大坂、全米テニス初V手繰り寄せた「集中力」
S・ウィリアムズを応援する地元ファンの声援で異様な雰囲気が漂う中、大坂はマッチポイントにサービスエースを決めた。そして手で胸を押さえると、涙をこぼした。
「集中していたから、場内の音は聞こえていなかった。本当に何が起きていたかわからなかった」。ジャンプも叫び声もない、あまりに静かな喜び方がシャイな大坂らしい。「現実じゃない気がしちゃって。今は何も感じられない。数日したら現実と思えるかも……」と、柔らかな笑顔で話す。
四大大会決勝でS・ウィリアムズと戦う――。子どものころからの夢がかない、さすがにこの日の朝は緊張していた。ただ、「コートに一歩足を踏み入れたら別人になる。私はセリーナのファンではなくテニス選手」。
立ち上がりからラケットがよく振れていた。相手の強打に打ち負けない。「セリーナと対戦するときは、強い意志を持っていかなければいけない。チャンスがあれば決めにいかないといけない」。長いラリーになれば右に左に走らせ、時には相手の想像を超えるショットで切り返してみせた。さらにファーストサーブの確率が73%。「セリーナの硬さばかりが目立ち、なおみに『まずい』と思う瞬間は一度もなかった」と、日本テニス協会ナショナルチーム女子コーチの吉川真司さんは言う。
次第にS・ウィリアムズはイライラを爆発させ、警告を受けた。観衆も騒然とし、第2セットは荒れに荒れた。それでも大坂は動じなかった。「アドバイスのしようがない状況。よくぞ戦い続ける集中力を保った」と、サーシャ・バインコーチも舌を巻いた。
ブーイングの中で始まった優勝インタビューでは「こんな結果になってごめんなさい」とひと言。思いがけない言葉は観衆のハートもわしづかみにしたようだった。そして、四大大会最高の優勝賞金380万ドル(約4億2000万円)も手にした。「うーん、お金を使うタイプじゃないんで。来週、東京で姉に会えるのが一番のプレゼント」。20歳の新女王は無邪気だった。