「なんとなく」スーツを選ぶな 自分の骨格を把握せよ
あなたの「骨格体形」に合うスーツを探す(上)
ボンジョルノ! 今回はイタリアは最高級テーラーが店を連ねる「ちょいワルオヤジ」発祥の地、ナポリで本稿をしたためています。「ナポリを見てから死ね」の言葉通り、圧巻の美しい景観とともに、さりげなくカラーパンツを格好良く着こなす男性が歩いていたり、キアイア通りにある銀行などのオフィスからランチに出かけるエリートたちのスーツ姿が決まっていたりと人間ウオッチングも楽しんでいます。

さて近ごろ、日本国内では、紳士向けオーダーメードスーツをめぐる競争が激化して、各社が新戦略を次々と打ち出しています。とりわけ注目されるのが、衣料品通販サイト「ゾゾタウン」を運営するZOZO(ゾゾ、旧スタートトゥデイ)です。
自動採寸用のボディースーツを無料配布しての「革命」。いつかは実現できるにしても、その日まで誰も形にできなかった、まさに「イノベーション」で、前沢友作社長の発想力と行動力には頭が下がります。
■完璧な採寸でも、体形に応じた修正が必要
しかし、スーツは身体に合ったものを着用するのが基本。ボディースーツによる全身採寸は素晴らしいのですが、それだけで、本当に本人に似合った1着を仕立てることができるのか疑問が残ります。
完璧な採寸でも、体形の特徴に応じた修正を入れないと美しく、着心地よいジャケットには仕上がらないからです。例えば、脚を長く、全身をすらりと、スタイル良く見せることができるのでしょうか。
確かにオーダースーツとワイシャツのセットが通常価格で4万円程度と、リーズナブルでコストパフォーマンスがとても良いと思います。しかし失礼を承知の上で申し上げれば、ゾゾのオーダースーツ参入の記者発表の写真をご覧いただけると、私の懸念がご理解いただけるのではないかと思います。
■ジャケットの丈が短すぎると脚が短く…
前沢社長のように小柄でスリムな体形の方ですと、ジャケットの丈や袖丈が少し長めだと、だらしない印象になりがちです。かといって、最近のトレンドのようにジャケットの丈を短めにし過ぎるのもお薦めしません。
ジャケットのフロントカットに丸みをつけて裾を広げ、脚の長さを演出することも大切ですが、パンツの股上部分、特にファスナーよりも下部を長く見せてしまうことで、脚を短く印象づけかねません。

もし、私が前沢社長にお薦めするとしたら、次のようなスタイルでしょうか。
生地は濃紺。写真ではジャケットの肩がややきつく見えるので、もう1サイズ大きくしたいところです。ただ、そうすると肩が悪目立ちしてしまうので、サイズはそのまま、肩の裄綿(ゆきわた=袖の付け根「袖山」の芯地)を少し削り、丸みをつけてはいかがでしょう。
ジャケットのボタンは高めの位置の2つボタンとし、腰高に見せて、すらりとした印象に。丈は写真のものよりも2センチほど長く、ベントタイプはサイドベンツ。パンツの裾はシングルを選びたいところです。
■まずは自分の骨格体形の把握を
サイズがぴったりでも、その人の生活習慣、身体のクセや鍛え方に応じて、細部を微調整することは必要不可欠で、最重要事項といえます。
さらに、この連載でも何度もお薦めしてきたように、「錯視」の効果を活用して、自身が持つ「特徴(場合によってはコンプレックスとなっている部分)」を「生かす」あるいは「さりげなくごまかす」ことも重要です。
まずは自身の骨格体形を、客観的に把握しましょう。「見せたい自分」になるために、スーツスタイルでもそれが不可欠です。骨格体形は主に以下の4つに分類できます。
代表的な体形とそれが与える印象
(1)マッスル
筋肉質でがっしりした体形 スポーツマンに多い
「頼りがいのある」「重厚感」「むさ苦しい」
(2)オーバル
ふっくらとした体形で肥満度をあらわすBMI(体格指数*)が25以上
「おおらか」「安心感」「包容力のある」「暑苦しい印象」
*身長に対し望ましい体重を判定する指数 BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
(3)ストレート
太っても、痩せてもいない、すらりとした体形 しっかりとした骨太タイプが多い
「精悍(せいかん)」「スマート」「軽快」「個性的でない」
(4)スリム
やせ形で、ひょろっとした体形
「中性的」「若々しい」「頼りない」
これらの骨格体形に身長175センチメートル以上、または170センチ以下の2分類を加えると、周りに与える印象がより細分化していきます。
上述の体形に当てはまらず、複数の骨格体形の傾向がみられるようなら、特に近いと思う体形を2つに絞るとよいでしょう。
自らの骨格体形を把握せず、「なんとなく」という感覚だけでスーツを選ぶと、「残念な人」に陥ってしまいがちです。

例えば、小柄な方であれば「身体を大きく見せたい」、体格の良い方であれば「おなかを目立たせたくない」――そんな思いから、いずれの場合も大きめのサイズを選ぶことが少なくありません。これが逆効果となってしまうのです。
体形を知っていれば、上着を3つボタンにすべきか、2つボタンにすべきなのか、シングルとダブルではどちらが自分を引き立てるのか、を見極めることができます。さらに、脚の長さも把握しておけば、上着はセンターベントにすべきかサイドベントがよいのか、はたまたノーベントにした方が脚長に見えるのかを知ることができます。
■着こなしに奥行きを与える装いへの愛情
今回、ナポリで老舗リストランテを訪れたときのことです。70歳代後半とおぼしきオーナーの紳士が、美しくジャケットを着こなし、テーブルへ挨拶にやってきました。そのジャケットは長年大事に着用してきたようで、、着古した感はあったものの、その分、思い入れが伝わってきたような気がしました。
スーツも、その年、その年の流行で、ジャケットの着丈やパンツのウエストの位置、前ボタンの数、肩のシェイプなども変わっています。でも、良いものを長く大切に使い、父親から息子へと引き継がれていく――。そんな洋服への愛情がイタリア人の格好いい着こなしに奥行きを与えているのだと思います。
次回は体形のタイプ別に、それぞれにあったスーツをご紹介します。

スタイルファクトリー社長、パーソナルスタイリスト協会代表理事。武蔵野美術大学短期大学部卒、全日本空輸で国際線客室乗務員として勤務した後、独立。エグゼクティブを中心にしたスタイリングやファッションプロデュース、研修などを手がける。著書に「桁外れの結果を導く 一流の男の演出力」など。
「魅せる男のセルフプロデュース」記事一覧
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