2019年8月17日(土)

宇宙旅行、実現なお遠く スペースX有人飛行に壁

2018/9/18 20:00
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【シリコンバレー=佐藤浩実、白石武志】米宇宙開発ベンチャーのスペースXは17日、同社のロケットを使う民間初の月周回旅行を2023年に実施すると発表した。著名経営者らが有人宇宙飛行を競い、宇宙旅行が身近になるとの期待も膨らむ。ただ、5000億円超とされるコスト面や民間人乗客の安全性確保など課題が多く、実現のためのハードルは高い。

米宇宙ベンチャー「スペースX」のイーロン・マスク最高経営責任者(左)と大型ロケットで月旅行する契約を初めて結んだ前沢友作氏(17日、米カリフォルニア州)=AP

米宇宙ベンチャー「スペースX」のイーロン・マスク最高経営責任者(左)と大型ロケットで月旅行する契約を初めて結んだ前沢友作氏(17日、米カリフォルニア州)=AP

「私は月に行くことにした」。カリフォルニア州ホーソーンにあるスペースXの本社。創業者のイーロン・マスク氏に招かれて姿を現したのは通販サイト「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイの前沢友作社長。最初の顧客として契約したことを満面の笑みで報告した。

全長118メートルの超巨大ロケット「BFR」の全席を押さえ、6~8人のアーティストとともに月の周りを飛行する数日間の旅に出る。

スペースXは2002年に米電気自動車メーカー、テスラ創業者のマスク氏が設立。ロケット打ち上げはすでに60回近い成功実績がある。企業価値は18年4月時点で約250億ドル(約2兆8000億円)に達したと推定されている。資金繰り不安を抱えるテスラとの合併観測が絶えず浮上するほど、連続起業家であるマスク氏の信用を補完する存在にもなっている。

宇宙旅行ビジネスには他の企業も続々と名乗りをあげる。米アマゾン・ドット・コム最高経営責任者(CEO)のジェフ・ベゾス氏が創業したロケット開発会社の米ブルーオリジンは19年にも宇宙旅行のチケットを売り出す見込みだ。「ニューシェパード」と呼ぶ宇宙船で地球の100キロメートル上空を数分間飛ぶ。ロイター通信は関係者の話として、費用が1人あたり20万~30万ドルになりそうだと伝えている。

英ヴァージン・グループ傘下のヴァージン・ギャラクティックは飛行機のような翼を備えた宇宙船「スペースシップ2」を使った宇宙旅行を計画する。25万ドルでチケットを前売りしながら開発試験を重ねている。九州工業大学発のスペースウォーカー(東京・港)は「日本版スペースシャトル」として、27年ごろ有人での打ち上げを目指している。PDエアロスペース(名古屋市)は、23年に有人宇宙飛行を目指している。

業界団体である米SIAによると、2017年の宇宙ビジネスの市場規模は約3480億ドル(約38兆円)。衛星を使った通信や観測サービスが中心だが、民間企業が打ち出す宇宙旅行への期待も高まっている。ゴールドマン・サックスなどの予測によると、40年代に宇宙関連市場は100兆円以上になるという。

スペースXの巨大ロケットのBFRはもともとマスク氏が「火星移住」の構想のために開発を進めているロケットだ。開発費用は「ざっと50億ドル(約5600億円)」(マスク氏)だが、その先に資源開発などのビジネスを視野に入れている。

各社が有人宇宙飛行に力を入れるのは宇宙に関連するデータを巡る争奪戦が激しくなっていることや、有人宇宙飛行をうたうと資金が集まりやすいという事情もある。

ただ衛星を運ぶ無人ロケットなどに比べて、有人飛行船は開発のハードルが格段に高まる。さらにスペースXが狙う宇宙旅行はブルーオリジンなどが狙う高度100キロメートルを短時間飛行するのとは異なり、月のまわりを飛行する。安全性に加え、搭乗者の訓練など費用と時間を要するからだ。

ロケット打ち上げ時には地球の重力の何倍もの加速度(G)がかかる。不測の事態に対応するため宇宙服をあらかじめ着るなどの備えも必要になる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の大西卓哉宇宙飛行士は「宇宙空間はもともと危険が伴う。一般の方が気軽に旅行できるようになるには、安心安全を担保するのが重要」と指摘する。

リスクが高い宇宙開発はかつて政府機関の独壇場だった。そこに起業家が参入することでリスクマネーを呼び込み、競争原理によって衛星打ち上げ費用などが大幅に下がった経緯がある。さらなる価格破壊が宇宙旅行などの新たな需要を呼び起こせば、宇宙産業の裾野が広がる可能性がある。しかし、資金面や安全性などクリアすべき課題は山積みだ。

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