セールスフォース包囲網 MSなど新旧3社の意地
【オーランド(フロリダ州)=佐藤浩実】クラウドを利用した企業向けソフト分野で旧IT勢と新興勢力が交わる再編が動き始めた。米マイクロソフト(MS)は24日にアドビシステムズ、SAPとデータ分析での提携を発表した。3社連合に参加したアドビや、3社連合がライバルと想定するセールスフォース・ドットコムは過去半年の間にそれぞれ5千億円超の買収を進めている新興勢力。データが生み出す価値の高まりが、新旧の業界勢力図を変えつつある。

3社CEO、ステージにそろい踏み
「僕の友達を紹介します」。マイクロソフトがフロリダ州で開いた技術イベントで、サティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は講演中にステージに2人の経営者を招いた。統合基幹業務システム(ERP)に強いSAPのビル・マクダーモットCEOと、3日前にマーケティングサービスのマルケト買収を公表したアドビのシャンタヌ・ナラヤンCEOだ。本社から遠く離れた街でのトップのそろい踏みに、会場には驚きの声があふれた。
3社のCEOが掲げたのは「オープンデータイニシアチブ」という構想だ。顧客情報管理(CRM)やERPといった各社の主要サービスでデータを扱う際の基本ルールにあたる「データモデル」を共通化。企業やサービスの枠を超えて、データをまとめて分析できるようにする。米ウォルマートのような顧客からみれば、より幅広いデータから得られる知見を営業や販売促進に生かせるようになるわけだ。
3社連合が強く意識するのは、5月にサンフランシスコに西海岸で最も高い326メートルの新本社ビルを完成させたCRM最大手のセールスフォースだ。最近ではCEOのマーク・ベニオフ夫妻による米誌「タイム」の買収に話題が集まるが、過去10年で売上高を約10倍(18年1月期は105億ドル)に拡大している。
セールスフォースはアップルと
3月にも65億ドルでアプリ連携ソフトのミュールソフトを買収。クラウド上での人工知能(AI)の活用で先行するグーグルとも距離を縮めるなど3社連合の先を行く。24日もMSの発表に当てつけるように「アプリ開発の強化のためにアップルと組む」と表明した。
企業向けソフトでの連携が進むのは、データが生み出す価値の高まりゆえだ。米アマゾン・ドット・コムや中国アリババ集団など顧客の情報を豊富に持ち、AIを使った分析にたけた企業が急成長している。
かつてマイクロソフトやSAPが得意とした個別企業向けのサービスは、クラウド化することによるデータ利用の相乗効果で新たな価値を生み出している。3社連合の一角となったアドビは、もともとは画像編集ソフトでシェアを築いたが、近年は企業向けクラウドサービスに急速にかじを切り、存在感を増している。
マイクロソフトなどの3社連合はこうした新興勢も取り込みながら、オープンな仕組みを提供することで小売りやサービス業などの顧客から常に選びつづけてもらおうという狙いだ。ナデラ氏はさらなる提携先の拡大にも意欲を見せる。
「どれだけ実のあるものにできるか」
ただ構想の大きさとは対照的に、24日は3社の提携の具体的なスケジュールや詳細は語られなかった。マイクロソフトのイベントに参加していたIT分野の産業アナリスト、パトリック・ムーアヘッド氏は「今日は3人のCEOが集まって宣言をしただけ。大事なのはどれだけ実のあるものにできるかだ」と指摘する。重複事業も少なくない3社。特にクラウド以前から企業向けのサービスで顧客基盤を固めてきたマイクロソフトとSAPは、老舗の意地をみせられるだろうか。
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