2018年11月17日(土)

ホラテクVRで心霊体験 闇の恐怖、お墨「憑き」

コラム(ビジネス)
スタートアップ
2018/9/5 11:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

デジタル技術でホラーコンテンツを開発する「闇」(東京・世田谷)。圧倒的にインパクトが大きいのは社名だけではない。「ホラテク」と銘打ち、本物の心霊体験に迫る臨場感を打ち出す。テーマパークやホテルなどレジャー業界中心だった商談の輪は周辺業界へと広がり、ゾクリとするコラボレーションがあちこちで生まれている。

■ウェブ会社からスピンアウト

最新作の「金縛りVR」では逃げられない空間で幽霊に襲われる怖さを打ち出す

最新作の「金縛りVR」では逃げられない空間で幽霊に襲われる怖さを打ち出す

ある日、私は旅に出かけた先の村で偶然「呪いの人形」を目にしてしまう。その夜、昼間見た美しい日本人形が醜い幽霊にひょう変。頭から血を流しながら、ふすまを開けてゆっくりとこちらに近づき、金縛りで動けなくなった私の体に馬乗りになり、包丁で突き刺してくる。翌朝、目を覚まし、夢かと安心したのもつかの間、「お守り」として握るよう渡されたこけしは変わり果てた姿になっていた……。

闇が手がけた最新作の「金縛りVR」では、布団にみたてたマットレスに横たわりVR(仮想現実)ゴーグルを装着、重りで体を固定しながら前述のシナリオを体験する。幽霊は役者を使った実写映像だ。画面の中と分かっていても、怖い。記者は心の準備に20分かかった。体験中は恐怖のあまり悲鳴すら出ない。

「どう怖くするか、普段から考えてます」。頓花聖太郎代表取締役(37)は手応えを確信したかのようにこう話す。恐怖の仕掛け人とは思えぬ優しい語り口。聞けば大のホラーファンという。

親会社でウェブ製作を手がけるスターリーワークス(大阪市)から、頓花代表がスピンアウトを決めたのが始まりだった。自らの「専門」と経営資産のデジタル技術を組み合わせ、2015年4月に闇が生まれた。

社員数は6人で、年間5~6本のコンテンツを製作する。人の感性に触れる「商品」だけに、プロジェクトごとに開く会議では「ロジックよりも恐怖を感じるポイントを探り合う」ことに主軸を据える。「あと0.5秒早く出たら怖い」「揺らしたほうが怖い」といった具合だ。

親会社からスピンアウトして闇を立ち上げた頓花代表(中央)ら

親会社からスピンアウトして闇を立ち上げた頓花代表(中央)ら

小説から映画化された和製ホラー「リング」など、過去の名作を演出のヒントにするという。このほか、関連会社で子ども向けコンテンツを制作するボタン(同)からひらめきを得ることもある。鏡に映る人の回りに映像が入り込み、同じ空間にいるような投影技術も、見せ方を変えれば一気に怖くなる。

社内イベントでも肝試しと謎解きを掛け合わせたゲームなどを開く。事業化に向けた市場調査の面もあり、「実際にプロジェクトとして決裁を出したケースもある」(頓花代表)。

需要が集中するのは「背筋も凍る体験」が期待される夏場だが、最近ではエンターテインメント業界以外の仕事も増え出した。脱毛サロンやリゾート地のアルバイト求人などで、販促の一環として怪談を交えた特設サイトを作りたいとの依頼だ。ホラーサイトは怖い物見たさで閲覧数そのものが増えるだけでなく、SNS(交流サイト)を通じて多くの人に取り上げられるため、情報が拡散しやすい。

「流血などグロテスクなものはNG」と制約も多く、コンテンツ開発は簡単ではないが、SNSの利用者数の増加は追い風。ホラーのあり方も「一人で怖がる」から「みんなで怖さを共有する」ものに変わりつつあり、「テックとの相性はいい」。ハロウィーンなども含めて商機の通年化をめざしている。

■潜在需要はグローバル

テーマの広がりも今後の課題だ。「人はわからないものより、わかるものに恐怖を感じる」(頓花代表)として、日本人なら誰でも静かな怖さを感じた経験のある畳やふすま、お札などをベースにしてきた。ただ、ユーザーの年齢が5~10歳違えば団地や携帯電話が恐怖の象徴になり得るのだ。「時代の変化に合ったホラーを提案したい」

エンタメ全体の中でホラーは市場としてはまだ小さいが、世界各地に潜在需要があるテーマだ。例えばタイには日本同様に独自の死生観があり、韓国ではホラーの定番の題材が高速鉄道だったりする。「この分野ではプレーヤーがまだまだ少ない」と頓花代表。ネットワークを広げる目的もあり、今夏に本社機能を大阪から東京に移した。

頓花代表を筆頭に、日々、恐怖の創出に知恵を絞る社員たち。暇をみつけては国内外のお化け屋敷やホラー映画を見学する「ホラー意識高い系」が多く、研究開発費はもっぱら自腹だ。ホラーが唯一苦手なデザイナーから「おはらい代が欲しい」と経費精算を求められたことがあるが、「お化けというせっかくの『徳』がはらわれてしまうようで……」と頓花代表はNoを貫いた。

「いつか本物の幽霊に出合いたい」と目を輝かせるような社員だらけの闇の社内は、明るい雰囲気で満ちていた。

 (川崎なつ美)

[日経産業新聞 2018年9月5日付]

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