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若手育ててこそのJリーグ 外国人枠拡大案に反論

サッカージャーナリスト 大住良之

J1湘南に金子大毅という選手がいる。8月、20歳になったばかりのMFである。

千葉県の市立船橋高校から神奈川大学に進んだが、1年後の今春、湘南に身を投じた。4月に早くもデビュー。9月上旬のJリーグ・YBCルヴァン・カップ準々決勝、C大阪戦では2試合ともフル出場し、1点ずつ取って湘南の準決勝進出に貢献し、大きな注目を浴びた。私が彼をプロの舞台で初めて見たのはその第1戦だったが、技術の高さと落ち着き、そして果敢に前に出ていく積極性に驚いた。

チャンス狭めかねない変革

今回のテーマを金子の話で始めたのは、日本にはチャンスさえ与えれば急速に伸びる若手がまだまだたくさんいるはずと思うからだ。しかし現在のJリーグは、そうした若手の成長のチャンスを狭めかねない変革を断行しようとしている。外国籍選手枠を広げ、できれば制限を撤廃しようという方向性なのだ。

5日、ルヴァン杯準々決勝のC大阪戦でゴールを決め、喜ぶ金子(右)=共同

日本サッカー協会の登録チームは、原則として5人まで外国籍選手を登録できる。そして試合に出場できるのは通常3人までとなっている。しかしこの規則は、Jリーグは「この限りではない」としている。

現在のJリーグは、1試合につき3人までの「外国籍選手」に加え、アジア・サッカー連盟(AFC)加盟国の選手を1人、計4人をプレーさせることができる。さらには「Jリーグ提携国」の選手を「外国籍選手ではないもの(すなわち日本人選手)とみなす」としている。「提携国」とはタイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、シンガポール、インドネシア、マレーシア、そしてカタールの8カ国である。提携国の選手なら何人契約してもよい。極端な話、全員提携国の選手でも可能だ。

元スペイン代表のMFイニエスタ加入で話題になっているヴィッセル神戸を例にとってみよう。

「外国籍選手」はイニエスタのほか、元ドイツ代表FWポドルスキ、ブラジル人FWウェリントンの3人。「AFC枠」は韓国代表GK金承奎(キム・スンギュ)。そしてタイ代表DFティーラトンとカタール代表DFアフメド・ヤセルの2人が「提携国枠」である。8月26日の横浜FM戦では、後半の25分間だけだったが、この6人が全員ピッチに立った。すなわち、この25分間、日本選手は5人だけだったことになる。

そもそも、Jリーグを設立した最大の目的は日本代表を強くすることだった。1968年のメキシコ五輪以後、日本のサッカーは世界の舞台に出られなかったからだ。93年のJリーグ誕生により、98年にワールドカップ初出場を果たし、以後6大会連続出場。うち3大会で1次リーグを突破した。

日本代表をワールドカップに送り込んだのは間違いなくJリーグの功績だが、ベスト16が最高成績では「道半ば」であるのは間違いない。

「外国籍選手枠の拡大で、プレーできる日本人選手の数は減るかもしれない。しかしリーグの質が上がり、競争が激しくなることによって、欧州のリーグに挑戦する選手が増え、日本代表は強くなるはず」

9月18日、外国籍選手枠を拡大しようという検討案を説明する記者との「意見交換会」で、Jリーグ側はこう説明する。

外国籍選手の枠を拡大する一方で、日本選手にチャンスが与えられない状態をなくすため、「(地元選手の登録を義務づける)ホームグロウン選手の保持の義務化」という、現在欧州で行われている制度の導入も検討されている。日本育ちの選手、あるいは12~18歳のうちの少なくとも3年間を自身のクラブでトレーニングを受けた選手など、「ホームグロウン」をどう規定するのか検討中だという。

「日本代表の強化」を強調するJリーグ。しかし「外国籍選手枠拡大」にはビジネスの拡大という「本音」が見え隠れする。

今夏、MFイニエスタ(左)とFWトーレスが神戸と鳥栖にそれぞれ加入した=共同

今夏、スペイン代表だったMFイニエスタとFWトーレスが相次いで神戸と鳥栖にそれぞれ加入した。彼らの加入で両クラブはホームだけでなくアウェーでも飛躍的に観客数を伸ばした。その動きをさらに進めようという考えだ。

売上高にあたる営業収益52億円余りの神戸で年俸32億円と伝えられるイニエスタがなぜプレーできるのか、私にはまったく理解できない。こんなことを許していてフェアな競争になるのか、Jリーグはまずそれを調査し、明らかにすべきだと思うのだが、逆に「イニエスタ・ブーム」に浮かれてしまっている。そして外国籍選手枠を拡大し、全クラブでイニエスタ級の選手がプレーするようになれば、ビジネスが大きく広がると考えている。

Jリーグのスタジアムがいつも満員になり、Jリーグの話題がもっともっと広がるのは喜ぶべきことだ。しかしそのJリーグで外国籍選手ばかりがプレーしているような状態になったら、私は興ざめするだろう。

まだ何も決まったわけではない。すべてが「検討段階」と、Jリーグは説明する。しかし今回の「外国籍選手枠拡大案」は、「Jリーグの発展と日本代表の強化」の両輪に責任をもつのではなく、Jリーグは外国籍選手主体、エンターテインメントを主眼としたものにして収益を増やし、日本代表の強化はそのJリーグの狭き門から欧州のリーグに出ていった選手を中心に行ったらどうかという、責任を半ば放棄したものにみえてならない。

湘南で6人も7人もの外国籍選手がプレーしていたら、金子が飛躍する機会はこんなに早く訪れなかっただろう。

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