パワハラおじさんにはメークが一番 男性に化粧文化を
アクロ会長 石橋寧氏(下)

男性向け化粧品の総合ブランド「FIVEISM×THREE(ファイブイズム・バイ・スリー)」を立ち上げた化粧品大手、ポーラ・オルビスホールディングスのグループ会社、アクロ(東京・品川)。仕掛け人、石橋寧(やすし)会長は「45年にわたってやってきた自らの化粧品ビジネスの集大成」と位置づける。前回掲載「男よメークで己を解放せよ 誕生、男性化粧品ブランド」に続き石橋会長に聞いた。
――化粧品業界に長年、携わってこられました。
「ええ。今の会社にお世話になる前はカネボウにおりました。営業のほか、店頭に今も並ぶ女性向けの2つのブランドの立ち上げなどに携わってきました。そんな時、ポーラ・オルビスのトップから『新しいブランドを作りたいので協力してくれないか』とお声がけいただいたのです。その熱意にほだされ、また自分の力も試してみたいと思い、転職させてもらった次第です」

■地元百貨店の男性メーキャップアーティストが出発点
「鹿児島県の出身です。地元の百貨店で女性に化粧を施す男性メーキャップアーティストの姿をたまたま目にして、格好いいと思ったのを覚えています。化粧品は平和産業なんですよ。世の中が平和だと自然と化粧したい気分になるんです。女性がこの世に存在する限り、業界は衰退しない。そう考え、大学卒業後、この業界に入りました」
――巡り巡って「男性用コスメブランド」へとたどり着いた格好ですね。
「この業界に入って今年で45年。今でも多くの方にご愛用いただいている女性用化粧品だけでなく、男性用の総合コスメブランドまで立ち上げることができました。僕の化粧品人生の集大成でもあるのです」

「もっとも直近のこの1年はこれまでの45年の中で最も忙しかった1年だったかもしれません。アクロで立ち上げた女性用コスメブランド『THREE(スリー)』を抱えながら、ファイブイズム、さらに2つの女性用新ブランドの立ち上げとが重なったからです」
「新ブランドをゼロから立ち上げた経験を持つ者は社内にいませんでした。1つずつブランドを立ち上げていたら相当な期間がかかってしまうと思ったので、同時進行させました。ただ、正直しんどかった。3ブランドのお披露目が終わった時はホッとしました」
■最低1つは商品を使うように男性社員にいっている
――まだまだ男性にはメークへの心理的抵抗があるように思えます。
「メンズコスメ市場の開拓には当然、啓発活動が欠かせないと思っています。アクロの男性社員には最低限、自社のメンズコスメのどれか1つは使うようにいっています。若手社員は比較的よく使ってくれているようですが、部長や管理職クラスにもっと働きかけていかないといけないと感じています」

「実際に店頭に立ってコスメを販売するスタッフ向けのセミナーもすでに開催し、商品の説明やそれらを使ってのメークの仕方などを学んでもらいました。一流ホテルや外車ディーラーの男性スタッフ向けのセミナーもやれたらいいなと思っています」

「格好いいものを求めてやってくる人には、それなりに格好いい人がお出迎えした方がいい。その方が気分も高揚しますから。そうやって徐々に外堀を埋めていきたいですね」
■メークがコミュニケーションのきっかけに
「職場でのパワーハラスメントが問題になっていますが、私に言わせれば、パワハラおじさんもメークすればいいんです。『このコスメはどうやって使うのか』などと若い人に聞いて、教えてもらえばコミュニケーションもとりやすくなっていくんじゃないですか」
「まゆ毛が抜けて以前より細くなったとか、シミを目立たなくしたいとか、加齢に伴う悩みや、プレゼンなので男に磨きをかけたい、といったニーズは男性なりにあると思うのです」

「昔から、神様は人間以外の例えばクジャクやシカのオスにだけ美を与え、人間で美を与えられたのは女性だけだと思っていました。ところが、歴史をひもとけばそれは違うと分かりました。男性コスメが社会に浸透するまでは時間がかかるとは思いますが」
(聞き手は堀威彦)
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