JR東日本、駅 売店 電車 無人化探る - 日本経済新聞
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JR東日本、駅 売店 電車 無人化探る

「人手の確保が難しくなっている」。JR東日本の幹部は口々にこう話す。駅では無人化への取り組みを進めているが、人口減少社会を受けてさらなる拡大は避けられそうにない。ならば無人の状態でもサービス水準を維持できるようにしようと、駅構内や電車で新しいシステムの導入や技術開発を進める。

千葉市西部に位置する総武線の幕張本郷駅。乗車人員は1日平均3万人弱の駅だが、3月から駅員が始発電車から2時間程度、常駐しなくなった。鉄道事業本部営業部の南雲剛課長は「駅員数が限られる中、効率的な配置を目指している」と話す。

同社はいま、首都圏の駅であっても駅の利用者が少ない時間帯の無人化を進める。無人といえば地方駅のイメージが強いが、JR東では社員の定年退職がピークを迎えるなか、人繰りの影響が都市部の駅にもじわりと押し寄せてきている。

駅員の不在時に客が困った場合に備え、新しいシステムを導入している。改札のそばには客が使うインターホンを設置。幕張本郷駅の場合は最寄りのターミナル駅、津田沼駅(千葉県習志野市)の駅員が対応する。改札機は遠隔操作が可能で、トラブルにも対処できる。

早朝無人化は首都圏で2014年から本格化。今年3月からは総武線・下総中山駅(同県船橋市)や東船橋駅(同)で始め、同4月には武蔵野線の東松戸駅(同県松戸市)でもスタート。実施駅の数は公表していない。同社によると、大きなトラブルはなく今後も対象駅を広げる考えだ。

無人駅はJR東管内の全1662駅のうち約4割(4月時点)にのぼる。地方では駅が町の中心になることがあるため、むやみに無人化を進める訳にもいかない。駅管理の委託先である自治体でさえ、人手の確保に苦労している。6月、自治体同様、地域に根ざした仕事をしている日本郵便にも協力を要請した背景にはこんな事情がある。ただ、人口減少局面を見据え、JR東は無人でもサービスが提供できる仕組み作りを進めている。

無人コンビニ実験

「住宅地以外の駅では人(店員)が集まりにくい」。JR東事業創造本部、表輝幸執行役員は2017年11月、Suica(スイカ)で決済できる「無人コンビニ」の実証実験の場でこうあいさつした。20~26日の1週間の限定だったが、客は入出場のゲートやレジ会計でスイカを使ってもらい、店員は原則配置しなかった。米国でアマゾン・ドット・コムが1月から始めた無人コンビニ「アマゾン・ゴー」をほうふつとさせる。埼玉県草加市の男性会社員は「レジに並ぶことがなくスムーズで、便利に買い物ができた」と話していた。

このシステム開発にスタートアップ企業のサインポストが関わった。JR東に仕組みを持ちかけてから開始まで1年もかからなかった。蒲原寧社長は「新しい技術を積極的に採り入れようとするJR東の姿勢が印象的だった」と話す。JR東が人手不足の問題に直面しているという危機感の表れでもある。

JR東は約500店を展開するコンビニエンスストア「ニューデイズ」やキヨスクなどを抱える。蒲原社長は「無人コンビニの技術的な課題はクリアした」と指摘。無人店の展開はそう遠い未来ではない。

無人化への取り組みは水面下で活発だ。その1つが電車の自動運転だ。

ホームドア投資

同社は昨年春、専門のプロジェクトチームを発足。運輸系だけでなく、信号、電気系など社内横断的なチームとなった。自動運転に向けた布石は打ち始めている。10年には山手線で、電車がホームの定められた位置に止まるため、一定距離に近づくと作動する自動ブレーキを採用。恵比寿駅や目黒駅のホームドアを契機に電車が定位置に自動で停車する仕組みもある。

乗降客の多い首都圏でホームドアは自動運転に不可欠なハードと言われている。同社は3月、首都圏の主要24路線の全243駅にホームドアを設けると発表。総額5千億円を投じる巨額プロジェクトで、32年度末までに完了させる計画だ。自動運転が可能になると、電車を乗客の利用動向に応じて柔軟に投入しやすい。いまのように運転士らを急に確保する手間がなくなるからだ。

電車の自動運転は自動車より先行しており、神戸市のポートライナーなどでは1980年代から実施している。今後は人員確保が厳しさを増したり人的ミスを防いだりする観点から、自動運転の開発は加速しそうだ。

ただ、無人運転中の緊急時対応をどうするのかといった課題も多い。技術的に実現できたとしても、乗客数の多い山手線の場合は「安全上の理由から乗務員らが乗らざるを得ないだろう」(JR東幹部)。JR東では1日に約1750万人が電車に乗るなど、自動車の自動運転とは異なる、大量輸送ならではの課題もある。「安全」を第一に掲げるだけに立ち向かわなければならない試練は多い。

線路の安全 電車が監視

労働集約型モデルの象徴とされる鉄道業界。JR東日本は定年による大量退職時代に備え、このモデルを変えようとしている。人の役割をロボットや人工知能(AI)に代替させる一方、線路の保守点検などに必要な熟練の技は継承する「ハイブリッドモデル」の確立を目指す。

目がくらむほどの前照灯の明かり、けたたましいエンジン音――。深夜1時、雪上車のような形をした列車がレールの上を走ってきた。その名はREXS(レックス)。「新幹線レール交換システム」と呼ばれ、古いレールを新しいものに交換する作業用列車だ。

ここは茨城県古河市の東北新幹線の高架橋。3月上旬、JR東などはレックスで、長さ150メートルのレールを現場まで運搬。その後、時速3キロで走りながら新しいレールを地面に配置していった。以前のレール交換作業と違う点はレール同士の溶接を効率化できること。従来は溶接工による作業が1カ所で40分。レックスだと6分で終わる。先頭車両のアームを使って溶接する。

東北新幹線は開業から30年以上がたち、レールの交換が必要な時期に差し掛かった。昨年からレールの交換作業を開始。対象区間は大宮―新白河(福島県西郷村)の約140キロ。作業は終電後の実質2時間しかなく、しかも「溶接工の確保は厳しさを増している」(JR東日本)。レックスを使えば人材確保と時間短縮の一挙両得だ。

ただ、溶接の最終工程では現場に同行した熟練の職人が仕上げる。寸分たがわぬ状態に整えるには職人技が求められる。レックスと熟練職人との絶妙なコンビネーションが東北新幹線の安全神話を次代に伝える。

鉄道業は大量の人材で正確な運行や安全性、丁寧な顧客対応などを支えてきた。しかしそのモデルが通用しなくなる局面が近づいている。今後5年で60歳定年を迎えた社員の大量退職が相次ぐためだ。旧国鉄時代に入社した55歳以上の社員は約1万4千人(17年)で、全体の25%を占める。

60歳定年の再雇用を進めているが、新卒や中途で丸々補う方針は示していない。毎年コンスタントに一定数採用し続けることで組織をスリムにする。AIやIoTが減った社員の仕事を補う。

「レールを留めるボルトが外れていることも、カメラなどを使ってすぐに確認できる」。JR東の鉄道事業本部設備部、嘉嶋崇志課長はこう強調する。カメラとは電車の床下に搭載しているもので、営業中の電車が線路の状況を常時監視する。

ボルトが外れていたとしても電車の運行自体に影響はない。1時間に最大25本の電車が走る山手線ではボルトがとれることもあるが、見逃すことはできない。以前だと定期点検で発見するケースも少なくなかった。

カメラやセンサーは線路が通常とは違う状態だと異常として検知。時速130キロで走行しても枕木の状況を1本ずつ確認し、担当者にすぐに知らせられる仕組みがある。

導入した背景には新幹線と同じ事情がある。線路の保守は山手線だと作業に1時間も割けないことがある。しかも、線路の保守作業は土木分野などで専門性が高い。人材の獲得を巡ってゼネコンなどと争奪戦になるといい、土木の有効求人倍率は4倍程度と高い。

線路のモニタリングでいえば、作業員による線路の目視点検は継続する。熟練者の経験が求められているからだ。しかし新システムを使えば異常を見つけるたびに現場に行って対処すれば良く、定期点検の頻度や内容を見直せる機会につながる。異常の予兆も発見しやすくなり、予防策を講じやすくなる。

全路線の7割に

システムは2015年から開始。嘉嶋課長は「大量の画像データに対応できるストレージなどが登場し、モニタリングが可能になった面もある」と指摘。JR東は16年、約20年後を見据えた技術ビジョンを公表。生産年齢人口(15~64歳)が20%程度減る社会を見据え、AIなどの技術を採り入れ、安定輸送を維持する考え。JR東はこの「モニタリング車」を20年度までに総武線や埼京線などの計50線区に導入。全路線の7割をカバーさせる。

乗降客への応対でもロボットの導入が進みそうだ。昨年7月に設立した有限責任事業組合、JREロボティクスステーション(東京・渋谷)。駅サービスを担うロボットを導入し、駅員らの業務の支援を目的としている。構想ではロボットが乗り換え案内をしたり、駅構内で重いかばんを運んだりする。

首都圏の主要路線の全駅で設置を進めるホームドアについて、将来の電車の自動運転を見据える動きだとの見方もある。

巨大な事業フィールドを持つJR東には、AIやロボットを導入できる余地は十分にある。ただ技術の実用化には時間がかかる。すべてがシステムに置き換わるのではなく、線路溶接の最終チェックのように、安全性を担保する熟練技能の伝承も必要だ。

人口減など経営環境が急速に変化するまでに対応することができるのか。時間との闘いになりそうだ。

(企業報道部 岩本圭剛)

[日経産業新聞 2018年7月12日、26日付)]

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