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勝ち星恵まれぬデグロム 異例の最優秀投手賞候補

スポーツライター 杉浦大介

米大リーグ、メッツのジェイコブ・デグロムが防御率1点台と快投を続けている。しかし、チーム成績が低迷していることもあり、30歳のエースはここまで8勝8敗。近年は投手の評価基準で勝敗が重視されなくなっており、この成績でもナ・リーグのサイ・ヤング賞(最優秀投手賞)に値するかが話題になっている。史上初めて10勝以下、あるいは負け越してのサイ・ヤング賞投手が生まれるのか。(記録は9月8日現在)

3日(日本時間4日)、敵地で行われたドジャース戦でもデグロムは見事な投球を披露した。プレーオフを争う強豪チームを相手に6回を投げ、2安打1失点。1点をリードされていた五回には自らが右前適時打を放ち、ゲームを振り出しに戻すおまけまでついた。

28試合目の先発を終えた時点で、防御率1.68はリーグ断トツのトップ。230奪三振はリーグ2位だ。3日のドジャース戦まで25試合連続で失点を3以下に抑え、1984年にドワイト・グッデン(メッツ)がマークした「24試合連続」を塗り替える新記録も達成した。

自責点1以下でも勝てぬ12試合

しかし、3日の登板は今季のデグロムを象徴していたのかもしれない。好投して、時には打撃でもチームに貢献しながら、なかなか勝ちがつかない。8月28日のカブス戦でも8回を1失点に抑え、自身が適時打を打ったのにもかかわらず、援護がないまま1-1の同点で降板していた。

ヨエネス・セスペデス、ジェイ・ブルースら主力打者の故障もあって、今季のメッツは得点力不足に悩まされてきた。このため、デグロムの援護率(投手が投げている間に味方打線が取った得点を9回当たりに置き換えた数値)3.57はワースト2位(120イニング以上投げた投手)。これでは勝ち星が増えるはずもなく、5月23日以降は4勝8敗と負けが先行している。

だからといって投球内容が悪くなったわけではない。6月は6試合に先発して防御率2.36、7月は4試合で同1.74、8月は6試合で同1.24。自責点1以下に抑えても勝てなかったゲームがなんと12試合を数えるのだから、不運という以外にない。

「常に相手を無得点に抑えるつもり投げている。0-0のつもりで投げるのが僕のアプローチ。走者を塁にさえ出したくないと考えてきた」

ナ・リーグ東地区4位に低迷するチームで黙々と投げながら、デグロムはシーズン中盤ごろからそんなコメントを繰り返していた。現実的に相手をゼロに抑えなければ、いや抑えてもなかなか勝利のチャンスがない。今季のデグロムが異例のシーズンを過ごしていることは間違いあるまい。

3日のドジャース戦では適時打も放った=USA TODAY

こうした状況で、サイ・ヤング賞の投票権を持つ全米野球記者協会の記者たちは難しい判断を迫られることになりそうだ。

評価基準、勝ち星の割合低下

先発投手の力量を評価する場合、近年では勝ち星は重視されなくなっているのは紛れもない事実だ。打線の援護の有無や救援陣の力量次第で、どんなに好投しても勝てない試合はある。勝ち負けは投手の能力だけでなく、所属チームの強さや運不運に左右されるところが大きい。今季のデグロムはその極端な例。米紙ワシントン・ポストは8月9日付で、「今季のデグロム(の投球)は勝ち星がいかにばかげたデータであるかを示している」というぶしつけな見出しの記事を発信していた。

2010年にはフェリックス・ヘルナンデスが低迷していたマリナーズで13勝12敗の成績ながら、投球内容が評価されて史上最少の勝利数でサイ・ヤング賞を獲得した例がある。それと同様、自らコントロールできる防御率というカテゴリーで抜群の数字を誇るデグロムもサイ・ヤング賞の有力候補に挙げられてしかるべきだろう。

もっとも、その一方で、ヤンキースのラリー・ロスチャイルド投手コーチがこのように語っているのも無視できない。

「最近では勝利投手の価値は軽視されているが、私は依然とても重要だと考えている。先発投手は(1試合で)相手打者とおおよそ3度対戦し、勝負がかかったバトルに勝たなければ勝ちは得られないのだから」

勝ち星も投手成績の中の1項目であり、選手は勝つことを目的にプレーする。先発は5回以上を投げてチームを勝利に近づけなければ勝ち投手にはなれないのだから、運などの外部要因を考慮した上でも勝ち星はやはりまったく無意味なデータとは思えない。その数が多いに越したことはない。デグロムが10勝にも届かず、たとえば9勝10敗の成績で終わったとして、本当にその年の「最優秀投手」に値するかどうかは意見が分かれるところだろう。

一般的に、今季のナ・リーグでは3人の先発投手がサイ・ヤング賞候補として挙げられている。デグロム以外に、ナショナルズのマックス・シャーザー、フィリーズのアーロン・ノラも素晴らしいシーズンを過ごしているのだ。

ジェイコブ・デグロム
 8勝8敗、防御率1.68、先発28試合、投球回数188、奪三振230、WHIP(「被安打数」と「与四球数」の合計を投球回数で割った数字)0.96
マックス・シャーザー
 17勝6敗、防御率2.31、先発30試合、投球回数202.2、奪三振271、WHIP0.88
アーロン・ノラ
 16勝4敗 防御率2.29、先発29試合、投球回数188.2、奪三振196、WHIP0.96

69年以降、シーズン200回以上を投げて防御率1.70以下だった投手はメジャーでもグッデン、グレグ・マダックス、ザック・グレインキーの3人しかいない。デグロムが4人目になったとしたら、サイ・ヤング賞という形で認められるのが適切と考えるファン、関係者は増えてきそうだ。

もっとも、過去2年連続でナ・リーグのサイ・ヤング賞を勝ち取ったシャーザーは今季、投球回数と奪三振でリーグトップ、勝ち星もトップを争っている。今後、デグロムの防御率がやや悪化した場合、シャーザーが2倍の勝ち星を挙げてきたことが、いわば選考基準になるかもしれない。

また奪三振数や、1イニングあたりに出した走者の数を示すWHIPではシャーザーに劣るノラだが、この3人の中で唯一、プレーオフ争いを続けているチームのエースとして投げてきた強みがある。必ずしも個人の力でどうこうできる部分ではないとはいえ、消化試合ではなく、緊張感あふれるマウンドで好投してきたことは評価されてしかるべきだ。シーズン終盤の戦いの中で、伏兵ノラが浮上しても不思議ではない。

このようにそれぞれ優れた成績を残してきた3人の中でも、最大の注目はやはりデグロム。先発の勝ち星が特筆されない時代を象徴するように、史上最少勝利数を更新する10勝前後でサイ・ヤング賞に輝くのか。それとも低迷するチームに所属していた「悲運」に泣かされるケースとなるか。

プレーオフ争いから大きく引き離されていても、デグロムの登板時にはメッツの試合は見逃せないイベントになる。ファンや報道関係者の間では、誰が「今季最高の投手」にふさわしいのか議論がシーズン終盤まで続いていきそうだ。

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