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来季は競争の場へ? イチローとマ軍の着地点

スポーツライター 丹羽政善

「なんか改めて決意表明するのもおかしな感じだけれど、これが来年の春に僕が240パウンド(約109キログラム)になっていたら終わりですよ、それは。その可能性は低いと思うので、そうでなければ、終わりではないと思います」

「できることは全部やった」今シーズン

マリナーズの選手登録から外れ、会長付特別補佐に就任した5月3日、イチローは来季の現役復帰の意思を明確にし、それでも……とくすぶる声をこう制した。

「これが最後ではない、ということをお伝えする日」

その後は、それまで同様、いや、それ以上に練習を重ね、シーズン最終日となった9月30日の試合前も、通訳を伴ってフィールドに姿を見せると、ゆっくり体をほぐした後でキャッチボールを始め、90メートル近い遠投ではスタンドのファンを沸かせた。

うっすらと汗をかいたあとで彼らのもとに歩み寄り、ずいぶん長い間サインをしていたが、来季の契約が決まっていない以上、そんな光景も最後かもしれない。そんな視線で見れば、ストレッチの何気ない仕草でさえ見え方が変わってくるが、イチローの決意に揺るぎはなかった。その日の試合が終わって1年を総括したイチローは、「できることは全部やった」と言い切り、充実感さえ漂わせている。

「一日(が終わって)帰る時にはもうくたくたでというのは、その日の目標でしたから、そこだけを見れば完遂したということになるでしょうね」

試合に出られない中でどう体力を維持し、技術を高めるのか。イチローは自分を追い込んだ。

「この状態でも怪我をなく過ごすことは結構大変なことなのでね。体のケアはもう自分でしか(できない)。それでもこの期間を過ごしたのは一つの抗体ができたのかなという気がします」

「イチローはキャンプにいる」

すべては来季の復帰を見据えてのこと。5月3日の会見でも、「それ(来季復帰の可能性)があることで明確に、遠いですけど、目標を持っていられるっていうのは、大きなことです」と話したが、ずっとそのことが支えになったよう。その思いにチームも早々に応えている。シーズン閉幕の翌日に行われた総括会見で、ジェリー・デュポット・ゼネラルマネジャー(GM)が、「イチローは、我々と一緒にキャンプにいるだろう」と踏み込み、半ば再契約を認めた。

「(2月には)きっとピオリア(マリナーズのキャンプ地)で打撃練習をしてるんじゃないかな。その結果で(その後については)評価をするが、東京に行ったとき、イチローがそこでプレーしているとしても、驚かないでくれ」

この会見を受けて地元メディアなどはさっそく、イチローとマイナー契約を交わして招待選手としてキャンプに参加するのでは、と報じたが、多分彼らは、後に訂正を迫られるのではないか。

マリナーズはおそらく、イチローとメジャー契約を交わす。

5月終わりのこと。イチローが選手登録を外れた経緯を知る人に事情を聞き、来季に話が及んだとき、マイナー契約、キャンプ招待という流れかと聞くと、即座に否定した。

「契約するということ自体、決まっているわけではない。しかし、契約するのであれば、それはメジャー契約だ。でなければ、イチローに対して敬意を欠くことになる」

海外で行われる開幕戦ではケガなどをした場合、すぐに補充ができないことから、選手の登録枠が「28」に増える。だからこそイチローにもチャンスがあり、通常の「25」に戻る米国での開幕戦では居場所がない――と指摘する地元記者が大半であり、敬意というなら、東京での開幕戦を花道とすることで十分ではないのか? と反論されそうだが、マリナーズの外野手の陣容は、そう言い切れるほど安定しているわけではない。

伸び悩む若手、イチローにチャンス

むしろ、イチローには追い風が吹いている。というのも今年は、期待していたベン・ギャメル、ギレルモ・ヘレディアといった若手が伸び悩み、主力のロビンソン・カノの出場停止に伴って中堅手のディー・ゴードンが二塁にコンバートされると外野手が足りなくなり、トレードで補強しなければならないという誤算が生じた。

来季は今のところ、右翼ミッチ・ハニガーと中堅ゴードンが固定だが、現時点で左翼は全くの白紙。ネルソン・クルーズが移籍して指名打者が空けば、カノがそこに入り、ゴードンが二塁に回る可能性もある。そうなれば、外野のポジションが2つ空くことになる。

9月、エンゼルス戦で勝利を挙げ、へレディア(左)とタッチを交わすイチロー=共同

補強の優先順位としては、先発投手とクルーズが抜けた場合の穴埋めだろう。様々なシナリオが想定できるものの、フェリックス・ヘルナンデス、カノらの長期高額契約に縛られて動きが取りにくいことを考えれば、左翼手と控え外野手という2つの枠をイチロー、ギャメル、へレディアの3人で争うという構図は、来年も変わらないのではないか。今年はそこでイチローがはじき出されたが、ギャメル、ヘレディアへの期待が低いことは、9月の消化試合で出たり出なかったりが続いたことでも透けて見えてくる。2人の力を見極めたいという思惑が働いた今季前半の状況とは異なる。

よってやはり、勝負が決まっているというわけではなさそうだ。もちろん、仮に同じような成績なら、若い選手に分がある。イチローはオープン戦から結果を残す必要がある。

しかし、そんな競争こそ、イチローが求めてきたものではないか。マーリンズ時代は、契約したときから第4の外野手として固定された。レギュラーが故障している間に結果を残しても、彼らが復帰すればまた、スタメンを外れた。今年も故障していたギャメルが戻ってくるまで、という期限付きだった。

あとは、イチロー次第だ。その争いが、公平なものであるのなら。

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