単色の意匠 460年色あせず 京友禅「千總」の図案家(もっと関西)
ここに技あり

2018/10/1 11:30
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ほんのり透けた紙の前で鉛筆を片手に黙々と手を動かす。細い線から太い線まで濃淡をつけながら描くと美しい草花が現れた。京友禅など着物の柄を手描きで表現するのが「図案家」と呼ばれる職人だ。京友禅の老舗、千總(ちそう、京都市)は図案家を自社で抱える数少ない企業。図案家は創業から460年以上になるものづくりを支える。

京都市の本社の一室は静けさに包まれていた。図案家は黙々と鉛筆を動かし、時折立ち上がっては遠目で絵を確認する。同社の図案家は8人。緊張感が漂う部屋では若手からベテランまで作業する。紙の上は「白と黒の世界」だが、どこか温かみがある。

着物の図案が鉛筆で描かれていく

着物の図案が鉛筆で描かれていく

「千總のものづくりにはデザイン、技術、素材の3拍子が欠かせません」と語るのは今井淳裕さん。18年間、図案家として勤め現在は商品開発を手がける。例えば技術は友禅染の手法、素材は生地で「お客様の状況や用途を考えて商品開発につなげる」。

図案家の大きな役割の一つが、着物など商品に描かれる絵柄を考えること。例えば、日本において、慶事には鶴や熨斗(のし)などがふさわしいとされる。長寿や豊穣(ほうじょう)など着物が持つ「意味」をいかに込めるか。最も試行錯誤する段階だ。

絵柄を考える際に参考になるのが創業以来、蓄えられてきた図案に関する資料群。書庫室には書籍や図案などが納められている。図案家歴15年の川田千晴さんは「本物に触れる機会があることで図案力を上げることができるのが千總の魅力」という。

千總は京都を代表する老舗企業だ。創業は1555年の戦国時代。法衣装束商としてスタートし、明治時代には京友禅のデザインを日本画家に依頼するなど新しい取り組みも始めた。「環境が変わってきている」と話すのは仲田保司社長。和装産業が下火になる一方、日本的な文様や絵柄は国内外問わず人気。そこで注目したのが「図案力」だ。

2009年からサントリーの茶系飲料「伊右衛門」のデザインを担当。英国王室が愛用する旅行かばん「グローブ・トロッター」ともコラボレーションし、限定トランクを発売。内装には手描き友禅の鶴をあしらい、「旅」を連想させる作りにしている。「和装以外で千總の力を示すのはブランディング戦略として効果的」と仲田社長。和装以外のデザインも年間100ほどで、全体の2割強を占める。

商品開発を手がけるプロデューサーには主に営業畑の社員が就いていたが、図案家経験者の今井さんが初めて就任した。「必要であるように変化していけばいい」と今井さん。千總の「図案力」は身近なものになってきた。

文 京都支社 赤間建哉

写真 松浦弘昌

カメラマンひとこと 図案室に入ると草稿用紙を走る鉛筆の音が聞こえてきた。ツバキ、ウメ、モミジ……。職人の指先からいきいきとした植物が描き出されていく。自然美は特殊な筆記具から生まれるのかと思いきや、使うのはHBなど一般的な鉛筆というから驚く。モノクロの世界がどのようなあでやかな京友禅に変貌するのか。仕上がりに心が染まった。
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