2018年12月14日(金)

FRB、利上げシナリオに試練 市場と政治の圧力

トランプ政権
経済
北米
2018/10/11 18:00
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【ヌサドゥア(バリ島)=河浪武史】米株価急落で米連邦準備理事会(FRB)の利上げシナリオが試練を迎えている。政策金利は既に2%を超えており、パウエル議長も「上下双方向のリスクを見極める」と機械的な利上げからの転換も示唆する。トランプ米大統領は「FRBは狂ってしまった」と異例の口調で株安の責任を押し付けており、政治との間合いも課題になる。

トランプ米大統領はFRBの利上げを批判した(10日)=ロイター

パウエルFRB議長(9月、ワシントン)=ロイター

「FRBには同意できない。引き締めすぎだ」。トランプ氏は株価が急落した10日、遊説先のペンシルベニア州で記者団にまくし立てた。トランプ氏は就任後の株高を自身の手柄と誇ってきただけに、11月の中間選挙を目前にした株価急落に困惑を隠せない。

トランプ政権が仕掛ける貿易戦争など、突然の株安の要因はいくつもあるが、FRBの利上げが主因の一つであることも間違いない。9月下旬に今年3回目の利上げに踏み切り、長期金利の一段の上昇を招いたからだ。

今年2月に就任したパウエル議長が政策運営で独自色を出し始めたことも、市場の混乱につながっている。FRBは長期的に適切とされる水準である「中立金利」や「自然失業率」を試算。実際の金利や失業率をその推計値に近づけるように政策運営してきた。

だが、パウエル氏は8月末の国際経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で中立金利や自然失業率を指して「推計が不正確で、あとからいくらでも変化する」と政策面で重視しない姿勢を表明。ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁らは中立金利が利上げ停止の一つの目安と示唆してきたが、市場はパウエル氏の発言で先行きの利上げシナリオに迷いを持つことになった。

実際、パウエル氏は10月の講演で「雇用の逼迫がインフレ圧力を高める可能性を真剣に受け止めている」と強調。市場は中立金利を超えて利上げが進む可能性を意識せざるをえなくなった。FRBは中立金利の水準を3.0%とみているが、政策当局者が公表する利上げ見通しでは3.5%まで政策金利を引き上げることが中心シナリオとなっている。

FRBが利上げを早期に停止するのか、利上げを3.0%を超えて長引かせるのか。市場が迷いを抱くなかで、パウエル氏は「先行きの金融政策は経済データ次第だ」と繰り返し、投資家は足元の景気指標に敏感になっていた。5日には9月の雇用統計が公表され、失業率が約48年ぶりの水準に改善。その後も企業の景況感指数や卸売物価指数が事前予想を上回り、市場参加者は「FRBの利上げがさらに続きそうだ」との判断を強めていった。

ただ、FRBが自ら中立金利と判断する水準を超えて利上げしていけば、トランプ氏が主張するように「引き締めすぎ」になりかねない。パウエル氏は「物価上昇率が2%を超えて過熱する兆候はみられない」とも話しており、金融市場の変調が長引けば、利上げをひとまず停止する可能性も出てくる。FRB高官は「中立金利を超えて利上げするには、インフレなど十分な理由が必要になる」と指摘する。

FRBがその理由を説明しなくてはならない相手は市場だけではない。2020年には大統領選を控えており、ホワイトハウスの圧力は一段と強まりそうだ。大型減税の効果は19年後半から徐々に弱まる見通しで、景気面でもFRBが追加利上げ路線を堅持するのは簡単ではなくなる。

「雇用が増えて経済成長が加速する分には、インフレは発生しない」。ホワイトハウスの経済政策の司令塔であるクドロー国家経済会議(NEC)委員長はそう主張する。大型減税で生産性や労働力人口が上向くため、FRBが懸念するような供給不足によるインフレは起きないという理屈だ。

トランプ氏がFRBの利上げに真っ向から反発するのは、単なる感情論ではなく、こうした側近の入れ知恵がある。パウエル議長は「政策判断に政治的な要素は加味しない」と中央銀行の独立性を強調するが、トランプ氏の発言の背後にあるホワイトハウスとFRBのマクロ経済観の違いは簡単には解消できそうにない。

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