(対決関西)ヒット作ロケ地 大阪府庁vs京都府庁

2018/9/18 18:56
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明治、大正時代にそれぞれ建てられた京都府庁旧本館(京都市)と大阪府庁本館(大阪市)が映画やドラマのロケ地として輝きを放っている。京都は華やかさ、大阪は無駄のなさが映像のプロの目に留まり、近年は数々のヒット作の舞台に。結婚式やコンサートなど活用の裾野も広がる。権威的で堅い印象を抱きがちだが、角度を変えて眺めると、古き良き庁舎の魅力を再発見できるかもしれない。(安田龍也)

大阪府庁、簡潔さ 現代作品向き

大阪府庁本館は現役の本庁舎としては都道府県で最も古い

大阪府庁本館は現役の本庁舎としては都道府県で最も古い

「よく車を見つけましたね」

「次は梅林が現場にいたことの証明ですよね。頑張ります」

重厚感のある大理石に囲まれた"裁判所"で、弁護士と検察官が健闘をたたえ合う。木村拓哉さんが主演した映画「HERO」(2007年公開)のワンシーンで、ロケ地には大阪府庁本館が選ばれた。鈴木雅之監督は「スケール感があり、裁判所の設定にぴったりだった」と振り返る。

1926年に完成した庁舎の建設で、府は当時の予算の約2割を使った。玄関ホールにはイタリア産の大理石を使った吹き抜けの大階段を設置。5階の「正庁の間」はシャンデリアなど壮麗な装飾が輝く。大蔵省や警察署など撮影シーンは様々で、庁舎管理課の担当者は「シンプルでモダンな造りは、現代を描写する作品のイメージに合致しやすいようだ」と話す。

ロケ地としての実績を積み重ねる一方、府は庁舎のさらなる活用強化にも知恵を絞る。府民の表現活動の場にしてもらおうと、09年以降、正庁の間を中心にコンサートや合唱会、演劇などを約60回開催。今年10月には大阪出身のデザイナー、コシノジュンコさんのファッションショーを大階段で開くなど、新たな発想で魅力を掘り起こす。

歴史ある庁舎だけに、老朽化は悩み。16年末に3年間にわたる耐震補強工事が終わり、現役最古の都道府県庁舎として生き残ったが、この間、目立ったロケ実績はなかった。府内のロケ紹介を行う大阪フィルム・カウンシル(大阪市)でチーフコーディネーターを務める大野聡さんは「公共施設での撮影に対する府民の理解も深まっており、ロケ地としての府庁の魅力を今後も売り込んでいきたい」としている。

京都府庁、華やか 戦前の雰囲気

京都府庁旧本館はロケだけでなく、結婚式にも利用されている=マリッジプランナー(大阪市)提供

京都府庁旧本館はロケだけでなく、結婚式にも利用されている=マリッジプランナー(大阪市)提供

京都府庁旧本館で今夏、同府亀岡市の会社員、大森祥平さん(29)と瑠衣さん(21)夫妻が結婚式を挙げた。式場の「正庁」は公式行事や公賓の接遇に使っていた格式高い空間で、床には赤いじゅうたんが敷かれている。親族ら10人の祝福を受けた新郎新婦は「教会のような雰囲気。歴史を刻んだ建物で一生の思い出を残せた」と喜ぶ。

国の重要文化財に指定される旧本館は1904年に完成。ルネサンス様式に属するレンガ造りの外観は西洋近世の大邸宅をほうふつとさせる。映像作品のロケ地としても人気があり、2006年以降、60件以上の撮影が行われた。「戦前の権威の象徴として使われるケースが多い」と、府有資産活用課の笹原かほるさん。ドラマ「坂の上の雲」は海軍省、映画「日本のいちばん長い日」では陸軍省に見立てられた。

府はロケにとどまらず、旧本館の商業利用に力を入れている。結婚式はその一環。11年にはカレンダーやカタログなどの撮影を認めたほか、現存する国内最古の議場として知られる「旧議場」は復元工事を終えた15年から商業用の撮影が可能になった。年間の使用料収入は300万円程度だが、笹原さんは「京都の魅力発信だけでなく、空調やトイレの補修など施設の維持にも活用できる利点は大きい」と話す。

京都工芸繊維大の石田潤一郎名誉教授(建築史)は旧本館の価値について「創建時の姿をとどめている希少性に加え、誰が見ても理解しやすい華やかさを併せ持つ」と指摘。「歴史ある文化財は本来の姿を未来に継承しながら、現代的な用途を付け加える視点も必要。市民にとってもメリットがある結婚式などは、他地域の自治体にとっても参考になるだろう」と話している。

「記憶の器」住民に身近に
 歴史ある建物は「記憶の器」と呼ばれる。建築当時の社会的背景や美意識、工学技術が反映されており、都道府県庁舎はその代表例。京都府庁旧本館は明治期の優れた建築技術が巧みに取り入れられ、3代目となる大阪府庁本館の建て替えは、大阪の発展に伴う事務量や職員数の増加という時代の流れがあった。
 日々の暮らしで都道府県庁に足を運ぶ機会は少ないかもしれないが、京都と大阪に共通するのは「府民に身近な庁舎にしたい」との思いだ。ロケ以外にも多彩な事業に使われていることを知り、改めて建築としての価値の高さに気づかされた。
 住民により愛着を持たれる存在にどう変えていくか。両府が誇る記憶の器は、現在進行形の"ドラマ"の舞台でもある。
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