2018年12月11日(火)

ハッカソン、記者がまさかの優勝 プロ球団をコンサル

スタートアップ
ネット・IT
2018/10/18 6:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

ITエンジニアらが技術やアイデアを競う「ハッカソン」。ちまたで話題のイベントの取材案内が記者の元に届いた。テーマは「データを駆使したプロ野球ビジネス」。取材も面白そうだが、いっそ参加してみてはどうだろう――。後輩記者を連れ、敗戦覚悟で2日間缶詰めのコンテストに挑むと、まさかの結果が待っていた。

プロ野球のデータ活用に関するハッカソンに記者が挑戦

プロ野球のデータ活用に関するハッカソンに記者が挑戦

■セイバーメトリクスを事前に勉強

人材大手のパーソルキャリアから8月、「『ベースボールデータハッカソン』開催のお知らせ~ビッグデータから解き明かすベースボールビジネス~」と題するニュースリリースが届いた。「出場して、てんまつを記事にしてみては?」。上司に相談すると二つ返事でOK。一人では心細いので野球ファンの後輩を誘うと快諾し、「球団で働けたりしますかね」とドキドキする答えが返ってきた。

映画「マネーボール」で知られる通り、野球はデータ分析が盛んな競技で「セイバーメトリクス」という分析手法が確立されている。事前に関連書籍を後輩と読み込み本番に備えた。

迎えた10月の当日。出場者は23チーム32人。参加者はみな落ち着かない様子だ。いよいよ主催者からテーマやデータ、ルールの詳細が発表された。午前10時半、淡々と開始が告げられ、長い2日間が始まった。

まず渡されたのはパ・リーグのある球団の試合と顧客のデータ。試合データは投手や野手のデータ。顧客データは個人を特定できない形式でチケットの購入履歴やネット通販の購入金額が記されている。

今回のハッカソンは「エンジニアリング部門」と「コンサルティング部門」に分かれる。記者はプログラミング言語「R」をデータ分析などに使っている。後輩は「エクセル」くらい。高度な技術を競うエンジニア部門ではなく、データから新たなマーケティング施策を提案するコンサル部門に決め打ちしていた。

まずデータの量に圧倒された。数十万行ものデータを分析にかける前の準備に4時間はかかった。分析にたどり着いたのは午後3時頃だ。続いてマーケティング施策の前提となる顧客分析だ。性別、年齢や購入履歴の分布などを確認し、平均値や標準偏差などを算出する。大まかな顧客の傾向と試合データの関連を見つければ何とかなると高をくくっていた。

だが誤算が生じた。後輩に「ファンはいつチケットを買うのか」と聞くと、「普通は試合の1~2カ月前」という。前日の試合結果は購買行動にあまり影響しない。確かにチケットの購買動向は曜日と会場でほぼ説明がついた。相当な分析技術がなければ2つのデータの関係を発見できない。

困惑のさなか競合メディアが連合チームで参戦しているという情報が入った。敗戦覚悟の参加だったが、社のメンツにかけて負けられなくなった。おぼつかない技術よりも、斬新な切り口とわかりやすい説明で勝負すると腹をくくった。

■ターゲットは「おっさん」

幸い顧客分析から仮説が立った。データは秘密保持を約束する書類にサインするほど厳重に管理され詳細は明かせないが、ファンは男女とも40歳以上が過半。チケットの平均購入枚数が多いのは女性だが、買う人と買わない人の差が大きい。一方、男性は平均値の周辺に集まり施策が打ちやすい。女性に比べ消費が鈍い分、伸びしろも大きく、絶対数も多い中高年男性=“おっさん"こそ狙い目だ。

この分析までで初日が終了した。

2日目。季節外れの暑さもあり後輩の顔にも疲れが浮かぶ。締め切りの午後3時まで5時間。記者は前日にあたりをつけたデータを精査しながら、提出用の資料を作成。後輩は試合データから、チームの傾向を洗い出す。終了時間が迫り、会場は静けさを増す。眼精疲労でコードが読めなくなってきた。焦燥と疲労がピークに達した終了5分前、資料が完成した。

トークイベントの後、いよいよ結果発表。上位2組が決勝プレゼンテーションに進む。技術の勝負から逃げた記者チームに勝算はない。と思っていたが、真っ先に名前を呼ばれ、喜ぶ間もなく壇上に立たされた。

ユーモアも交え、おっさんのための感謝デーや野球データ教室の必要性を訴えた。緊張しながら何とか5分間のプレゼンを終えた。審査員からの質疑の時間。最初はパシフィックリーグマーケティング(PLM)の根岸友喜・最高経営責任者(CEO)だ。第一声は「提案してもらった内容をぜひ実現したい」。プレゼンが刺さった。

そのまま会場は懇親会に移行し、最終結果の発表。自信は無いがやれることはやった――。

結果はまさかの優勝! 同行のカメラマンが苦笑を浮かべて自分たちの写真を撮っている。出場していたメディア連合チームから「囲み取材」も受けた。

結果はまさかの優勝!

結果はまさかの優勝!

提案内容の切り口や納得感が勝因になったようだ。ハッカソンは技術力のある人が勝つものと思って出場したが、それ以外の要素も求められていることを痛感した。実際のビジネスでも技術力だけで企業の優劣が決まるわけではない。

帰り道、優勝賞品のパ・リーグ全球団のユニホームと観戦チケットを握りしめた後輩がいつになく顔を紅潮させている。野球愛がさらに深まったそうだ。2日間にわたったイベントの疲れは一気に癒えた。

■参加者同士の交流もハッカソンの醍醐味

今回のハッカソンは記者チームがエントリーした「コンサルティング部門」と、機械学習など高度な技術を駆使する「エンジニアリング部門」に分かれていた。エンジニアリング部門に課されたテーマは、過去のデータから特定の日のチケット購入者を機械学習などで予測し、その精度を競うというものだった。

参加者の多かったエンジニアリング部門では上位4組が入賞し、金融機関に勤める29歳の男性が優勝した。プレゼンテーション後の審査員との質疑では、「バリデーションをどうしたか」「これはK―meansを使って――」と、難解な専門用語が飛び交う、これぞハッカソンという光景が見られた。

上位入賞者の発表の前にはトークイベントも開催。野球やデータサイエンスをテーマに、各界の専門家が意見を交わした。興味深いテーマだが、データ分析と資料作成を終えたばかりの記者は疲れと眠気がピークに達しており、残念ながら内容は頭に入ってこなかった。

ほかの参加者との交流も大きな収穫だった。参加者は20代が中心。機械学習を学び始めたばかりの学生から、すでに大手企業で活躍する人まで、多くの人とデータを扱うおもしろさや、それを仕事にする難しさを共有できた。ITエンジニアはもともと横のつながりが強いとされる。こうした場で情報交換し、切磋琢磨(せっさたくま)している様子がうかがえた。

ハッカソン(hackathon) 「物事をうまくやり抜く」などを意味する「ハック(hack)」と「マラソン(marathon)」を組み合わせた造語。ITエンジニアやデザイナーなどが集まり、1日~1週間程度をかけて何らかの成果物を集中的に作成する。その技術やアイデアを競うイベント。

米国西海岸を中心に各地で盛んに開催されており、運営主体は企業や自治体、教育機関など様々だ。人工知能(AI)やフィンテックなど技術をテーマとすることもあれば、実際の社会課題が提示されることもある。参加者は自身の腕試しや交流を目的にし、主催者は生まれたアイデアなどを実際に取り入れたり、優秀な参加者をスカウトしたりすることがある。

(企業報道部 北爪匡、小柳優太)

[日経産業新聞10月17日付]

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