民による解決着実に 不登校者の「学校」15年(風紋)
大阪府池田市の山あいにある閉校した小学校で間もなく"2学期"が始まる。小学生から高校生までの、不登校になっている子どもたちが週4日ここに通い、指導を受けながら個別に学習などをしている。農作業や料理教室など校外に出ていく課外学習も活発だ。

NPO法人トイボックス(大阪市)が池田市教育委員会の委託を受け、スマイルファクトリーの名称で不登校者のための教育事業を始めたのは15年前の9月。公設民営型のフリースクールは全国初の試みだった。
「発達の問題や人間関係などから学校に行けなくなる子どもたちがいる。学習能力も一人ひとり違うので、オーダーメードのカリキュラムを組んでいます」。12年間指導や支援をしてきた石本智一さんは語る。
不登校の子どもをいかに減らすかが課題になっていた15年前、「不登校を行政が是認するような民間委託には抵抗が強かった」と倉田薫池田市長は振り返る。
「スマイル」は子どもの在籍校と連絡を取り、連携して学習支援をしている。来校日は学校出席日数にカウントされ、在籍校に行かなくても卒業ができる。行政ができないサポートを民間組織が担ってきた。
「不登校は一部の子どもの怠け、甘えとする認識が、どこでも誰にでも起きうる問題という認識に変わった」(白井智子トイボックス代表)。フリースクールの広がりという現実を踏まえ、2017年には不登校者の支援を進める教育機会確保法が施行された。
「公の施策と民の営利事業のはざまでこぼれ落ちている問題、先端の社会課題を解決するのが私たちの役割」。白井さんがNPOの存在意義を再認識したのは東日本大震災の被災地で不登校や引きこもりの子どもの支援活動を始めた時だ。
行政は問題を抱える子どもを把握していた。しかし、全員を支援できない、平等に支援できない、などの理由で「やれない」「やらない」状況が生まれていたという。「私たちならできる範囲で支援しても文句は言われない。ニーズがあっても行政ができないこと、民間がした方がいいことは多くあると思いました」
人の継続、きめ細かい対応、しゃくし定規でない柔軟性などは、民の良さが表れる部分だ。不登校者には意思疎通が苦手な子どもが多い。「スマイル」の石本さんは「短期間で担任が代わる学校と違い、ここでは極端な場合、小学1年から高校3年まで同じ人が支援役になれる」と話す。
社会起業家の支援をしてきたNPO法人ETIC(東京)の宮城治男代表は「社会課題に行政だけが答えを出す時代ではない。今後は課題の解決に当事者意識を持って活動する人をいかに増やすかが重要になる」と指摘する。規模は小さくても存在感が大きな「民」があちこちで生まれている。その流れを着実なものにしたい。
(堀田昇吾)