2018年11月15日(木)

京都と和歌山の繊維が連携 独自ブランドで海外へ

コラム(ビジネス)
スタートアップ
関西
2018/9/1 6:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

京都府と和歌山県の繊維の産地が、異例の取り組みで新たなビジネスを開発するスタートアップ的な動きを見せている。複数の組合が業態や商習慣の垣根を越えて連携、生地の独自ブランドを設立し海外市場を目指す。国内の繊維市場が縮小を続けるなか、「スタートアップ産地」は革新を起こせるか。

8月上旬に開いた会議の様子(大阪市)

8月上旬に開いた会議の様子(大阪市)

「もっと光沢を出したほうがいいね」「これは椅子張りで使えそう」。8月上旬、大阪市内で開かれた産地連携の初会議には、京都と和歌山で染色や生地加工などの会社を営む社長ら30人近くが集まった。

机の上には、さらさらした触り心地からタオル地のようなふんわりしたものまで、色とりどりのプリントが施された生地が並ぶ。妙中パイル織物(和歌山県橋本市)の妙中清剛社長は「さらに話し合いを積んで、完成度を高めたい」と強い思いを口にした。

今回、「スタートアップ産地」を立ち上げたのは、京都プリント染色協同組合と紀州繊維工業協同組合、和歌山ニット商工業協同組合の3組合だ。業界の危機感を共有できるパートナーを探していた京都勢に、和歌山勢が呼応した。計画では和歌山で作った生地に、京都が得意とする繊細なプリントを施すという。

独自ブランドの名称は「わこと」。代表企業の高橋練染(京都市)の高橋聖介社長は「今まで存在しなかったような生地を生み出したい」と意気込む。形になるのはこれからだが、方向性の一部は示されている。

京都で開かれた7月の会見では、生地に施す16種類のデザインが試作として発表された。担当したのは京都市産業技術研究所デザインチーム主席研究員の松原剛氏だ。

7月に発表した京都市産業技術研究所によるデザイン

7月に発表した京都市産業技術研究所によるデザイン

配色は平安時代に貴族が着ていた着物に使われた色使いを採用。また、京都特有の「京小紋」と呼ばれる伝統的な模様をモチーフにしたデザインなど、京都らしさにこだわった。松原氏は「これまでの歴史の中で京都で培われてきた財産を活用したい」と話す。

また、生地とデザインが組み合わさった完成形を、9月に東京・原宿で開かれる展示会に初出展すべく、参加企業約20社が準備に追われている。

なぜ今、「スタートアップ産地」なのか。京都には染色を得意とする企業が多く、その作業の多くは分業によって成り立つ。高橋練染は、プリントされた洋服生地の色止めや洗いなど仕上げの加工を手掛ける。そのほとんどはアパレルや生地の販売業者からの委託だ。高橋社長は「自分たちの専門性を武器に、ものづくりをしたいと考えていた」と話す。

経済産業省によると、2016年の繊維工業の製品出荷額は約3兆8千億円。1996年に比べ、57.2%減少した。人口減少による市場の縮小に加え、単価の安いファストファッションの流入などの影響も大きい。和歌山県橋本市の高野口は、世界で唯一のパイル生地の産地で知られるが、「生産量は最盛期の10分の1ほどに減った。思い切った仕掛けが必要だ」(妙中社長)。

生地メーカーと、染色や仕上げ加工に特化したメーカーが手を組めば、これまでにないものづくりができる――。アパレル向けのニット生地を手掛ける森下メリヤス工場(和歌山県紀の川市)の森下展行社長も「自らで商品を作っていかないと、生き残れない時代になった」と感じている。

両産地で知恵を出し合ってつくった生地は、来年にも海外での販売を目指す。生地へのプリントを手掛ける大本染工(京都市)の浜野公達社長は「素材開発から協働できるのが強み。生地の裏表で柄を変えたり、毛の長い生地にプリントしたり、挑戦したいことは多い」と話す。

生地のプリントでは、版が不要のインクジェットという手法が世界中で普及している。京都の産地は繊細なプリントが強みの1つだが、将来はその競争力が落ちる可能性もある。「今から生地への知見をつけ、輸出に耐えうる製品をつくりたい」(浜野社長)

「わこと」のプロデュースを担当する尾原デザインスタジオ(大阪府岸和田市)の尾原久永代表取締役によると、産地が直接協力し合って、ものづくりを実現させた例はほとんどないという。「1社では難しくても、複数の企業で協力し合うことで、海外市場にも出られる。そのノウハウを持ち帰り、産地が活性化するのが理想だ」と話す。

斜陽産業と呼ばれて久しい繊維業界に新風を吹き込めるか。9月にも発表される「わこと」の仕上がりが最初の試金石になりそうだ。  (田辺静)

[日経産業新聞 2018年8月31日付]

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