2018年11月16日(金)

薬と優しさ 飛び出す包装 沢井製薬の骨粗しょう症薬(もっと関西)
ここに技あり

コラム(地域)
関西
2018/9/10 11:30
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薬を服用するために包装された錠剤を親指でぐっと押し出す。一般の人には何でもない動作だが、指の力が弱った高齢者や手先が不自由な人にとっては一苦労だ。家族らが常に手伝えるとは限らない。後発薬大手の沢井製薬(大阪市)は、こんな不便さを解消しようと工夫を重ねている。

弱い力でも簡単に開封できるカード型の包装

弱い力でも簡単に開封できるカード型の包装

6月に発売した骨粗しょう症薬の包装は独特だ。名刺より一回り大きい台紙の中央に、薬が入った透明なポケットが1つ。両手または片手で持ち、カードの両端を2本の指で挟んで力を少し入れると半分に折れ錠剤が出る。弁当などに付くケチャップやマヨネーズ容器の要領だ。

これらのデザインは高齢者らの使いやすさを追求した結果だ。台紙には薬の取り出し方や飲み方も記されている。

この包装はもともと包装メーカーのカナエ(大阪市)が2013年に発案したが、実用例はなかった。沢井製薬で15年に骨粗しょう症薬の企画が始まった際、包装担当の山野政和さん(41)は「これなら高齢者が服薬しやすいのでは」と考えた。

「面白い」「使い方が難しい」と社内でも賛否両論だったが、薬剤師に相談すると「絶対にやるべきだ」と背中を押された。一緒に開発した神田修子さん(33)は「開けやすさに感動した。1年間社内の説得に駆け回った」と話す。

カナエと協力し、開けやすさや大きさを突き詰めた。開けやすさは人により異なり、機械で測りにくい。社内外の100人以上の声を聞き微調整を重ねた。発売までに折り曲げた数は1万個を超える。

例えば、カード中央のミシン線は折り曲げる力を左右する。高齢者でも折り曲げやすくするため、切り込みの長さを0.1ミリメートル単位で調整し、最終的に5.4ミリメートルとした。

折った時に錠剤がはじけ飛ばない工夫も必要だ。錠剤とポケットの壁との間が狭いと、はじけ飛びやすくなる。大きさを調整し、「錠剤が手にポロリでなく、ポトッと落ちるようにした」(神田さん)。

こだわりは台紙の表記やイラスト、付属の飲み忘れ防止シール、捨てる際の分別など多岐に及ぶ。高齢者に配慮した包装は、ライバル薬に勝つ武器にもなる。骨粗しょう症薬は8月、日本包装技術協会から表彰された。沢井製薬はカナエの包装特許を一定期間、独占利用できる契約だ。

骨粗しょう症薬は服用をやめてしまう患者も多い。山野さんは「いずれは他社にも採用してもらい、患者さんが正しく長く薬を飲む環境を整えることが第一だ」と話す。包装は薬の品質を守り、正しい情報を伝えるためにも重要だ。「薬の最後のとりで」(沢井光郎社長)には、担当者の知恵や熱意も詰まっている。

文 大阪経済部 宮住達朗

写真 淡嶋健人

 カメラマンひとこと 錠剤が包装から飛び出す瞬間をとらえるのに難航した。シャッターを切るタイミングが早ければ“ポトッ"という感じがでない。遅いとフレームから外れてしまう。3、2、1、カシャッ――。担当者と息を合わせ何度も撮り直す。構図も含め試行錯誤すること2時間、ようやく思い描く場所に錠剤を留めることができた。

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