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貿易リスク軽減にブロックチェーン、米中摩擦で脚光

CBINSIGHTS
貿易にまつわる金融にブロックチェーン(分散型台帳)技術を生かそうと、国をまたいだ金融機関の協業が活発化している。トランプ米大統領による中国製品への追加関税発動という米中貿易戦争の余波が全世界に広がるなか、複雑化する貿易金融の処理において少しでもリスクを減らしたいとの思惑もある。保守的な金融業界が新技術の本格導入を決断できるか、正念場を迎えている。

世界各国の銀行や規制当局は、紙の書類のやりとりなど非効率な点だらけの貿易金融業務を電子化するために協力し始めた。英大手銀HSBCやスタンダードチャータードなどが、分散型台帳技術を活用した貿易金融の実証実験を進める様々なコンソーシアムに参加している。

もっとも、実用化を果たすには、規制や拡張性、セキュリティーを巡る問題にも対処しなくてはならない。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週1回掲載しています。

貿易金融へのブロックチェーン技術の活用が重要な理由は、貿易金融の規模が巨大なことが挙げられる。貿易金融は17兆ドル(約1900兆円)規模に上る国際貿易市場を支え、5兆~10兆ドル相当の貿易を請け負っているとされる。一方でいまだに約1.5兆ドルの需要が満たされていないという実態がある。

そもそもなぜ今になり、ブロックチェーン活用が注目されているのか。皮肉なことに米中貿易戦争の"追い風"もある。銀行は貿易金融で買い手と売り手に融資を提供し、国際貿易を円滑化する。だが米国と中国をはじめとする各国との貿易戦争の激化を受け、各行は技術革新によるリスク削減に注目しているためだ。

金融機関は次のような対応を進めている。短期的には、コスト削減と効率化を進めるため、手作業によるプロセスを減らし、信用状などの重要書類を電子化している。一方、ブロックチェーン技術の本格導入によるプロセス刷新をめざしている銀行もある。

この動きは増える傾向にある。メディアが「貿易金融と分散型台帳技術(DLT)」について言及した回数は急増し、「貿易金融」だけに触れた回数を大きく上回っている。

メディアが「貿易金融」などに言及した回数

ニュースで取り上げられる機会が増えているのは、銀行や規制当局が実証実験を進めるブロックチェーン技術の大型プロジェクトが相次いでいることも関係している。

今回の分析記事では、主なブロックチェーン・コンソーシアムのうち、「Voltron(ボルトロン)」「Marco Polo(マルコポーロ)」「Batavia(バタビア)」「we.trade(ウィートレード)」「HKTFP」の5つを取り上げ、ブロックチェーン技術の貿易金融への応用や、最近の活動、主な成果について調べる。

貿易金融のブロックチェーン・コンソーシアム

貿易金融にブロックチェーン技術を活用するメリットは計り知れない。トレーサビリティー(履歴の追跡)や透明性が高まり、業務も効率化できるからだ。さらに安全性が高く、信頼できる関係者だけが参加するグループにアクセスできるため、銀行はこの技術を大いに評価している。さらに、インボイス(送り状)の追跡から書類の電子化に至るまで、あらゆる貿易取引や業務の透明性を高められる。

この技術はまだ新しく、銀行はクローズド型の環境が好ましいと考えている。追加規制への対応コストやセキュリティーの問題もあるため、他行と提携することで貿易金融業務の効率化をめざす概念実証(PoC)の設計や実施に取り組んでいる。

貿易金融のブロックチェーン・コンソーシアム

<Voltron(ボルトロン)>

概要:ブロックチェーンの開発を手がけるスタートアップ企業の米R3と香港のCryptoBLK(クリプトBLK)が主導し、米マイクロソフトのクラウド基盤「Azure(アジュール)」の技術を活用。タイのバンコク銀行、スペインのBBVA、仏BNPパリバ、HSBC、オランダのING、イタリアのインテーザ・サンパオロ、みずほ銀行、英ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)、カナダのスコシアバンク、スウェーデンのスカンディナビア・エンスキルダ銀行(SEB)、米USバンクなど12行が参加する。

特徴:R3の分散型台帳技術プラットフォーム「Corda(コーダ)」を使い、紙の信用状の電子化に取り組んでいる。信用状は今のところ主に手作業で発行されているが、不正行為を減らし、書類のやりとりを迅速化するため、各行は電子化を望んでいる。R3は2018年7月、消費者向けのコーダを法人向けに転用した「Corda Enterprise(コーダ・エンタープライズ)」を開発し、法人向け企業に転換した。

主な成果:HSBCとINGは18年5月、CryptoBLKと共同で、分散型台帳技術を使って米食糧メジャーのカーギルがアルゼンチンからマレーシアに大豆を輸送する際の信用状を発行した。従来の手作業によるプロセスでは通常5~10日間かかるが、ボルトロンはこれを1日に短縮。次の段階ではさらに多くの銀行に適用する。

<Marco Polo(マルコポーロ)>

概要:分散型台帳技術を活用した貿易金融プラットフォームを手がける英TradeIX(トレードIX)とR3が提携。RBS傘下の英ナショナル・ウエストミンスター(ナットウエスト)銀行、BNPパリバ、独コメルツ銀行、ING、ノルウェーのDNBバンク、フィンランドのOPフィナンシャル、バンコク銀行、三井住友銀行、スタンダードチャータード、仏ナティクシスなど大手金融機関14行が参加する。

特徴:R3のコーダ・エンタープライズと、トレードIXのオープン基盤「TIX Core(TIXコア)」を活用。企業による支払い保証の追跡や手形割引の会計処理を簡略化する。

主な成果:トレードIXは17年10月、貿易金融取引の実証実験にいち早く成功したことを明らかにした。スタンダードチャータードはTIXコアを活用し、ある物流会社への手形割引を電子化するとともに、米保険大手AIGを通じてクレジットリスクを担保することに成功した。

<Batavia(バタビア)>

概要:スイスのUBS、カナダのバンク・オブ・モントリオール、スペインのカイシャバンク、コメルツ銀行、オーストリアのエルステ銀行の5行によるコンソーシアム。米IBMのブロックチェーン基盤を活用している。

特徴:他のプロジェクトよりも用途が広く、スマートコントラクトを使って国際貿易の全ての参加者が取引を追跡・モニターできる。

主な成果:18年4月に2つの実証実験(ドイツ車とオーストリア製の繊維製品のスペインへの輸出)を実施。参加者は積み荷の陸上・海上輸送の各段階をモニターできた。実用化までに、航空輸送も追跡可能にする。

<we.trade(ウィートレード)>

概要:オランダのラボバンク、ドイツ銀行、HSBC、ベルギーのKBC、ナティクシス、仏ソシエテ・ジェネラル、イタリアのウニクレディト、スウェーデンのノルデア銀行、スペインのサンタンデールの9行が参加。ブロックチェーン基盤「ハイパーレッジャー・ファブリック」をベースにしたIBMのブロックチェーン上に構築されている。

特徴:欧州の中小企業が対象。信用状の代わりにスマートコントラクト(イーサリアム・ブロックチェーン上のプロトコル)を使い、迅速なファクタリング(債権回収・保証)を可能にする。

主な成果:18年7月に欧州11カ国で実用化し、10社との間で7件の貿易取引を遂行したことを明らかにした。

<HKTFP(香港貿易金融プラットフォーム)>

概要:香港金融管理局とシンガポール金融通貨庁(共に中央銀行に相当)の提携事業で、中国の平安保険集団の技術を活用している。HSBC、スタンダードチャータード、香港の恒生銀行、香港の東亜銀行、豪オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)グループ、シンガポールのDBSグループ・ホールディングスなど21行が参加しているとされる。

特徴:年内に実用化の予定。サプライチェーンの記録管理を電子化し、他の貿易プラットフォーム(マルコポーロやウィートレードなど)と接続することで、国際貿易のさらなる円滑化をめざす。

主な出来事:18年末に一定のコンソーシアムと接続される予定。

今後の展望

ブロックチェーン技術を活用すれば金融貿易の参入障壁が下がり、仲介者が不要になるため、市場が拡大する可能性がある。だが広く使われるようになるには、拡張性やセキュリティー、規制に関する問題にも対処しなくてはならない。

各プロジェクトの相互運用性も課題だ。分散型台帳技術は信頼できる関係者だけが参加する「クローズド型」であるため、全ての貿易パートナーは同じ台帳を使わなくてはならない。このため、市場が細分化すれば、システムは機能しない。

この技術のメリットの一つは、唯一無二の「ゴールデンレコード」が作成され、重複計上のリスクを軽減できる点にある。だが、各行はそれぞれ異なる台帳の開発に参加しているため、このメリットを生かせるとは限らない。

「誰もが率先して二番手に回りたがる」という格言は、ブロックチェーンのような新しいテクノロジーを試す上での銀行の姿勢をまさに言い当てている。各行は先行すれば見返りよりもリスクが大きいと捉えているからだ。

だが、貿易金融の実証実験は早い段階で成功を収め、銀行や規制当局も意欲的なため、今後も投資や技術革新が続くだろう。

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