりだ。

一方で気になることがある。大きな責任企業を持つクラブの現在の立ち位置である。

それら責任企業のほとんどは世界に冠たる大企業であり、日本リーグ時代のサッカー部をJクラブに発展させて日本サッカーのプロ化を成功させる原動力になってくれた。それらの企業がJリーグ創設に協力したのは、計画段階ではバブル経済がはじける前で、CSR(企業の社会的責任)としてJクラブをバックアップするだけの余力がまだ日本企業にあったことが一因だといわれている。

Jリーグにとっては非常にありがたいことだろう。しかし、大都市と大企業を後背地に持つクラブが50億円ほどの収入で切り盛りされているのを見ると、私個人は「もっとやれるのではないか」「責任企業を本気にさせることができたら、今以上のビッグクラブをつくれるのではないか」と、どうしても思ってしまう。

プロ野球で新興球団とされる福岡ソフトバンクホークス、東北楽天ゴールデンイーグルス、横浜DeNAベイスターズの活況と引き比べたとき、その思いはますます募る。それら新興球団はフランチャイズとする都市の活性化に大きく貢献しながら、企業のブランディングに球団を役立てることにも成功している。球団経営から何を引き出すか、その掘り下げ方に本気を感じる。歯がゆいのは、その成功の陰に、Jリーグの手法を徹底的に学習した上で、いいとこ取りをした痕跡が見られることだ。

お立ち台でポーズをとるDeNAの山崎(左)と伊藤。勝利インタビューの締めは「I LOVE YOKOHAMA」だ=共同

そんなプロ野球の活気を見るにつけ、Jリーグもクラブと企業の関係を再構築してもいいのではと思ってしまう。Jリーグを始めるとき、企業名をチーム名から外すことは地域密着のため絶対に必要だった。そうしないと地方行政の協力など得られなかった。そこにJリーグの斬新さがあった。が、現在のプロ野球の、特に新興球団は、企業名を名乗ることと地域に密着することを、ほとんど違和感なく両立させているように見える。であるならば、手本にされた側のJクラブに同じことができないわけがない。

「攻めの経営」を後押しする施策を

幸いなことに、Jリーグには25年かけて培った地域での信用がある。地域で暮らす人々の暮らしや地方の行政に対して、Jクラブはお役に立てるということを地道な貢献活動を通じて証明してきた。そういうベースがあるのだから、今度は逆に「企業をもっと本気にさせる仕組み」を考えてもいいのではないだろうか。地域に貢献するということに賛同いただけているならば、それこそ、チーム名を一種のネーミングライツとして、企業に買ってもらうようなことをしてもいいような気さえする。

54までクラブが増えたのであれば、J1とJ2とJ3の間で、あるいは地方のクラブと大都市のクラブの間で、ある種の役割分担があっていい気もする。全部が全部、地域密着やチーム名から企業名を外す、といった同じくくりの中でとどめ置く必要があるのか、といったことなどを、そろそろ真剣に議論してみてはどうだろうか。

日本ほどの経済力がある国のサッカークラブなら、億単位で3桁の収入があるクラブが複数あって何の不思議もないだろう。「世界」というか、もっと上を目指したいクラブに対しては、「稼げるところは稼いでください」「もっと攻めの経営をしてください」と背中を押すような施策を検討してもいいのではないか。

基本的な部分で、Jリーグはドイツのブンデスリーガを手本にしてきたとされる。元々の地域色を維持しつつ放映権などを含むビジネス的な要素も取り入れるブンデスリーガに対して、イングランドのプレミアリーグはよりエンターテインメントビジネス的な色彩が濃いが、どちらもいわゆる企業スポーツ的な要素は見受けられない。Jリーグは、ブンデスリーガでもプレミアリーグでもない、別の道を行ける気がしている。

この国は、もともと企業スポーツの盛んな国(韓国もそうだから東アジアの特徴なのかもしれない)。企業とスポーツの親和性という土台があるので、企業側が新たなメリットを感じるような提案ができたら、「企業スポーツ2.0」とでもいうような形でJリーグをバージョンアップできる気がするのだ。それも、極端に進路を変えることなく、今より「地域」と「企業」のバランスを少し修正するだけで開ける道が。

先制ゴールを決め、サポーターにアピールする川崎・中村(左)。市とクラブと企業の関係がうまくいった例だ=共同

断っておきたいのは、これは、かつてあった企業スポーツに一周回って戻るという話ではない。Jクラブが地域のシンボルであり続けることは不変のテーマだ。ただ、Jクラブが、そこに暮らす人々のクオリティー・オブ・ライフ、人生の喜びというようなものを提供する存在であり続けるには、行政と企業とクラブの三者が、それぞれの理想を求められる関係にあることが望ましい。自治体とJクラブと企業がウィンウィンの関係になれることは、既に川崎市とフロンターレと富士通の実践例がある。

これからのJクラブは、半分はビジネスであり、半分は社会的なもの、という存在であり続けるだろう。公的な機関が引き受けてきたことに企業が深く関わるようになることが地域社会でも起き、そういう活動のハブになるポテンシャルがJクラブにはある。

新しい議論を始めると、自分たちがこれまで大事にしてきたルールを変えるような局面にぶつかる。しかし、ルールはあくまでもツールにすぎない。「なぜそうなのか」という問いに対して「そういうルールだから」という問答は、ルールが目的を達成すべき手段ではなく、ルール自体が目的化しているという意味において不毛である。達成したい目的があり、そこにいたる制度設計をしっかり持ちうるのであれば、そのためにルールを変えることに尻込みする必要はない。

それは今までやってきたことの否定では決してない。JリーグとJクラブには25年もかけて、こつこつと積み上げてきたものがある。培ってきた信用がある。JリーグとJクラブは自身のバージョンアップにトライする資格が十分にある。

 すぎはら・かいた 1996年東大院修了。コンサルティング会社を経て国際サッカー連盟(FIFA)運営の大学院を2005年に修了。06年からアジア・サッカー連盟(AFC)に勤めた後、14年から現職。FIFAの戦略立案に携わる。47歳。

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