iPhone XSとPixel 3で実感 スマホカメラの新時代
西田宗千佳のデジタル未来図

2018年9月のアップル「iPhone XS/XRシリーズ」に続いて、10月にはグーグルが「Pixel 3シリーズ」というフラッグシップのスマートフォンを発表した。両製品に共通するのがカメラ性能の高さだ。特に「失敗しない」写真を撮る機能は従来と一線を画している。

「失敗しないカメラ」になった
iPhone XS/XRシリーズとPixel 3シリーズ、どちらも非常に素晴らしいカメラを備えており、購入者の満足度は高いだろうと思う。
カメラの良さには色々な方向性がある。その中でも、筆者が両方に共有した良さだと感じたのは「失敗が少ない」「失敗を減らす」カメラになっている、ということだ。
撮影時の失敗としてよくあるのは、逆光や明るさの不均衡による「白飛び」。明るい窓がある室内で撮影したときに、室内が暗くてよく見えない一方、窓の外は光が多すぎて真っ白になって、外が見えない写真になりがちだ。白飛びを防ぐにはカメラの特性を知っている人がアングルやシャッタースピード、明るさの設定などをきちんと調節して撮らないといけない。逆に言えば、素人が撮ったらほとんどが失敗写真になってしまう。
iPhone XS/XRシリーズもPixel 3シリーズも、こうしたシーンでの失敗が非常に少ない。単に暗いところが明るく写るだけでなく、白飛びを抑え、「自分が見たままに近い印象」の写真に仕上がる。この点での信頼性が、他のスマホより高いと感じられるのが、なによりの美点だ。


写真の失敗を防ぐという意味では、Pixel 3シリーズは特に徹底している。シャッターを切った瞬間、変な顔になってしまったり、目を閉じてしまったり、髪が顔にかかったり、という失敗は多いはず。「トップショット」という機能を使うと、顔がきちんと見えている良いショットを選んで保存できる。これで失敗は怖くない。同様の機能は、ソニーモバイルのXperia XZシリーズにも「先読み撮影」として搭載されており、スマホカメラの機能としては珍しくなくなってきた印象がある。
シャッターは「印」、映像は先に記録されている
実はこれらの「失敗しない」機能はすべてシャッターを切る前から画像をスマホ内に取り込んでおくことによって実現している。
「失敗していない表情」を瞬時に保存できるということは、シャッターを切る前から映像の記録は始まっているということに他ならない。シャッターを切るとスマホが撮影された大量の情報の中から、1枚を選んだり、さらには複数枚から合成したりして、最適な映像を保存する。
光の条件が悪い中でもきちんと撮影できる理由も、「瞬時に大量の映像を撮影し、そこから処理して1枚の写真を作っている」からだ。iPhone XS/XRにしてもPixel 3にしても、露光の異なる多数の写真を撮影し、それらに加工を加え、さらに合成することで最終的な写真を作り出している。だから、「シャッターを切る」という行為は、「ここの、今の風景を残します」という目印に過ぎないのである。この機能を、アップルは「スマートHDR」、グーグルは「HDR+」と呼んでおり、詳細は異なるものの、アプローチとして共通項が多い。

Pixel 3では、ズーム機能でも多数の写真を使う。複数の写真を合成・処理しつつ拡大を行うことで、光学的なズーム機能のない1つのレンズとセンサーでありながら、美しいズーム機能実現している。グーグルは「Super Res Zoom」と呼んでいるが、これも「HDR+」と同じく、複数枚の画像を瞬時に記録していることを前提とした機能といえる。
これらは昔からの物理的にシャッターを切るカメラでは考えられなかったことだ。
「撮る」カメラから「演算で映像を作る」カメラへ
これらのことから言えるのは、スマホのカメラは「映像を合成によって作るのが基本になっている」ということだ。スマホに限らず、デジカメには多かれ少なかれそういった要素はあったのだが、今年のスマホからはさらに次の段階に入ってきた印象を受ける。例えばうす暗いところで写真を撮ると、これまでも「しばらくカメラを動かさない」ようにユーザーにメッセージを出して複数枚撮影・合成を行う製品はけっこう多かった。しかし、iPhone XS/XRとPixel 3では、単にシャッターを切るだけで良くなっている。そして、映像の処理には「機械学習」を活用するのが基本になった。「AIで撮影」と呼ばれることもあるが、多数の写真から「好ましい写真の条件とはなにか」を学習した上で、その要素を撮影時に反映している。スマホカメラとAIの関係は2年ほど前から見え始めていたが、17年から注目が集まり、18年は明確に「写真の品質」に反映されてきた印象だ。
結果的にだが、iPhoneのカメラ・アプリにもPixelのカメラ・アプリにも、従来のカメラではおなじみの「シャッター速度」「露出」などの数字がほとんど出てこない。もちろん内部的には存在するし、それらを意識しながら撮影する機能もあるのだが、画像合成によって写真を作る以上、数字にこだわる意味が薄れているのである。
とにかくシャッターを切ればいい、という意味では過去のコンパクトカメラに近いのだが、得られる写真のクオリティーはより高くなっている。iPhone XS/XRシリーズとPixel 3シリーズが「良いカメラを備えたスマホ」となったのは、スマホのカメラの側が「好ましい写真を演算によって作る」カメラになっているからなのである。iPhone XSに比べ、Pixel 3は撮影後の記録にワンテンポ時間がかかるようにも思う。そこはもしかすると、両者の処理速度の差が出ているのかもしれない。だとすれば、「演算によって写真を作るカメラ」としてのスマホでは、いままで以上に演算能力、それも機械学習系の処理能力が求められる時代になってきている、といえるだろう。ただ、Pixel 3も「遅い」とは思わないので、特に問題ではなかろう。
一方で、そこで作られる映像は、古典的な「カメラ」で得られるものとは異なる。「ソフトが映像を作る」というと、なんとなく落ち着かないものを感じる人もいるだろう。一眼レフカメラなどでレンズ選択と設定に腐心し、撮影者が強い意図をもって撮影する「写真」と、スマホが撮影する写真の意味合いは大きく異なる。シェアすることを目的とした「スマホのカメラ」と写真を撮る行為そのものが価値を持つ従来の「カメラ」との差は、今後どんどん広がっていく可能性が高い。
フリージャーナリスト。1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。
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