電気通信大学大学院生の高橋宣裕さんと東京工業大学の小池英樹教授らは、チューブ状の人工筋肉を使い、人間の細やかな指の動きを再現する装置を開発した。手に装着すると、人工筋肉が指の動かし方を支援する。楽器の演奏技術や匠(たくみ)の細やかな手の動かし方を学ぶのに役立つ。5年後をめどに技術の確立を目指す。
人工筋肉は直径3ミリメートルで、空気を送り込むと最大で25%縮む。開発した装置は、関節に合わせて計40本の人工筋肉を張り巡らせた。それぞれの指に取り付けた4本の人工筋肉の空気圧を調節することで、細かく指を動かす。1秒間に10回の動きが可能という。
例えばピアノの演奏では、最初に指の第二関節を曲げてから第一関節を曲げるとやわらかい音が出る。第二関節を曲げてからはじくように伸ばすと、力強い音になる。装着すると指が勝手に動き、初心者でも鍵盤のたたき方を身につけられるという。ベートーベンのピアノ曲「エリーゼのために」の指の動かし方を再現したところ、うまく演奏できた。
人工筋肉はモーターで動かさず、素材も軽いため、指につけても負担が小さく、装着しやすい。今後、人工筋肉を組み込んだグローブを作り、簡単にはめて使えるようにする。手だけではなく全身用のアシストスーツを開発すれば、スポーツなどの動きを教えるのにも使えるとみている。
これまでも仮想現実(VR)向けなどで指の動きを外から変えるデバイスはあったが、非常に大がかりなうえに、指を引っ張ることしかできなかった。楽器の演奏や繊細な指の動きを学ぶには不向きだった。
(科学技術部 中島沙由香)
[日経産業新聞 2018年9月7日]