2019年8月18日(日)

中小M&A、経営承継支援が挑む手数料の壁

日経産業新聞
2018/10/10 6:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

経営者の高齢化と後継者難による中小企業の大廃業時代が迫る。M&A(合併・買収)による事業承継が有効な対処策とされるが、売上高数億円以下の小規模企業の大半は仲介手数料の高さからM&Aをあきらめている現実がある。経営承継支援(東京・千代田、笹川敏幸社長)は、資産査定などの手順を標準化し手数料を抑え、中小に救いの手を差し伸べる。

「無事承継先が見つかり、高齢者の方がそのまま継続利用できた。本当に良かった」。千葉県の訪問介護事業所を経営していた70歳代の男性はこう振り返る。

笹川敏幸社長

笹川敏幸社長

同事業所は年間売上高4千万円と規模は小さかったが、稼働率は高かった。事業をなんとか存続させたいと思ったが、なかなか自力では引受先が見つからない。悩んだ末に大手M&A仲介会社や地域の金融機関などに事業売却を相談したが取り合ってもらえず、最終的に経営承継支援に行き着いたという。

大手が嫌がる案件をなぜ経営承継支援は扱えるのか。笹川社長はまず、仲介業務を手掛けるコンサルタントの評価指標を仲介手数料の取扱高から、案件の取扱件数に変えた。仲介手数料を基にするとコンサルタントはどうしても大型案件ばかり追ってしまう。経営承継支援が扱う案件の手数料は一件500万円規模のものも少なくない。2000万円前後とされる業界標準の4分の1だ。

さらに低い手数料でも収益を確保できるよう、M&Aに必要な資産査定などの仲介作業をマニュアル化。なるべく少ない工程数で済ませるように工夫している。

特に薬局や介護事業所など業界ごとにまとめれば、手順を標準化しやすい案件は多いという。結果、経営承継支援のコンサルタントの1人あたり成約件数は年間5件弱と大手の約3倍の水準になっている。

実は笹川社長は業界大手の日本M&Aセンター出身だ。大学卒業後、為替ディーラーとして活躍したが、バブル崩壊で業界への風当たりが強くなり、当時の勤務先が募集した早期退職に応募した。その後、知り合いが勤務していた日本M&Aセンターの存在を知り「つぶれそうな会社の事業が買収で存続できるという社会的意義に感動した」と入社を決めたのが業界入りのきっかけだった。

ところが仕事をするなかで「小さな案件」を手掛けたがらない業界の慣習に疑問を持つようになる。「なんとか小規模事業者を救う仕組みが作れないか」。そう模索するなかで多くの経営者と接するうちに「自分でも起業したい」という気持ちが日増しに高まっていった。15年、小規模事業者のM&Aに特化した仲介会社を立ち上げた。

当初は苦労も多かったという。小さな案件は、買い手企業探しが難しい。売り手企業の事業規模が大きければ目星がつき打診もしやすいが、売上高数千万円規模の事業となると、どのような企業が欲しがるのか、見当がつかなかったからだ。

試行錯誤を繰り返し、地域の金融機関との連携や、M&A情報サイトを運営するトランビ(東京・港)などとの連携を強化することでマッチングノウハウを積み重ねた。笹川社長の理念に共感する優秀な人材も大手コンサルなどから次々参画し陣容も整いつつある。

独特の立ち位置に注目度が集まり、業界大手との提携も進む。17年6月には古巣の日本M&Aセンターや不動産開発のディア・ライフなどから約1億円を調達した。日本M&Aセンターが扱えない小規模案件について連携するほか、事業承継に伴う経営者の不動産資産の売却先探しをディア・ライフに依頼するなど協力関係の構築が進む。

さらに10月5日に三井住友信託銀行との資本業務提携を発表。金額は非公表だが、三井住友信託が経営承継支援の発行済み株式の23.8%を取得し持ち分法適用会社とした。三井住友信託の取引先で事業承継に悩む小規模事業者を経営承継支援に紹介、さらなる案件開拓につなげる。

笹川社長は「1、2年内に上場を目指す」と公言する。顧客の小規模事業者は高齢者が多く、仲介事業者に上場企業という信頼性を求める場面も少なくない。「上場は我々の存在を知ってもらう手段でもある」

経済産業省は2025年までに70歳を超える中小企業の経営者は約245万人で、この半数で後継者が未定と算定する。事業承継対策は待ったなしの状況だ。

経営承継支援は、年間の成約件数を3年後には現状の約3倍の500件に引き上げる目標を掲げる。実現すれば業界トップレベルの成約数だ。多くの経営者が汗を流して築き上げた事業を1社でも多く未来に存続させたい。笹川社長はこの思いを胸に、今日も汗をかいている。  (京塚環)

[日経産業新聞 2018年10月10日付]

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