2018年11月16日(金)

(対決関西)日本の「食」発信 大阪・黒門市場vs京都・錦市場

サービス・食品
小売り・外食
関西
2018/10/12 6:00
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錦市場(京都市)と黒門市場(大阪市)はともに関西の食文化を支えてきた。最近は食材供給の拠点としてだけでなく、インバウンド(訪日外国人)ら観光客が「日本食」を味わう人気のスポットでもある。黒門は新たな客層を交流サイト(SNS)などを駆使して積極的に取り込む。一方の錦は本来の卸機能との両立にこだわる。(田村城、赤間建哉)

■黒門 SNSウケ、店主率先

カキをさばく様子をスマートフォンなどで撮影する訪日客(大阪市の黒門市場)

カキをさばく様子をスマートフォンなどで撮影する訪日客(大阪市の黒門市場)

黒門市場のほぼ中央に店舗を構える西川鮮魚店。経営者の長男、西川翔悟さん(27)が店頭でカキの貝殻を手際よく割り出していく。その様子をスマートフォン(スマホ)で撮影しようとインバウンドらが人だかりをつくる。西川さんは「撮った写真を母国のSNSにアップしてもらうことを意識している」と話す。

「写真を撮られると怒る昔気質の商店主が多かった」(黒門市場商店街振興組合の吉田清純副理事長)のは今や昔。口コミが集客に絶大な効果を発揮するようになり、外国語で「どうぞお気軽にブログやSNSに写真をアップしてください」とのポップを掲げるなど“インスタ映え"を意識した店舗が増えている。

今年3月の調査では、1日の来街者数は5年前より約25%多い約2万9千人だった。その7~8割を占めるとされる訪日客は、関西国際空港が9月の台風21号で被災した影響で一時期、急減。インバウンド比率の高さがリスクとして浮き彫りになった。

ただ、「来街者の減少でじり貧だった中、インバウンド需要は神風だった」(青果店の経営者)との声が大勢。新たな商機や顧客に柔軟に対応するのも大阪商人らしさで、食べ歩きを楽しむ訪日客に調理済みの肉や魚介を売るスタイルは当面続いていくだろう。

組合もこれまで訪日客へのサービス強化を進めてきた。市場で購入した食べ物を持ち込んで食べられる休憩所を設け、英語や中国語、韓国語を話せるスタッフを置く。さらに休憩所内に外貨両替機も設置した。2017年からは店主や接客スタッフが無料で英会話を学べる教室も始めた。

インバウンド以外の顧客の呼び込みにも熱心だ。17年には大阪で活動するプロのラッパーに依頼し、市場のプロモーション動画を作成した。「♪くろもん(黒門) ええもん ほんまもん」と韻を踏んだ日本語の歌詞とラップ音楽にあわせて商店街の日常風景が次々に映し出される約4分の力作だ。

「もっと日本人の若者にも黒門に関心を持ってもらいたい」(吉田副理事長)と、動画投稿サイトにアップした。SNSやラップ音楽といった新たなツールでファン開拓を進めている。

■錦 卸伝統、食材こだわり

客に食材について説明する斗米庵の料理人(右)。錦の食材調達力のアピールに一役買う

客に食材について説明する斗米庵の料理人(右)。錦の食材調達力のアピールに一役買う

「京の台所」と名高い錦市場は400年以上にわたって京の食文化を支えてきた。幅3.5メートル、東西390メートルの小径には約130の店舗がひしめき合う。近年は観光客がが増えたために食べ歩き客を意識した店が目立つが、本来の新鮮な魚介や野菜などの卸売り機能を維持しようとする取り組みも始まった。

錦市場にある薄暗い路地を入ると、4月に開店した「斗米庵(とべいあん)」がある。魚介や野菜、乾物など全て錦で仕入れた素材を使ったランチとディナーを提供する。水も錦の井戸水を使うこだわりようだ。

京都錦市場商店街振興組合とNPO法人の京都文化協会がプロジェクトを起案し、日本財団が資金面でサポートした。有名割烹(かっぽう)の「祇園さゝ木」がメニューを監修する。

「この食材は錦のどこで買えますか」。鮫島誠料理長は、お客に尋ねられると思わず嬉しくなる。「錦の食材はいいモノばかり。少々値段は張るが仕入れる価値がある」。実際に口にしてもらうことで「錦の食材調達力をアピールする」(京都文化協会の田辺幸次氏)狙いだ。

10月には京都の有名料理人のコース料理の提供を開始。来春、観光客が料理人と一緒に市場を回って食材を仕入れるツアーも始める。選んだ食材で懐石料理の夕食を堪能してもらう。

錦市場の発祥は江戸時代に魚問屋の称号を許された「京の三店(さんたな)」だ。昭和初期、全国で初めて京都市内に中央卸売市場が誕生。鮮魚店が中央市場へ移るなかで、魚介に加え乾物や漬物など独自色を出して危機を乗り越えてきた。

かつては旅館や料亭などに高級食材を卸す店が多かったが、近年は手軽に「日本食」を味わいたいインバウンド向けに魚介や肉料理を串に刺して販売する店が目立ってきた。市場のにぎわいを生む一方で「卸売りという錦本来の機能が失われかねない」と同振興組合の宇津克美理事長。こうした危機感が斗米庵を立ち上げた背景にある。

卸売り機能が支える「食へのこだわり」を守りつつ、いかに新たな顧客層に対応するのか。「食」と同じく「バランスを大切」(宇津理事長)にしながら解を探る。

■信用守る目利き力
 市場本来の役割・機能を重んじる錦市場と、ラップ音楽やSNSを発信手段として取り入れる黒門市場。発展を目指す両市場の方向性は「伝統と格式」の京都、「にぎやかで派手」な大阪という街のイメージとも重なる。互いの取り組みをヒントにすることで市場に意外な一面が加わり、魅力が増すのではないか。
 観光客の急増は地元客(住人)との共存という新たな課題を生んだ。環境の変化は進むべき方向に迷いを生じさせかねないが、「もっとも大切なことは食材の目利き力」(京都錦市場商店街振興組合の宇津克美理事長)というのが食品市場の生命線であることは間違いない。良質の食材を提供し続けて築いた信用を守ることは、訪日客と地元客の双方から支持されることにつながるはずだ。

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