深まる秋を体感 黄金に染まるススキの絶景10選
発電や紙資源に 欧州で有効活用
「萩(はぎ)の花 尾花 葛花 なでしこの花 をみなへし また藤袴(ふじばかま) 朝貌の花」。山上憶良が万葉集で詠み、秋の七草の一つに数えられているススキ(尾花がススキのこと)。東アジアで広くみられ、北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの山田敏彦教授によると「日本ではハチジョウススキ、トキワススキなど10種類近くある」。
ススキはチガヤやヨシなどとともに、かやぶき屋根に使われ、日本各地で生産されていた。夏は涼しく、冬は暖かいからだ。しかし瓦屋根が取って代わると、人が野焼きなどの手を加えなくなり、ススキ野原は徐々に森林へと姿を変えている。「かつて国土の10%ほどあったのが今は3%ぐらい」(山田教授)
かつて観賞用に輸出されたススキは近年、欧州でバイオマスとして注目されている。石炭などに混ぜて火力発電の燃料にしたり、非木質系の紙資源として脱プラスチックの材料にも使われたり。日本でも山田教授らが有効利用を目指して試験栽培を実施し、燃料用ペレット化などの道を探っている。
大草原と雄大な景色

世界有数の巨大カルデラ(火山活動によって生まれた凹地)を持つ阿蘇には、2万ヘクタール以上の広大な草原が広がっている。「秋になると、その大草原の多くがススキ野原に変わるのは圧巻の一言」と楠見邦博さん。
ミルクロードをドライブして高所まで行くとススキ野原が延々と続く。大観峰などのビューポイントに駐車すれば、ススキ越しにカルデラ壁や阿蘇五岳の雄大な景色が望める。「広大なススキ野原で行われる早春の野焼きは、どのような火の回り方をするのだろう、と想像しながら眺めるのも楽しい」と山田隆彦さん。かぶと岩展望所の向かいにはすすきの迷路がある。尾根づたいに整備された全長約30キロの南阿蘇外輪山自然歩道を歩いてみるのもよい。
早朝、条件が良ければ雲海が広がる景色に出合うことも。「ススキとの幻想的な競演は思わず息をのむ美しさ」(井上嘉代子さん)
(1)11月上旬まで(2)熊本空港から車で約1時間(3)阿蘇市観光課(電話0967・22・3174)
富士山も見える絶景スポット

パノラマ台は山中湖から三国峠へ至る県道の途中にある絶好のビューポイント。秋になるとススキ野原が広がる。「眼下に山中湖、その向こうに富士山。ススキ越しに望めば秋を満喫できる。天候や時間で変化する空のグラデーションも楽しめる」と内海聡さん。「富士山は午後になると雲がかかることが多いので朝の早い時間が良いかもしれない。しかし、ススキ野原の向こうの富士山の裾野に夕日が沈む景色も捨てがたい」(竹本りかさん)
パノラマ台は駐車場が約10台分しかないため、山中湖交流プラザきらら前から約40分のトレッキングで汗を流すのも楽しい。「さらに40分ほど歩いて明神山まで登れば、ススキ野原を山頂から見下ろせる」(早川宗志さん)
(1)10月下旬まで(2)東富士五湖道路・山中湖ICから車で約30分(3)山中湖観光協会(電話0555・62・3100)
昼・夕・夜…多彩な表情

関西屈指のススキの名所。約40ヘクタールの広大な草原が、秋になるとススキに覆われる。「ススキの密度が高く、『美しい村』を象徴する風景」(山田敏彦さん)。「標高差のある山肌に広がるススキ野原は下から見ても、上から見ても見応えがある」と早川さん。
1日に3回表情を変えるのも見どころだ。昼は太陽の光を浴びて銀色に輝き、夕方は夕日が反射して黄金色に。夜は灯籠の明かりに照らされ、幻想的な姿に浮かび上がる。「傑作写真を撮りに訪れてみたい。1日に何度でも楽しめそう」と竹本さん。
高原の中央には「お亀伝説」が残る池もある。ただ「理由は分からないが、近年、ススキの生育がやや良くない」(曽爾村企画課)のは気になるところだ。
(1)11月中旬まで(2)名阪国道・針ICから車で約45分(3)曽爾村企画課(電話0745・94・2106)
キラキラなびく大群落

車山高原から霧ケ峰一帯にかけてススキの大群落が広がる。「白樺湖から吹き上げる風に花穂がキラキラなびく姿は、大海原に波が押し寄せるよう」と井上さんは評する。
「ススキ越しに八ケ岳やアルプスの山々を遠望する素晴らしい眺望も魅力」(内海さん)で、「ビーナスラインを車で走って道脇のススキを眺めたり、展望リフトに乗って上から眺めたりと色々な楽しみ方ができる」(山田阿友美さん)。
(1)10月下旬まで(2)JR茅野駅からバス約1時間(3)ちの観光まちづくり推進機構(電話0266・73・8550)
一面に広がる白銀の花穂

首都圏から手軽に行ける関東屈指のススキの名所。高台まで折り返しながら上っていく一本道の遊歩道が整備されて、一面に広がる白銀の花穂が楽しめる。
「他の地域より密生しているようでボリュームがすごい。圧巻」と山田隆彦さん。「起伏があるので低いところから見上げたり、小高い丘から見下ろしたりと様々な構図の撮影が楽しめる」(竹本さん)。ただ、シーズン中は観光客が多く、「三脚の置き場所などに気を使う」との声もあった。
(1)11月上旬まで(2)箱根登山鉄道・箱根湯本駅からバス約40分(3)箱根町総合観光案内所(電話0460・85・5700)
遊歩道で散策、銀穂楽しむ

2010年公開の映画「ノルウェイの森」や大河ドラマ「平清盛」のロケ地にもなった。関西屈指のススキの名所で、「(約90ヘクタールにもわたる)雄大な高原に銀穂がなびく姿に思わず目を奪われる」と山田阿友美さん。
遊歩道も整備され、代表的な1周約3キロのコースは「ゆっくり散策するのにちょうどよい。池があったり、展望台があったり様々な表情のススキに出合える」(竹本さん)。21日にはすすき祭りを開催予定で、特設ステージで音楽イベントなどを楽しめる。
(1)11月上旬まで(2)播但連絡道路・神崎南ランプから約40分(3)神河町観光協会(電話0790・34・1001)
カルスト台地に群生

日本最大級のカルスト台地には、秋になると石灰岩の岩肌を覆い尽くすようにススキが群生する。「広大なスケールで、カルストロードに沿って車を走らせながらススキ野原が楽しめる。長者ケ森駐車場からの眺めは壮観」と山田隆彦さんは推す。
アキヨシアザミなど「希少な好石灰岩植物も生育している」(早川さん)。ススキと合わせて観察しながら巡ると楽しい。
(1)11月中旬まで(2)JR新山口駅からバスで約45分「秋芳洞」下車。秋芳洞から土日祝は循環バス、平日は乗合周遊タクシーを利用(3)美祢市観光協会(電話0837・62・0115)
黒の大地と白のコントラスト

過去の噴火を物語る場所が「ジオサイト」として多数指定されている三原山。秋になるとマグマのしぶきが大地を焼いた黒の世界と、ススキの穂の白が見事なコントラストを描く。
「荒々しい溶岩との対比が楽しめる。海の景色も魅力」と市毛良枝さんは薦める。「溶岩流の噴出年代を反映して発達程度の異なるススキの景観が素晴らしい。人為の影響を受けずにススキが生育している稀有(けう)な場所」(西脇亜也さん)
(1)10月下旬~11月中旬(2)元町港か岡田港から三原山山頂口までバス約25分(3)大島観光協会(電話04992・2・2177)
自然の天堂で九重連山仰ぐ

九重連山を仰ぎ見る風光明媚(ふうこうめいび)な高原。川端康成は小説「波千鳥」の中で、飯田高原のことを「私は大きい自然の天堂にいるようです。――ああ、来てよかった。と私は声に出して言いました」と表現している。
秋になると広大なススキ野原が広がる。「九重連山をバックにするススキは一幅の絵」(楠見さん)。タデ原湿原周辺の自然研究路を歩くのもお薦め。「高原の緩やかな起伏がススキを優雅にうねらせる。春の野焼きも必見」(内海さん)。
(1)11月中旬まで(2)JR豊後中村駅からバス約40分(3)九重・飯田高原観光協会(電話0973・79・2381)
万葉集の世界に迷い込む

歴史遺産である平城宮跡の周囲にはススキやオギ、ヨシなどが生い茂り、秋の古都を訪れる人々の目を楽しませる。「大極殿や朱雀門をバックにした風景は、万葉集の世界に迷い込んだようだ。『人皆は萩(はぎ)を秋と言うよしわれは尾花が末を秋とは言はむ』の句が浮かんでくる」と山田隆彦さん。
古都とススキの組み合わせは「外国人観光客に受けそう。近鉄電車を入れて撮影もでき、鉄道ファンも満足」(森戸香奈子さん)。
(1)11月中旬まで(2)近鉄・大和西大寺駅から徒歩約20分(3)平城宮跡管理センター(電話0742・36・8780)
◇ ◇ ◇
ランキングの見方 数字は専門家の評価を点数化。名称と所在地。(1)例年の見ごろの時期(2)アクセス(3)連絡先。写真は1位が岡田真、2位は冨塚晴夫撮影。3位曽爾村、4位ちの観光まちづくり推進機構、5位箱根町、6位神河町観光協会、7位秋吉台エコ・ミュージアム、8位大島観光協会、9位九重・飯田高原観光協会の提供。10位はAlamy/PPS通信社提供。
調査の方法 全国のススキの名所の中から、専門家への取材を基に24カ所を事前にリストアップ。訪れてみたい、写真に撮りたい、歩きがいがあるなどの観点から、専門家12人にお薦めの場所を1~10位まで順位をつけてもらい、編集部で集計した。
今週の専門家 市毛良枝(俳優、日本トレッキング協会理事)▽井上嘉代子(風景写真家)▽内海聡(JTB国内仕入商品事業部)▽楠見邦博(日本トレッキング協会監事)▽越谷英雄(同協会常任理事)▽竹本りか(風景写真家)▽西脇亜也(宮崎大学農学部フィールドセンター教授)▽早川宗志(ふじのくに地球環境史ミュージアム)▽森戸香奈子(じゃらんリサーチセンター研究員)▽山田阿友美(KNT-CTホールディングス国内旅行部)▽山田隆彦(日本植物友の会副会長)▽山田敏彦(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター教授)=敬称略、五十音順
[NIKKEIプラス1 2018年10月13日付]
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