2019年6月27日(木)

災害大国日本、高専生が我が街を守る
高専に任せろ!2018

日経産業新聞
コラム(ビジネス)
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2018/10/12 6:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

高等専門学校生(高専生)の技術が世の中で活用されはじめている。技術系ならではのものづくりの発想と若き純粋な心が原動力だ。「高専に任せろ!2018 第3部」は、地域に寄り添って課題解決に挑む「ソーシャルドクター」ともいうべき高専生らの学びの現場を報告する。初回は手のひらにすっぽり収まるスマートフォン(スマホ)が命を守る物語だ。

高知高専が開発した「つながっタワー」のアプリ画面

高知高専が開発した「つながっタワー」のアプリ画面

8月29日午前11時、高知市に隣接する南国市内に設置された62カ所の防災無線から一斉にJアラート(全国瞬時警報システム)が鳴り響いた。約4万7千人の市民を地震や津波などから守るための防災無線の訓練だ。

土佐湾を望む南国市は南海トラフ巨大地震が起きた場合、最大で16メートル程度の津波が押し寄せる。沿岸部を中心に、市内の14%(1721ヘクタール)が津波浸水地域に指定され、建物被害は3200棟に達するとの予測もある。

有事の防災拠点として期待されるのが、沿岸部に設けられた高さ10メートル強の「津波避難タワー」。津波から逃れてタワーにたどり着いた市民らが階段を上るとスマホが振動し、あるアプリが自動で起動。そして安否確認情報の画面が現れてタップを促す――。そんなシナリオを想定している。

アプリの名称は「つながっタワー」。南国市に校舎を構える高知工業高等専門学校(高知高専)の学生たちが2014年に開発したものだ。高専生による地域の課題解決は「社会実装」と呼ばれている。国立高等専門学校機構の谷口功理事長は「高専生らは社会に役立ちたいという志が極めて高い。社会の課題を工学的に理解して自ら機械を製作し、実際に試すことで成果を上げている」と述べる。最近ではそんな高専生の姿勢をソーシャルドクターと評する動きも出てきた。高知高専の取り組みは顕著な事例だ。

■携帯不通でも安否確認

南国市民がスマホにダウンロードしているこのアプリは、どんな機能があるのか。東日本大震災では、災害直後の通信インフラの障害がネックとなった。携帯電話回線がつながりにくくなれば、救助や救援物資の手配などにも影響が及ぶ。ましてや安否確認もままならない。そこを解決するのが、つながっタワーを活用したシステムだ。

津波避難タワーは沿岸部の農耕地に、計14基が並んでいる。タワーの上階にはアナログな「半鐘」と並んでバッテリーで駆動するビーコン(電波受発信機)を設置。スマホの接近を察知すると、ビーコンがアプリを起動する命令をスマホに発する。そしてアプリに登録された自身の名前や生年月日といった基本情報と現在いるタワーの場所とがセットでクラウドに送信される仕組みだ。

アプリには掲示板機能があり、家族や知人がどのタワーにいるかを確認できる。「水が足りない」「避難所が満員だ」といった避難状況もやり取りできる。

これらのサービスは、携帯電話回線がダウンしても使える点が特長だ。中核タワー1基が宇宙航空研究開発機構(JAXA)の衛星インターネットにつながり、さらに600メートルほど離れた隣接するタワー同士が無線LAN(構内情報通信網)で結ばれているためだ。市役所には衛星ネットの受信アンテナが設置され、各タワーの状況を把握して救助や支援の計画策定に役立てる。

開発したのは高知高専の今井一雅教授の研究室にいた佐々木渉さん、島内良章さん、南光成さん、森国健吾さんの4人の学生。研究テーマは「ビーコンの応用」だった。

南国市民の防災意識は津波避難タワーが建設される前は現在ほど高くなかった。沿岸部には走って数分ほどの範囲に小高い丘がなく、いざ巨大津波が押し寄せてきても、なすすべが無かったにもかかわらず。それが13年から14年にかけて津波避難タワーが急ピッチで建設されたことで、市民の意識も変わった。

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