2018年11月14日(水)

旭化成のスタートアップ投資 新事業創出へ買収も

コラム(ビジネス)
スタートアップ
2018/9/4 6:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

旭化成は2008年から米シリコンバレーやボストンを拠点にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を運営している。これまで水処理や殺菌デバイス、正極材など多分野の15社に投資。すでに本業との相乗効果が出ている事例もある。立ち上げ時から責任者を務める森下隆ゼネラルマネジャーに聞いた。

CVCを担当する森下隆ゼネラルマネジャー

CVCを担当する森下隆ゼネラルマネジャー

――旭化成がスタートアップ企業に投資する狙いは。

「新しい事業をつくるのがゴールだ。4月には投資先だったガス検知センサーの部品メーカー、センスエアー(スウェーデン)を買収した。自社の半導体事業との相乗効果が見込めると判断した。スタートアップ企業を買収している大手素材メーカーは旭化成くらいだろう」

「材料(マテリアル)や医療(ヘルスケア)など旭化成の事業領域は多岐にわたるので、センスエアーのように投資先には既存の事業に近い分野は多いが、薬物送達システムのゼリスのようなホワイトスペースもある。ゼリスはすでに売却しており、ホワイトスペースの企業をどうやって事業に結びつけていくかが課題だ」

――運用体制は。

「ベンチャー投資の経験がある米国人のほか、自社からも新規事業をやりたい社員に参加してもらっている。投資先の取締役会には自社の社員が参加するようにしてマーケットへの理解を深められるようにしている」

「CVCは研究開発本部の傘下にあり、どのような技術が欲しいのか本部と連携しながら投資先を探している。投資するかを決める投資委員会には、マテリアルとヘルスケアの企画や研究開発担当の社員が入っている」

――事業を始めてからすでに15社の投資実績があり、着実に増やしています。

「16年から3年間で5千万ドルの予算内で500万ドル以内の投資は役員の承認がなく投資委員会で決められるようになったことが大きい。これまでの投資のうち半数以上にあたる9件が16年以降にきめたものだ。2~3カ月でデューデリジェンスや意思決定できるようにしたから投資実績につながっている」

「スタートアップ企業から見て事業会社への期待は大きい。モノをつくることができ、販路もあるからだ。一方、日本企業に対して『物事を決めない』、『時間がかかる』、『必要以上の情報を求める』というイメージを持たれているのが現状だ。米国の商習慣にあった経営をする必要がある」

――今後の投資計画は。

「現在の投資先である北米、欧州やイスラエルを中心に自動車関連のスタートアップを探したい。ホワイトスペースにも積極的に投資していく」

「米国やカナダのベンチャーキャピタルにも投資しており、投資先企業の情報源であるディールソースを年間数百件共有している。現在も数社のデューデリジェンスを行っており、年間4~5件の投資実績を出していきたい」

■ ■ 記者の目 ■ ■

他業界でベンチャー企業との協業が進むなか、素材メーカーとスタートアップ企業の関わりは薄いのが現状だ。素材は川上分野であるため、それをうまく使いこなす技術や機械設備を持つ企業が少ないのが要因だろう。

旭化成がスタートアップ投資を進める背景には革新的な新素材を生み出せていない危機感がある。たとえば米デュポン(当時)が1935年に開発した世界初の本格的な合成繊維「ナイロン」。低価格で軽量、耐久性に優れていることから、産業用途のほかストッキングや歯ブラシなど爆発的に広がり、消費者の生活を一変させた。

森下氏は01年からシリコンバレーにおり、IT(情報技術)バブルに乗ってCVCの拠点を構えたものの、損失を出して撤退した日本企業を数多く見てきた。失敗しないための秘訣を「具体的なアウトプットを決めておくこと」と語る。

買収したセンスエア-のように、自社技術を強みに革新を生み出そうとしている旭化成。その時々のブームに踊らされず、実力を冷静に分析することが必要だ。

(世瀬周一郎)

[日経産業新聞 2018年9月4日付]

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