現実味おびる「マスク氏なきテスラ」 SECが提訴

2018/9/28 14:50
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【シリコンバレー=白石武志】米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が同社から追われるシナリオが現実味を帯び始めた。8月に公表し約2週間で撤回した株式非公開化計画について、米証券取引委員会(SEC)は27日、誤った情報で投資家を欺いたとして同氏を提訴した。SECはマスク氏が上場企業の経営に関与しないよう求めており、テスラはブランドの「看板」を失うリスクを抱え込んだ。

米証券取引委員会から提訴された米テスラのイーロン・マスクCEO=ロイター

■裁判長期化、財務を直撃

SECは27日に開いた記者会見で、マスク氏が8月7日にツイートした「(1株当たり)420ドルでテスラを非公開化できないか考えている。資金は確保した」という投稿について「偽りであり、(株式市場を)ミスリードした」と断じた。その上でマスク氏が「上場企業の経営陣から排除されることを望む」とも主張した。

証券市場の番人であるSECの怒りは、27日付でニューヨーク南部地区連邦地裁に出した訴状にもよく表れている。「資金は確保した」との発言についてマスク氏はサウジアラビア系の政府系ファンドとの交渉に基づくものだと主張しているが、SECは「可能性のある資金源と交渉さえしていなかった」と結論づけた。

420ドルという株式の買い取り価格についても、SECはマスク氏の思い込みによってプレミアム(上乗せ幅)が決まったと主張する。加えて米国でマリフアナ(大麻)を意味するスラングである「420」という数字にすれば「ガールフレンドがおもしろがるだろうと思ったのだろう」とも指摘した。

マスク氏は27日、「SECの不当な行為に深く悲しみ、がっかりした」との声明を出した。「誠実さは私の人生において最も重要な価値であり、私がこの点で決して妥協しないことを事実は示すことになるだろう」とも述べ、今後の裁判で争う構えを見せた。

これまで幾多の逆境を乗り切ってきたマスク氏だが、証券当局との対決はさすがに分が悪い。今後の裁判の日程などは明らかになっていないが、長期化すればするほどテスラの財務に打撃となるおそれがあるためだ。

■ジョブズ氏の追放と「似てきた」

米ゴールドマン・サックスは中国新工場の建設などさらなる事業拡大のためにテスラは20年までに100億ドル(約1兆1000億円)超を資本市場で調達する必要があると指摘する。証券当局が退任を求めている経営者に資金調達を支援する金融機関は限られるとみられ、いったんは下火になっていたテスラの資金繰り不安が再燃する可能性がある。

テスラ取締役会は27日、「イーロンの誠実さとリーダーシップに完全に自信を持っている」との声明を出した。ひとまずはマスク氏支持で一致結束するものの、将来的に資金繰り難などで事業継続が困難になった場合には、株主から取締役会に対しマスク氏解任の圧力がかかる可能性もある。

これまでのテスラの成長は、石油依存社会からの脱却を目指すマスク氏の壮大な構想に共鳴する投資家や消費者によって支えられてきた。テスラと米ネバダ州で車載電池工場を共同運営するパナソニックの幹部はマスク氏が退いた場合、「我々のスタンスが変わらないと言えるかどうか分からない」と話す。

米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏も強引な経営で社内を混乱させた責任を問われ、85年に30歳で同社を追放されている。希代の起業家としてジョブズ氏と比較されることが多いマスク氏だが、あるシリコンバレーの起業家は「最近は境遇まで似てきた」と指摘する。

アップルを追われたジョブズ氏はその後、映像ソフト会社「ピクサー」の立ち上げなどで創造性を開花させ、97年にアップルに復帰してからは「iPod」や「iPhone」を立て続けに世に送り出し同社を持続的な成長軌道に乗せた。マスク氏の命運はまだ見通せないが、ジョブズ氏の実績を超えるにはここでつまずくわけにはいかないはずだ。

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