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米IT界の巨人が医療スタートアップに巨額投資

 米国のスタートアップ投資で脚光を浴び始めているのが医療分野だ。バイオ関連から保険、遠隔医療と幅が広い。医療の先端技術を巡って急速にIT(情報技術)化が進んでいることが背景にある。「医」に流れる巨額のマネーの出どころを探れば、IT業界でおなじみの面々が現れる。グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムのいわゆる「GAFA」を筆頭とするテックジャイアントたちだ。投資を通じてスマートフォン(スマホ)の次を担う事業の種を探る布石を着々と打っているのだ。

米IT企業は医療業界に狙いを定めている。医療は患者に提供した診療に基づいて報酬を計算する「出来高払い」から、患者の価値基準に基づいた治療へとシフトしつつある。医療保険や電子カルテ、遠隔医療、バイオテクノロジーなどの分野では企業価値が10億ドルを超える「ユニコーン」が続々と誕生している。ここ数年はIT大手がこぞって参入し、社内での研究開発や未上場企業への投資に力を入れている。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週1回掲載しています。

例えばアマゾンは最近、処方薬のインターネット販売を手掛ける米PillPack(ピルパック)を買収して医薬品販売に参入した。米グーグルはオンラインで医療保険を提供する米Oscar Heatlh(オスカーヘルス)に3億7500万ドルを投じ、出資比率を10%に高めた。

CBインサイツは9月16日時点の時価総額に基づきIT企業トップ10のリストを作成。各社による医療分野の未公開企業への投資活動について分析した。

トップ10に入ったのは次の企業と傘下のベンチャーキャピタル(VC)だ(AT&Tやコムキャストなどの通信会社は医療業界への投資が非常に少ないため、リストから除外した)。

1. アップル
2. アルファベット(グーグルの親会社)
3. マイクロソフト
4. アマゾン
5. フェイスブック
6. ゼネラル・エレクトリック(GE)
7. オラクル
8. インテル
9. シスコシステムズ
10. IBM

米IT大手10社による2012年以降の医療業界への投資件数は209件に上り、25社の買収に計47億ドルが費やされた。

18年の投資件数は27件と、すでに14年通年に並んでいる。このペースを維持すれば18年通年では41件となり、過去最高を記録した17年の45件に迫る。

医療スタートアップ企業への投資が最も盛んなのはグーグルとゼネラル・エレクトリック(GE)だ。GEは6月にヘルスケア事業を売却する方針を明らかにしたが、傘下の投資部門GEベンチャーズを通じてこの分野への投資を続けている。

大型資金調達には、グーグルが親会社アルファベット傘下の投資部門CapitalG(キャピタルG)とVerily Life Sciences(ベリリーライフサイエンシズ)を通じて参加したオスカーヘルスのシリーズDラウンド(調達額1億6500万ドル)や、アルファベットによるオスカーヘルスへの出資(3億7500万ドル)、GEベンチャーズが参加した地域包括ケアを提供する米Iora Health(アイオラヘルス)のシリーズEラウンド(1億ドル)などが挙げられる。

米IT大手の医療業界への投資件数(12年~18年9月6日)

このヒートマップで示した通り、IT大手が最近注目しているのはバイオテクノロジー部門だ。この部門への投資36件のうち、23件が16年10~12月期以降に集中している。一方、医療ネット通販への関心は薄く、15年以降は新規投資が1件もない。

部門別のIT大手の投資件数(12年~18年9月6日)

医療機器・設備への投資は最近減少しており、今年はまだゼロだ。GEが18年6月にヘルスケア部門の売却を発表したのも減少の一因に挙げられる。12年以降の医療機器部門への投資37件のうち、同社が参加した案件は21件に及ぶ。

事業相関図

(オレンジの線は買収、緑の線は出資を表す)

IT大手による医療業界への投資(12年~18年9月6日)

この相関図に記載されている一部の企業は複数のIT大手から出資を受けている。こうした企業は、医療データ解析を手掛ける米Verana Health(ベラナヘルス)、拡張知能の開発に取り組む米CognitiveScale(コグニティブスケール)、がんの早期発見システムを提供する米GRAIL(グレイル)、DNAデータを提供・管理する米DNAnexus(DNAネクサス)、心臓血管の遺伝子診断を手掛ける米CardioDx(カーディオDx)だ。

グーグルは米国で医療業界に最も積極投資しているIT企業だ。グループの様々なVCを通じ、18年のIT大手が参加した医療業界の大型資金調達トップ15件のうち、14件に加わった。

アルファベットはこのほど、傘下のGV、ベリリー、キャピタルGに続き、オスカーヘルスに出資したグループ4番目の企業となった。オスカーヘルス以外に複数のグーグル関連企業(GVとベリリー)から出資を受けているのは、がんの早期発見を目指す米Freenome(フリーノム)だけだ。

グーグルはバイオテクノロジー部門に積極投資しており、12年以降のこの部門への投資36件のうち30件に参加している。臨床試験(治験)の第1段階にある新薬で米食品医薬品局(FDA)の承認にこぎ着けるのはわずか1割と、この分野は比較的リスクが高い。だがグーグルは最近、創薬ベンチャーの米Alector(アレクター)がアルツハイマー病治療薬の研究開発費を調達するために実施したシリーズEラウンド(1億3300万ドル)に参加した。アルツハイマー病治療薬は03年以降1件も承認されていない。

GEは6月にヘルスケア事業を売却する方針を発表するまでは、企業買収が最も多く(25件中12件がGEの案件)、グーグルに次いで2番目に活発な投資家だった。とはいえ、この分野への投資から撤退したわけではない。最近も米スタンフォード大学メディカルセンターと共同で健康医療関連のデータ構築に取り組む米Evidation Health(エビデーションヘルス)と、ベラナヘルスに出資している。

アップルは自前のヘルスケアサービス「ヘルスキット」「ケアキット」「リサーチキット」の開発に重点を置いている。17年5月には睡眠記録アプリを手掛けるフィンランドのBeddit(ベディット)を買収し、16年には個人の健康情報を管理する米Gliimpse(グリンプス)を取得している。

IBMは投資部門とIBMワトソン・グループの両方を通じて投資しているが、16年以降は医療業界への投資は1件もない。それまでは医薬品と遺伝子解析に焦点を定め、14年と16年には遺伝子解析大手の米Pathway Genomics(パスウェイ・ゲノミクス)、16年には創薬ベンチャーの米Lodo Therapeutics(ロド・セラピューティクス)や米Petra Pharma(ペトラファーマ)、米ApoGen Biotechnologies(アポゲン・バイオテクノロジーズ)に出資している。

アマゾンは今年6月にピルパックの買収を発表したのが医療業界への最大の関与だ。それまではグレイルと、乳児モニタリングサービスの米Owlet Baby Care(オウレット・ベイビー・ケア)への出資にとどまっていた。

インテルは医療スタートアップへの投資は全て傘下のVC、インテル・キャピタルが担っている。最近はデータの活用と予測分析により病院での治療の質を改善する米Lumiata(ルミアタ)、結腸がんの非侵襲的検査ツール開発に取り組む米EchoPixel(エコーピクセル)に出資している。

その他では、フェイスブック、マイクロソフト、シスコ、オラクルの12年以降の医療業界の未公開企業への投資はいずれも限定的だ。マイクロソフトはこのうちで16年以降に医療業界に投資している唯一の企業だ。18年1月、DNAネクサスのシリーズDラウンド(5800万ドル)にGVと共に参加。17年には糖尿病管理を手掛ける米Livongo Health(リボンゴヘルス)のシリーズDラウンド(5250万ドル)に出資した。フェイスブックは14年、フィンランドのライフログアプリ開発会社Moves(ムーブス、旧ProtoGeo〈プロトゲオ〉)を買収した。

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