2018年9月24日(月)

ダイバーシティーはスタートアップが拓く

コラム(ビジネス)
スタートアップ
2018/9/9 6:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

 ダイバーシティー(多様性)の究極は、各人が個性を認め合い、その個性がお互いの長所を伸ばし、短所を埋めて、社会をフラットにすることだ。性差や年齢差はもとより、身体障害や発達障害の人々も普通に交じり合う。そこに、マイノリティー(少数者)は存在しない。

■ミライロ 歩けないから作れる街

 障害者を含め、誰もが暮らしやすい街づくりの企画・設計を手掛けるミライロ(大阪市)。自身も車いすで生活する垣内俊哉社長(29)は「歩けない視点があるからこそできるビジネスがある」と考え、大学在学中の2009年に起業した。

 生まれつき骨が弱く、小学生から車いすの生活だった。高校時代、歩けない自分に嫌気が差し、休学して大阪で専門医の治療を受けた。闘病生活の中、「何か大きいことをしたら自分が認められるのではないか」と起業を意識し始めた。

垣内俊哉社長(かきうち・としや)
1989年愛知県生まれ。2009年立命館大学経営学部在学中に前身となる団体を創業。10年にミライロを設立。29歳。

垣内俊哉社長(かきうち・としや)
1989年愛知県生まれ。2009年立命館大学経営学部在学中に前身となる団体を創業。10年にミライロを設立。29歳。

 猛勉強の末、立命館大学経営学部に入学。1年生の時、学食で民野剛郎副社長(29)と出会い、一緒に起業を目指すことになった。事業のアイデアを試そうと参加したビジネスコンテストで13件もの賞を獲得。最も評判が良かった大学校内のバリアフリー地図の作製を事業化することにした。

 しかし起業直後は経験不足から苦労の連続。コンテストで稼いだ500万円の資金は底をつき、「3年間は大赤字が続いた」。東京の大学に営業に行くための移動は夜行バスを使い、役員報酬はゼロ、役員がコンビニで働いて稼いだお金を会社に貸し付けることで何とか会社を存続させた。

 風向きが変わったのは創業の4年目の13年。大学、ホテルや結婚式場、レジャー施設など3年間で1000カ所以上を回った種まきが奏功し、バリアフリーに関心を持つ施設が増え始めた。13年9月には20年に東京五輪・パラリンピックを開催することも決まった。14年に東京、15年に福岡に事務所を構えた。

 段差の解消などハードの改善は進んだが、障害者と健常者の間にある「心の壁」は残ったまま――。現場を回る中でそう痛感した垣内社長は障害者との向き合い方や接し方を指南するユニバーサルマナー研修を始めた。講師を務めるのは垣内氏をはじめ、全盲やトランスジェンダーなど障害や不自由を抱える同社社員ら。「障害があるからこそ伝えられる」と垣内社長。これまでに6万人が受講した。

 障害を抱えるトップは弱点もあるが、組織力でカバーする。垣内社長は16年に病状が悪化し、半年間の入院を強いられた。残された社員が奮起し、17年5月期の売上高は3億円を達成した。証券会社や銀行から入社する人も増え、従業員数は50人を超える。「社会貢献だけでなくビジネスとしてみんながもうかるようにしたい」との姿勢が多様な人材を引き付ける。

 障害者雇用を巡っては最近、省庁による水増し問題も発覚した。垣内社長は「障害者が学んだり、お金を使ったりできる場所が少なく、障害者自身の勤労意欲が高まらないことも背景にある」と分析する。企業が提供する製品・サービスが障害者にとって使いやすいかを覆面調査する事業や飲食店の段差など街のバリアフリー情報を点検する地図アプリも始めた。

 障害者の行動を阻む「段差」をなくすことは、高齢者やベビーカー利用者など誰もが暮らしやすい社会につながる。「我が国の街づくりに協力してもらえませんか」。垣内社長の元にはエクアドルやミャンマーなど海外途上国からも相談が舞い込む。20年の東京パラリンピックまでに国内にバリアフリーを浸透させ、「ノウハウを生かして世界に展開したい」。車いすの起業家の挑戦は今後も続く。  (鈴木健二朗)

■ホロアッシュ 発達障害の生きにくさ解消

 発達障害の一種である注意欠如多動性障害(ADHD)を自ら持ち、発達障害者の生活を支援するハードウエアを開発中の起業家がいる。HoloAsh(ホロアッシュ、米デラウェア州)の岸慶紀・最高経営責任者(=CEO、28)だ。米国での事業展開を目指し、起業家育成プログラムに積極的に挑戦している。

 「自分自身の課題でもある、発達障害者の生きにくさを解決したい」。岸氏の起業のきっかけは自分の経験してきた悩みだった。

岸慶紀CEO(きし・よしあき)
1990年福島県生まれ。2013年早稲田大学教育学部卒。2社の起業を経て、18年4月にHoloAshを米国で起業。28歳。

岸慶紀CEO(きし・よしあき)
1990年福島県生まれ。2013年早稲田大学教育学部卒。2社の起業を経て、18年4月にHoloAshを米国で起業。28歳。

 ADHDと診断されたのは高校生の時。小学生時代から通知表などに「落ち着きがない」「忘れ物が多い」と書き続けられ、自分はダメな人間だと思っていた。高校の先生に勧められて受診したところ、ADHDとアスペルガー症候群を併発していることがわかった。

 早稲田大学に進学後は教師を目指すが、カリキュラムがしっかりしていて高い出席率を求められる教育学部の授業に通い続けることは難しかった。アルバイトに傾注するうちに仕事が面白いと感じ、スタートアップでインターンとして働くように。「自分でも起業できるかもしれない」という気持ちが芽生える。

 卒業後はIT(情報技術)企業で働いたが1年で辞め、2014年に起業。ウェブ制作などに取り組んだがうまくいかず2社の起業失敗を経て、今年3社目となるホロアッシュを設立した。

 現在開発中のハードウエアは、ヒト型のホログラム(3D立体映像)が浮かびあがり、対話しながら予定確認などの手助けをしてくれるアシスタントとなる。注意散漫で予定を忘れることが多く、落ち込みやすいADHDの生活を支援する。「スマートフォンを利用しすぎて注意散漫になる『インターネット脳』になっている人が多いといわれる。ADHD以外の人にも利用してほしい」(岸氏)という。

 事業展開の場に選んだのは米国だ。人工知能(AI)による自然言語処理が英語の方がしやすくADHDの市場が大きいことが理由。米国ではADHDは「薬で治す病気」という位置づけで、薬への依存度が高くなる傾向がある。岸氏は「薬に頼らない解決策を示したい」と考えている。ハードウエアに先んじて、まず年内にアプリをリリースする計画だ。

 海外経験はなかったが思い切って渡米し、今年3月に米スタートアップ起業の祭典「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」に出展した。米国のアクセラレーター約80社に応募した末、米シリコンバレーでアクセラレーター「TVLP」のプログラムに参加。ビジネスモデルに厳しい指摘を受け、世界中から集まる起業家の仲間からも刺激を受けた。今秋には米アクセラレーターのYコンビネーターが実施する「スタートアップスクール」にも参加する。

 「ADHDを持つ人は集中力や共感力が高く、起業家に向いている」と語る岸氏。自らのハンディを武器に変え、米国で挑戦を続ける。  (佐藤史佳)

[日経産業新聞 2018年9月6日付]

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