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見えぬ暴力指導の実態 体操コーチ処分の経緯カギ
編集委員 北川和徳

2018/9/5 6:30
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 体操の女子選手に対する暴力指導とコーチの処分から始まった問題は、日本体操協会副会長の塚原光男氏(70)と女子強化本部長である塚原氏の妻、千恵子氏(71)のパワハラ疑惑に波及した。またもや第三者委員会の登場となったのだが、どうにも釈然としない。発端となった暴力指導の実態がさっぱり見えてこないからだ。

 無期限の登録抹消処分を受けた速見佑斗コーチ(34)が、ナショナルトレーニングセンターでの代表合宿の練習などで、リオデジャネイロ五輪代表である教え子の宮川紗江選手(18)の頭をたたいたり髪を引っ張ったりする暴力を何度か振るったことは、当事者も認めている。この事実だけで処分は下せる。しかし、どの程度の暴力だったのか。周囲はどう受け止めていたのか。速見コーチへの是正の指導はあったのか。最近も行われていたのか。目撃者も複数いたとされても、細部はまるで明らかになっていない。

コーチからの暴力を巡る問題で、8月29日に記者会見する宮川選手(右)=共同

コーチからの暴力を巡る問題で、8月29日に記者会見する宮川選手(右)=共同

 「馬乗りになって殴打した」「髪を持って引きずり回した」という報道もあった。一部でそう証言した人物がいたのだろう。記者が見ていたわけではない。宮川選手は記者会見で真っ先に否定した。時期や頻度も食い違っている。体操協会は2018年5月まで暴力行為があったとしているが、宮川選手は「1年以上前のこと。そんなに頻繁ではない」と説明した。どちらかが間違っているわけだ。

 スポーツ指導では「理由がどうあれ、ささいな暴力も絶対に許されない」というのが、日本でも常識として定着しつつある。しかし、暴力行為を確認して処分さえできれば、実態はうやむやでもいいわけではない。世間の関心は塚原夫妻のパワハラ疑惑に移ったが、それを検証するにおいても、速見コーチへの処分が下された経緯は重要なポイントになる。

 主張が対立しているというが、パワハラをめぐる塚原夫妻と宮川選手の話の内容に極端な隔たりはない。発言の意図や受け取り方といった主観的な解釈の違いが際立っているだけに思える。

 宮川選手が言うように塚原夫妻が「コーチと私を引き離そうとしていた」のは、どう解釈してもその通りだろう。実際に関係を絶つように迫っている。ただ、速見コーチの暴力が問題視されて処分が下されたのだとすれば、強化責任者としては当然の行動だと思う。20年東京五輪で日本がメダルを獲得するために欠かせない選手がコーチを失う事態を放置することはできない。塚原氏は「パワハラではなく指導です」というが、それならば「説得」と言うべきだろう。

全日本種目別選手権に出場した宮川選手と速見コーチ(2016年6月)=共同

全日本種目別選手権に出場した宮川選手と速見コーチ(2016年6月)=共同

 しかし、1年以上も前の黙認していた暴力行為が急に蒸し返されたのだとしたら、別の見方ができる。彼女の練習環境を強引に変えるため、速見コーチの暴力をあらためて利用したのではないかと。しかも、塚原夫妻が運営する朝日生命体操クラブへの引き抜きの意図があったと、宮川選手は感じている。それが第三者委の調査で証明されれば、彼女だけでなく速見コーチに対しても許されない悪質なパワハラだ。

 今の状況ではそのどちらかは判断できない。

 速見コーチも会見をするそうだ。本当なら宮川選手の会見に彼も同席すべきだったと思っている。自分の失敗と向き合うのはつらいだろうが、すべてを率直に明らかにしてほしい。

(20年東京五輪開幕まであと688日)

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