2019年9月20日(金)

ノーベル平和賞受賞2氏、性暴力と戦う勇気示す

2018/10/6 1:25
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【カイロ=飛田雅則】ノーベル平和賞の授賞が決まったコンゴ民主共和国の医師デニ・ムクウェゲ氏(63)とイラク生まれのナディア・ムラド氏(25)の体験は異なるが、性暴力という同じ敵と闘う。2人を突き動かすのは悲惨な現実と向き合い将来を見る勇気だ。

■ムクウェゲ氏、4万人の女性治療

2014年4月、コンゴ東部ブカブのパンジ病院で、レイプ被害者の女性に話し掛けるデニ・ムクウェゲ医師=中野智明氏撮影・共同

2014年4月、コンゴ東部ブカブのパンジ病院で、レイプ被害者の女性に話し掛けるデニ・ムクウェゲ医師=中野智明氏撮影・共同

授賞の知らせが届いた時、ムクウェゲ氏はいつものようにコンゴ東部ブカブにあるパンジ病院の手術室にいた。この病院には性暴力の被害者のための部門がある。これまでに4万人以上の女性を治療、支援した。「多くの女性の顔が目に浮かぶようだ」とノーベル賞委員会に喜びを語った。

女性のために尽力するのは、若い日の苦い経験があるからだ。隣国ブルンジで学び、医師として働き始めた母国の病院では、出産前後のケア不足で亡くなる多くの女性に接した。産婦人科を専門とするため、フランスに留学。帰国後、農村部で治療を始めたが、90年代後半には内戦が勃発。99年に設けたパンジ病院にはレイプ被害者が多く訪れ、治療に明け暮れた。

被害者を救うには治療だけでなく、政治的な解決が必要と訴える。国連では「政治的な意思が欠けている」と演説し、紛争当事国に性犯罪への毅然とした対応を求めた。

武装勢力から命を狙われたこともあった。12年には自宅が襲撃され、欧州に逃れた。帰国を望むコンゴの貧しい女性たちが野菜や果物を売ってお金をつくり、航空券を買うと申し出た。心を動かされ、13年にはブカブに戻った。ここはムクウェゲ氏の故郷でもある。

「力を結集して、戦争の兵器としてのレイプに立ち向かわなければならない」。ムクウェゲ氏は6月、過激派組織「イスラム国」(IS)に誘拐され性暴力を受けたイラクの少数派ヤジド教徒が住む町で訴えた。ノーベル平和賞の同時授賞が決まったムラド氏と同じように傷ついた被害女性のため、支援を続ける。

■ムラド氏、自ら被害、代弁者に

2017年6月、イラク北部でクルド自治政府治安部隊の兵士らにあいさつするナディア・ムラド氏=ロイター

2017年6月、イラク北部でクルド自治政府治安部隊の兵士らにあいさつするナディア・ムラド氏=ロイター

授賞決定を知ったムラド氏は「この賞をすべてのヤジド教徒、イラク人やクルド系、少数派、性暴力の被害を受けた経験のある世界の人たちと分かち合う」という声明をロイター通信に寄せた。

ムラド氏はツイッターで問題を提起する。「イラクではIS(過激派組織『イスラム国』)の旧戦闘員とヤジド教徒が一緒に暮らさなければならない。だけど大半のISは罪を問われていない」

1993年、イラク北部コチョの農村で生まれた。クルド系で少数派ヤジド教徒の家庭。歴史教師になりたいと考えていた。運命が変わったのは2014年8月。ISの戦闘員がやってきてイスラム教への改宗を迫った。逆らうと殺された。

ISの拠点だったイラク北部モスルに連行された。性奴隷としてISの男に売られ、レイプや拷問で傷つけられた。

その後はヤジド教徒の救済や性暴力の根絶を目指す活動を展開。16年9月には人身売買の被害者の尊厳を守ることが必要だと訴える国連親善大使に就任。国連本部では各国の外交官に「子どもが性的暴行を受けても行動できないのですか? それならいつ行動するのですか?」と訴えた。

米俳優ジョージ・クルーニー氏の妻アマル・クルーニー氏が弁護士としてムラド氏を支援。アマル氏はイラク政府にISの人道に対する罪などに関する国連の調査に協力するよう求めてきた。調査は8月に始まった。

ムラド氏は同月、同じヤジド教徒の人権活動家と婚約した。宗教少数派の権利を守り、性暴力の追放を目指す活動に力強いパートナーを得た。

■勇気と慈愛、世界が祝福

5日にノーベル平和賞授賞が決まった2人に世界から祝福が相次いだ。

欧州連合(EU)のトゥスク大統領は「彼らが日々の活動で示してきた勇気と慈愛、人間性に深い尊敬の意を表する」とツイッターで賛辞。バチェレ国連人権高等弁務官は「人権を擁護する全ての人たちを代弁し言葉では言い表せないほどの称賛をおくる」と述べた。

ムラド氏が生まれたイラクの政府はツイッターに「紛争下の性暴力被害者に対するムラド氏の勇気ある活動に深い敬意を表する」と投稿した。

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