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日本馬惨敗の凱旋門賞中継、ファンの意識と温度差

世界最高峰のレースのひとつ凱旋門賞(G1、仏・パリロンシャン)が7日に行われた。順調なシーズンを送れていなかった昨年の覇者、エネイブル(牝4、英)が連覇を飾るなど、見どころの多いレースだった。ただ、日本国内での馬券売り上げは約3割の大幅減。出走した日本馬が国内でG1勝ちのないクリンチャー(牡4、栗東・宮本博厩舎)1頭だけだったこともあり、日本では盛り上がりを欠いた印象だ。

凱旋門賞が行われたのは、中央競馬の3日間開催(6~8日)の中日が終わった日本時間7日夜。最大の焦点は、エネイブルが連覇を達成できるかだった。昨年のこのレースを勝った後、脚部不安による休養が長引き、当初6月だった復帰予定が9月にまで延びた。その復帰戦を快勝したものの、順調さを欠いたシーズンで一線級を相手に力を出せるか、不安はあった。

ライバルはG1を2連勝中だった追い込み馬シーオブクラス(牝3、英)と前哨戦のフォワ賞(G2)を快勝したヴァルトガイスト(牡4、仏)。現地でも、日本国内の馬券発売でもこの3頭が上位人気となった。

力不足クリンチャー、売り上げも伸びず

一方、毎年のように遠征し、優勝が関係者の悲願とされる日本調教馬の出走は、クリンチャーだけ。確かに昨年と比べれば調教の動きも良くなり、馬自身は成長していた。とはいえ、国内での重賞勝ちは2月の京都記念(G2)のみ。欧州の力のいる馬場の方が合いそうだという期待はあったが、遠征初戦のフォワ賞は全く見せ場の無い6頭立ての最下位に敗れていた。欧州の一線級と戦うには明らかに実績、地力が不足していた。

今回の仏遠征は、関係者の技量の向上や、馬の可能性を探るという面では確実に意味のある挑戦だった。ただ、前哨戦敗退の時点で凱旋門賞初制覇の可能性はほぼ無くなったといっていい状況だった。実際、欧州での評価も低く、フランスでの単勝オッズは42倍。英国のブックメーカー(賭け屋)のオッズは100倍を超えていた。

レース自体は、先行馬群の絶好位から抜け出したエネイブルに、追い上げてきた2着シーオブクラスが短首差まで詰め寄る好勝負だった。ここまで順調さを欠いたエネイブルが地力を発揮して押し切る姿、絶好位に馬を誘導した鞍上(あんじょう)のランフランコ・デットーリの手綱さばきなど、欧州競馬のファンにとっては見応え十分の一戦だった。

ただ、日本では盛り上がりを欠いた。国内での凱旋門賞の馬券売り上げは24億7567万6900円にとどまった。昨年比で28.1%減り、凱旋門賞の売り上げとしては、発売を開始した2016年以降で最低の数字となった。日本中央競馬会(JRA)は「昨年までの凱旋門賞はG1のスプリンターズステークス当日に行われた。G1のある日は昼間の馬券購入者が多く、凱旋門賞に流れるファンも多い。今年はG1のない週だったうえ、3日間開催の中日だったことが影響した」ことを減少の要因とみる。

だが、参戦した日本馬の実力が明らかに見劣っていたという現実も、売り上げ減の大きな理由だろう。凱旋門賞の馬券が初めて発売された16年は、その年の日本ダービー馬マカヒキが前哨戦のG2、ニエル賞に勝って凱旋門賞に臨んだ。17年のサトノダイヤモンドは本調子になく、前哨戦のフォワ賞に完敗したが、国内でG1を2勝と実績が十分にあった。遠征した馬の格、前哨戦の内容をみれば、今回は盛り上がりを欠くのも仕方がなかった。

実際、凱旋門賞のクリンチャーは19頭中の17着と完敗。エネイブルのすぐ内側の位置を取った武豊の好騎乗にはうならされたが、最後の直線に入ると見せ場もなく、ずるずると後退していった。

そんな日本馬惨敗の夜に温度差を感じたのが地上波のテレビ中継だった。レース後、筆者は競馬になじみの薄い友人からメールを受け取った。内容は「日本とは馬場が違うから勝つのは難しいのかな」というもの。「馬場うんぬんの前に、そもそも実力的に勝てるチャンスは少なかった」と返信したが、友人は地上波の中継を見て、優勝できるのではと期待していたという。翌8日に京都競馬場で、ある競馬関係者にこの話をすると、その関係者も同じようなやりとりを、地上波中継を見ていた、競馬に接する機会の少ない知人としたという。

盛り上げも及ばず、結果は…

その地上波の中継は、競馬ファン以外にも広く名前を知られる武豊を中心に盛り上げるべく、「武豊、悲願の初Vなるか」などの字幕を掲げた。武豊のこれまでの足跡を振り返る映像を流し、パドックでもクリンチャーばかりを映していた。その一方で、クリンチャーという馬がこれまでどのような成績を残したのか、国内での実力はどの程度なのか、現地での評価はどうかなど、馬そのものの情報は不足していた。競馬に詳しくない人には、武豊が乗るのだから強い馬なのだろう、日本馬初制覇の可能性があるのかもしれない、と大きな期待を抱かせてしまう内容だった印象である。

地上波での生中継となれば、普段、競馬を見ない層を取り込まなければならないという事情があるのはわかる。盛り上げるための構成も、ある程度は仕方がないだろう。ただ、もう少し実情に即した、バランスの取れた情報提供の方法はあったのではないか。

例えば、単勝の人気順は、応援馬券で日本馬が上位人気となりやすい日本国内の発売分(クリンチャーは4番人気)を伝えていたが、英国のブックメーカーの評価や、現地で日本馬がどう報じられているかなどを伝えれば、実態に近い情報は出せたはずだ。予備知識もなく中継を見ていた人にとって、事前の盛り上げとレースの結果は落差が大きすぎたろう。競馬になじみの薄い視聴者が多いからこそ、少しでも競馬に興味を持って中継を見てくれた人たちだからこそ、そうした情報提供が重要だったと感じる。

今は国内でも海外競馬の馬券が買える時代である。日本馬だからという理由だけで馬券を買い、日本馬が1番人気になるようなこともなく、ファンは成熟している。伝える側も以前のような「日本馬頑張れ」一辺倒ではなく、一歩引いた冷静な報道を心がけたいところだ。

(関根慶太郎)

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