20兆円鉄道市場、大型再編で中国対抗 データが競争軸
【ベルリン=牛山知也】独ベルリンで18日に開幕する世界最大の鉄道ショー「イノトランス」。仏アルストムと事業統合する独シーメンスが多数の最新車両を披露するなど、最大手の中国中車への対抗姿勢が鮮明になっている。さらに新たな競争軸としてデータを活用した保守サービスや運行システムが浮上。20兆円を超える巨大市場にメガ再編とデジタル化の波が押し寄せている。

サービス市場が車両上回る
「デジタル化や自動化、人工知能(AI)などによって鉄道ビジネスに巨大な転換が起きている」――。17日、報道関係者向けの説明会でUNIFE(欧州鉄道産業連盟)のフィリップ・シトロエン会長はこう強調した。UNIFEの推計では、鉄道の2019~21年の年平均ベースの市場規模は1853億ユーロ(約23兆円)。アジアや欧米市場がけん引して年率2.6%で成長する見通しだ。そのうち運行や保守サービスが727億ユーロを占め、車両(602億ユーロ)を上回る。速度や価格といった車両単体の競争から、インフラ全体への勝負へと変わろうとしている。

会場となる「メッセ・ベルリン」の様子からもその変化がうかがえる。61カ国の約3000社が参加し、世界初となる発表や展示は146に及ぶ。ただ実物の部品や車両のミニチュア模型といった「モノ」が影を潜め、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」で未来のモビリティ(移動)を実現する様子をCG映像などを交えながら披露する企業が目立つ。
シーメンス、保守費用3割減
会場にずらりと並ぶ展示車両もデジタル化が進んでいる。シーメンスが世界で初めて披露する新型の高速鉄道車両。車両に取り付けた数百のセンサーから得られるデータを分析し、故障予兆やメンテナンスに役立てる。従来型車両に比べて輸送能力を10%向上させ、初期投資や保守やサービスのコストを約3割減らすことができるという。
シーメンスは主に工場で機械の保守などに使っているIoTのプラットフォームやクラウド技術を鉄道部門にも展開。スペインの高速列車で独自のデータ分析基盤を使ってトラブルを減らし、定時運行率を99%に高めることでチケットの払い戻しを減らすなどの実績も出始めている。
「アジアの大企業が市場に影響を与え、デジタル化がモビリティの未来を変える」。シーメンスのジョー・ケーザー社長は仏アルストムと経営統合を決めた17年、こう述べた。念頭にあるのは当時既に車両生産量で世界1位と2位だった中国2社が15年に経営統合して誕生した中国中車だ。中国中車の売上高は3兆円を超え、18年内にも統合するシーメンスとアルストムの新会社の売上高約2兆円を大きく上回る。低コストを武器に「一帯一路」構想に絡むインフラ建設など中国以外の事業拡大を目指す。
シーメンス・アルストムの独仏連合は規模拡大で中国中車に近づくだけでなく、データの蓄積・分析ノウハウを強化する狙いだ。
中国中車は規模は圧倒的な世界ナンバーワンだが、欧米など海外市場では実績が少ない。展示会でもデジタル化をアピールしている。
「窓にタッチすると、乗客が情報にアクセスできます」――。新型地下鉄車両は窓ガラスにはタブレット端末の機能を搭載。中国中車は鉄道貨物のデータを海運などと連携させて貨物の追跡や危険物監視に生かす物流サービスも売り込む。「キャッシュレス化のように、革新のスピード感はあなどれない」(日本国内企業)と警戒感も根強い。
日本勢もIoT突破口に
日本勢は最大手の日立製作所でも売上高は1兆円以下。コスト競争では不利になるため、IoTなどを活用した取り組みで市場に食らい込もうと動いている。

英ロンドン・パディントン駅。高い屋根の下に広がるプラットホームに、濃いグリーンの高速鉄道車両「クラス800」がずらりと並ぶ。日立製作所が受注し、17年10月に営業運転を始めたこの車両の持ち味は、車体にある4万種類のセンサーから蓄積したデータを生かした保守の効率化にある。日立が受注したメンテナンス期間は27年半。データの活用が鉄道運行の効率化に直結する。
米中の貿易摩擦や英国の欧州連合(EU)離脱など通商環境が不透明ななか、特定の市場だけでビジネスを展開することのリスクも高まっている。世界をまたにかけて事業展開できる巨大企業がより優位になる。
日本勢は過密スケジュールでの効率的な運営では一日の長があり、交通系ICカードを使った駅ナカビジネスなど鉄道を主軸にした経済圏を作ってきた実績もある。車両や関連設備メーカー、インフラなど分野ごとにバラバラのプレーヤーが一体となって提案力を引き上げられるかどうかが、日本勢のグローバル競争での勝ち残りを左右する。