2018年11月16日(金)

アルツハイマーに挑む
(WAVE)DCIパートナーズ社長・成田宏紀氏

コラム(ビジネス)
スタートアップ
ヘルスケア
2018/9/10 6:30
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高齢化社会のフロントランナーである日本では、がんが国民病として恐れられている。だが、家庭や社会を破綻させるかもしれないもっと怖い病気がある。認知症である。

2000年エヌ・アイ・エフベンチャーズ(現・大和企業投資)に入社し、11年投資第一部副部長兼VC投資第四課長。14年5月、DCIパートナーズ社長就任。

治療費に加えて、介護費用や家族の負担を加味した社会コストの推計はがんを超えている。老人が老人の介護をする「老老介護」が問題になっているが、そのうちの1割程度は認知症の患者が同じ認知症の患者を介護する「認認介護」の状況に移行している可能性がある。

年金だけで老人ホームに入居できるかという不安があるし、認知症による自動車事故や鉄道事故の加害者として賠償責任を負いかねない。医療や介護業界にとどまらず、太陽生命保険が認知症保険を出したことを皮切りに保険業界も本腰を入れ始めている。吉本新喜劇の「たつじい」のキャラが笑えない時代になってしまった。

認知症は正確には病名ではなく、認知障害などの症状を指す言葉である。様々な病気が認知症を引き起こし、原因の6割程度を占める病気がアルツハイマー病である。

本稿ではアルツハイマー病治療の最前線の明るい話題を紹介したいのだが、実は治療以前に正確に診断することすら難しい。現状は医師が問診などでアルツハイマー病の疑いがあると診断し、その進行度合いを推定しているが、脳神経の変性といった病理変化が確認されるまで診断は確定できない。この病理変化と症状の関係が完全には明かされておらず、病理変化のみで診断を下すこともできない。

「原因はさておき、症状を緩和できればよい」という考え方もあり、いくつかの治療薬が承認を受けたが、効きがいいとは言えない。フランスは最近、これらの治療薬の効果が乏しいとして、保険治療の対象から外してしまった。

病理変化の原因とおぼしき物質から治療法を探ろうという動きも当然あり、「アミロイドβ」と「タウ」と呼ばれる物質に容疑がかかっている。

現在の治療薬開発の主流はこのアミロイドβを標的としている。バイオ医薬品など人類が持ちうる技術を惜しみなく投入したが、臨床試験では全敗している。アルツハイマー病は一度発症すると元に戻せない疾患であるため、早期に治療をする必要があるという仮説のもと、認知症の初期の患者を対象に臨床試験が組み直され、開発されている最中だ。業界関係者は皆、固唾をのんで見守っている。

もうひとつの容疑者であるタウを対象とした治療薬の開発も進められている。タウの診断技術は日本が得意としている分野でもある。放射線医学総合研究所の樋口真人氏はベンチャー企業であるアプリノイア・セラピューティクス(台湾)と診断技術の開発を進めている。治療薬がないのに、診断技術だけを確立するのはナンセンスに感じるかもしれないが、診断技術が確立されれば、治療効果の正確な測定など治療薬の開発に役立つ。

患者数の多い病気の大方は治療薬が開発され尽くしており、アルツハイマー病は製薬会社に残された最後の巨大市場でもある。製薬会社も注力している分野であり、そろそろ治療薬の登場に期待したい。

[日経産業新聞 2018年9月6日付]

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