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「想定外」終わりなき戦い

ルポ迫真

政府の原子力総合防災訓練で、海上自衛隊の大型船に乗り込む周辺住民ら(8月26日、福井県高浜町)=共同

晴天に恵まれた8月26日の敦賀湾(福井県敦賀市)。関西電力の大飯(同県おおい町)、高浜(同県高浜町)両原子力発電所近くの住民6人が、負傷者としてヘリコプターで海上自衛隊の掃海母艦に搬送されてきた。「大丈夫ですか」「名前を言えますか」。福井総合病院の外科部長、恩地英年ら災害派遣医療チームの5人が声をかける。

まずは治療の優先順位を付けるトリアージ。重傷者に聴診器をあてる、応急処置を施す……。恩地は「普段とは機材も状況も違う。訓練をしておくことが大事」と口元を引き締めた。

「2原発で同時に事故発生」との想定で初めて行われた政府の原子力総合防災訓練の一場面だ。直線で14キロと近接する2原発にはそれぞれ避難計画があるが、同時事故に備えた計画はない。訓練では原子炉が相次ぎ冷却不能になり、炉心が損傷し放射性物質が外部に漏れる状況を想定。福井、滋賀、京都3府県の住民約1万7千人が参加し、大飯原発では原子炉を冷やす大容量ポンプの設置訓練もした。

東京電力福島第1原発事故で避難指示の対象は当初、原発20キロ圏内の約8万人に上ったが、指示のタイミングは遅れた。国などの情報提供が不十分で、住民はどう逃げてよいか分からず混乱。渋滞が発生し、避難後のストレスなどで亡くなる「震災関連死」が相次いだ。

教訓は迅速な避難の重要性だ。事故後、避難計画策定が必要な地域は原発30キロ圏に広げられ、関係自治体は作業を急ぐ。

再稼働を目指す日本原子力発電の東海第2原発(茨城県東海村)。30キロ圏内の住民は全国の原発で最も多い96万人に上る。現時点で策定を終えたのは笠間、常陸太田、常陸大宮の3市だけで、実効性のある避難計画づくりは難航している。圏内人口が多く、「避難を受け入れる県外自治体との調整に時間がかかっている」(県原子力安全対策課)ことなどが背景にある。作業が長引けば、再稼働の判断にも影響を及ぼしかねない。

福島事故から間もなく7年半。廃炉や汚染水処理の苦闘が続く一方で、全国で9基が稼働し13基が再稼働に向け審査中だ。強化された安全基準を満たしていても、事故の不安は残る。原子力災害から人命を守るには効果的な避難計画が不可欠だ。新たな「想定外」を含む事態への危機意識を、日本全体で共有する必要がある。(敬称略)

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