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野村克也さん「死ぬまで働く。生活の安定は自ら確保」

80歳を過ぎて妻に先立たれたら(下)

「『稼げる仕事』に就きたくてプロ野球選手になり、初任給から毎月、母への仕送りを続けた」と、野村克也さんは話す。(写真:福知彰子)
日経マネー

捕手としても、バッターとしても活躍し、数々の記録を打ち立てた野村克也さん。家計に限らず子供の教育も近所付き合いも、すべて妻任せだったという。前回の「野村克也さん 一人の暮らし支える亡き妻の言葉」に引き続き、お金の管理やプロ野球選手になった理由などを聞いた。

◇  ◇  ◇

──この半年間、テレビ出演や執筆など、精力的に仕事をこなされていますね。

なぜか分からないけど、毎日のように仕事がある。何で俺なんだろうね(苦笑)。

そういえば、「もうこれぐらいでいいや」と諦めないことも、サッチーさんの信条だった。「自分はここまで」と自己限定せず、やりたいことや目標を持ち続けることが、生きる意欲や成長につながるって。年を取って一人で暮らしていると、その意味がよく分かる。

あとは、健康のために我慢しないこと。健康に悪いからと好きなものを我慢してストレスをためるより、好きなものを食べて元気でいた方がいいというのが彼女の持論。だから僕は今も好きなものを食べ、よく眠るようにしている。それが健康のバロメーターになっています。

「死ぬまで働け」にも通じるけど、できる限りお上には頼らず、生活費は自分たちで何とかする、というのもサッチーさんが言い続けたことだった。

──お金のことは沙知代さんに任せきりだったとか。今はお金の管理はどうしていますか?

克則の奥さんに任せています。前は時計やら洋服やら、欲しいものがたくさんあったけど最近は物欲もなくなってきたしね。サッチーさんがいた頃は、「現金を持たせると女に使うから」とお金を持たせてもらえず、普段の支払いは全てクレジットカード。銀行からお金を引き出す方法も知らなかったよ(笑)。お金とは縁がないね。

「稼げる仕事」に就きたくてプロ野球選手に

──それでも最初は、「稼げる仕事」に就こうとプロ野球選手を志したそうですね。

たくさん稼いで母親を楽にしてあげたかったの。うちは僕が3歳の時に父を亡くして、母と兄との3人暮らし。僕が小学生の時に母は2度がんにかかり、生活はいつも苦しかった。

最初は歌手になろうと思ったけど、学校で音楽部に入ったら才能がないと気付いた。次に映画俳優になろうと思ったけど、鏡で自分の顔をまじまじと見たら無理だと思った。最後に残ったのがプロ野球選手だった。

テスト生として南海ホークスに滑り込むことができたけれど、契約金はゼロ。月の給料は7000円で、寮費3000円を支払って残った4000円から、毎月1000円を母に送り続けました。その後結構稼ぐようになって、何万円も仕送りするようになったけど、「あの頃の1000円の方が母ちゃんはうれしかった」って言われて。

母が亡くなったとき貯金通帳を見て、仕送りのお金は一銭も使っていなかったことが分かった。母親というのはこういうものかと胸が熱くなったね。

──野球解説者として現役で活躍されていますが、今のプロ野球界をどう見ていますか?

(写真:福知彰子)

僕に言わせると、「優勝チームに名捕手あり」というぐらいキャッチャーが重要だと思うけど、今は受難の時代だね。少年野球の監督をやった時に知ったけど、子供たちは「キャッチャーはしんどい」と言ってやりたがらない。プロ野球界を見ても名捕手と言えるキャッチャーは残念ながらいないなあ。

野球は頭のスポーツ。キャッチャーは守りにおける監督の分身だから、誰よりも敵を知り、己を知って、細部にも目を配ってプレーしなきゃならない。ありとあらゆるデータを頭に入れて、考え抜く力がものすごく重要なんだけど、それをしっかりできている捕手は残念ながら見当たらないね。

──監督としてチームを率いる上では、どんなことを心掛けていたのでしょうか。

僕の信条は、「理をもって動かす」。恐怖で動かそうとするのは大嫌いだね。理論がないから、恐怖や暴力で選手を動かそうとする監督が出てくる。理で動かすには、確固たる信念や理論を持つことだけでなく、それを伝える言葉を持っていることも重要。現役を終えてから読書量をかなり増やして、言葉力を鍛えたことが、自分の野球理論をしっかりと選手に伝えるのに役立ったと思う。

──「もう一度監督としてグラウンドに立ちたい」という思いは?

いやいや、それはもう無理ですわ。日本の野球界は能力ではなく年齢で判断するしね。それと人間関係。80歳過ぎて、人間関係も下手で、というと厳しいね。ただ、「野村-野球=ゼロ」。僕から野球を取ったら何も残らない。解説でも何でも野球に関する仕事がある限り、それをやっていきたいと思う。今の野球界、周りを見ても怖い人が誰もいないからね。死ぬまで野球を見ながら、好き勝手に言いたいことを言い続けるんじゃないかな。

(聞き手:日経マネー 佐藤珠希)

[日経マネー2018年10月号の記事を再構成]

日経マネー 2018年 10月号

著者 : 日経マネー編集部
出版 : 日経BP社
価格 : 730円 (税込み)

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