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クラウドから「エッジ」に動くITの巨人

CBINSIGHTS
あらゆるモノがネットにつながるIoT時代の到来は「超ビッグデータ社会」の到来とも言い換えられる。我々の生活は膨大なデータのやり取りと切り離せなくなるのだ。超データ社会で注目を集めるのが「エッジコンピューティング」の技術だ。膨大なデータをいちいちクラウドに集約していたのでは到底追いつない。世界のテックジャイアントたちは、そんな現実の到来に備え、「エッジ」に熱視線を送っている。

超高速データ処理は「ぜいたく品」にすぎない場合もあれば、生死を分けさえする場合もある。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週1回掲載しています。

例えば、自動運転車は多くのセンサーを使ってデータを収集する「走る大型コンピューター」だが、安全に走るには周囲の状況に瞬時に対応しなくてはならない。処理速度が少しでも遅れれば、致命的な事態を招きかねない。

今のところネットにつながる機能を備えた「コネクテッドデバイス」のデータ処理の大半はクラウドで実行されているが、サーバーとのデータのやり取りには数秒かかることもある。

ところがエッジコンピューティングを使えば、自動運転車はより迅速なデータ処理が可能になる。「エッジ(端)」とは機器の内部またはごく近くでデータを処理することを言うからだ。

2020年には、平均的な人が1日に生み出すデータは11.5ギガバイト(GB)相当に上るとされる。ネットにつながるモノが大幅に増えることは大量のデータが生まれることを意味する。そうなればクラウドでは処理しきれなくなる可能性があるのだ。

そこで、エッジコンピューティングは自動運転車をはじめとする様々な用途で、クラウドの代替手段になると目されている。

この分野には米アマゾン・ドット・コム、米マイクロソフト、米グーグルなどIT(情報技術)大手が続々と参入しており、次の主戦場となりそうだ。クラウド分野ではアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)がなお優勢だが、新興のエッジコンピューティングではどこがリーダーとなるのか、まだまだ見通せない状況だ。

刻々と変化するコンピューティングの状況

エッジコンピューティングについて理解する前に、その前身であるクラウドのおかげでIoTが世界中で増えつつある点に目を向けなくてはならない。今やウエアラブル端末から家電まで、ネットにつながる「スマート機器」は至る所にある。

19年には世界のIoT市場は1兆7000億ドルを突破するとみられる。13年の4860億ドルから3倍以上に増える計算だ。

このようなスマート機器を動かすプロセスはクラウドが主流だ。

企業は自社のハード機器ではなく「クラウド(雲)」と呼ばれる離れた場所にあるサーバーのネットワークで、データの保存や処理などをできるようになった。

例えば、アップルの「iCloud」を使って自分のスマホのデータをバックアップする場合、自分のアカウントにログインしてクラウドに接続すれば、パソコンなどから自分のスマホデータを引き出せる。その人の情報はもはやスマホやデスクトップの中にあるハードドライブの容量の制限を受けない。もちろん、これはクラウドの数ある用途の一つにすぎない。

現時点でクラウドの人気はまだまだ高まっており、アマゾンやグーグル、マイクロソフト、米IBMなどのIT大手はこぞってクラウドサービスを提供している。

プライベートクラウド管理サービスを手がける米ライトスケールが18年に実施した調査によると、このようなパブリック型クラウドのうち、首位はアマゾンのAWS、2位にはマイクロソフトの「アジュール」がつけている。

パブリック型クラウドでアプリケーションを運営する組織は増えている(出典:ライトスケール)

だが、中央集権型のクラウドはどんな用途にも最適というわけではない。エッジコンピューティングは従来のクラウド型インフラでは対応できなかった策を提供してくれるのだ。

エッジコンピューティングへのシフト

数十億台の機器がネットにつながるような未来の「超データ社会」を想像してほしい。と言っても、現在と変わらないのは、より速く確実なデータ処理を実現できるかが競争を制するカギとなるということだ。

中央集権型のクラウドはここ数年、コストの低さと柔軟性を実証してきたが、IoTの到来で回線への負担が増している。

そうなると、あらゆるスマート機器をクラウドで動かす必要はない、という考えが妥当になるだろう。クラウドとのデータのやり取りをなるべく抑える必要性が出てくるからだ。そこで必要になるのがエッジコンピューティングだ。

CBインサイツのデータによると、世界のエッジコンピューティングの市場規模は22年には67億2000万ドルに達する。まだ発展途上とはいえ、クラウドが担う一部の分野ではエッジコンピューティングの方が有用となる可能性があるのだ。

エッジコンピューティングを使えばデータが生まれた地点(例えば、モーター、ポンプ、発電機、その他のセンサー)の近くで処理できるため、クラウドとやり取りする必要性が減る。

クラウドに送るデータ量が減れば、クラウドとIoT機器を行き来する際に生じる遅れもなくしやすくなる。

一方で、エッジコンピューティング技術を内蔵しているハード機器の責任は増す。こうした機器にはデータ収集用のセンサーに加え、データ処理用のCPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理半導体)が搭載されている。

エッジコンピューティングが普及し始めるのに伴い、エッジ端末に関連するもう一つのテクノロジーである「フォグ(霧)コンピューティング」について理解しておくことも重要だ。

エッジコンピューティングはネットワークの「端」やその近くで実行される処理だけを指すが、フォグコンピューティングはエッジ端末とクラウドとのネットワーク接続を意味する。

言い換えれば、フォグコンピューティングはクラウドで実行していた処理をネットワークのエッジ寄りでも可能にすることを指す。このため、フォグコンピューティングの推進団体オープンフォグコンソーシアムは「フォグコンピューティングではエッジコンピューティングが常に使われているが、その逆はない」と説明する。

データ処理にはエッジ端末を使うが、常に瞬時の判断が必要なわけではない。つまり、エッジコンピューティングはクラウドを補完し、フォグコンピューティングと密接に連動するが、両方に取って代わるわけではない。この点を踏まえておくことは重要だ。

エッジコンピューティングの進化

エッジコンピューティングの進化によってクラウドの負担が軽くなれば、これが単一障害点(SPOF)になる可能性も軽減できる。

例えば、ある企業がデータをクラウドに保存している場合、そのクラウドがダウンすれば、問題が解決されるまでデータにアクセスできず、重大なビジネス機会を失う恐れがある。

実際、こういった事態はすでに発生している。16年に米セールスフォース・ドットコムの「NA14」サイトが稼働しなくなり、24時間以上にわたってネットに接続できなくなったことがある。契約企業は電話番号やメールアドレスといった顧客データにアクセスできず、業務は大混乱に陥った。

脱クラウド依存を進めるということは、一定の機器をネットにつながなくても確実に動かせるようにするという意味だ。これは特殊な地形や油田があるへき地など、ネット接続が限られるか全くない場所で特に有用だ。

エッジコンピューティングのもう一つの利点は、セキュリティーとコンプライアンスに関する点だ。企業による個人データの取り扱いに懸念を強めている各国政府にとって特に重要といえる。

欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)が最近施行されたのもこれが理由だ。この規則では、個人を識別できる情報をデータの悪用から守ることを目指している。

エッジ端末はローカルでデータを収集・処理するので、クラウドにデータを転送せずに済む。デリケートな情報をネットに流す必要がなくなるため、クラウドがサイバー攻撃を受けても影響は格段に小さくなる。

エッジコンピューティングは新しいコネクテッドデバイスと従来の「レガシー」デバイスとの相互運用性もある程度確保する。従来のシステムで使われている「通信プロトコル」を、最新のコネクテッドデバイスが理解できる言語に変換してくれるからだ。つまり、旧式の産業機器をスムーズかつ効率的に最新のIoTプラットフォームに接続できるようになる。

エッジコンピューティングを巡る競争

クラウドを支配しているアマゾンなどは、エッジコンピューティングでもリーダーとして台頭しつつある。

アマゾンは17年に「AWSグリーングラス」を投入し、この分野にいち早く参入した。これはAWSのサービスをデバイス側で実行できるようにしたもので、データをデバイス側で処理する一方、管理や分析、長期の保存にはクラウドを使うことができる。

マイクロソフトもこの分野に本腰を入れている。今後4年間でIoT分野に50億ドルを投じる計画には、エッジコンピューティングも盛り込まれている。

同社は「エッジ端末でもクラウドのような分析が可能」で、オフラインでも使える「アジュールIoTエッジ」を発表。エッジでのAI(人工知能)適用にも力を入れるという。

後続のグーグルは8月上旬、エッジでのコネクテッド機器の開発を支援するために、ハード機器用チップ「エッジTPU」とソフトウエアの「クラウドIoTエッジ」を発表した。同社は「クラウドIoTエッジを使えば、グーグル・クラウドの強力なデータ処理能力と機械学習をロボットアームや風力タービン、石油掘削装置など数十億台のエッジ端末に実装できるようになる」と強調している。さらに「センサーが収集したデータをリアルタイムで処理し、ネットにつながなくても結果を予測できる」とも言う。

もっとも、エッジコンピューティング分野に関心を寄せているのは、この3社だけではない。

エッジコンピューティングの普及を促すソフトウエアや技術の開発に取り組む企業が目立ち始めた。

米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)はエッジコンピューティングに今後4年間で40億ドルを投じる。同社の「Edgelineコンバージド・エッジシステム」は、データセンターと同等のコンピューティング機能を必要としつつも、遠く離れた状況での作業が多い産業界の企業が対象だ。

このシステム(上の写真はEL1000モデル)を使えば、石油リグや工場、銅山などの現場で、クラウドやデータセンターにデータを送らなくてもコネクテッド機器からの分析を得られる。

急成長しつつあるこの分野の主要プレーヤーには、米Scale Computing(スケールコンピューティング)や米Vertiv(バーティブ)、中国の華為技術(ファーウェイ)、富士通、フィンランドのノキアなども名を連ねる。

米エヌビディアは17年、エッジ端末向けAIコンピューティング基盤の「Jetson TX2」を発売した。これは「同TX1」の後継機で、最先端のAIをクラウドからエッジに拡張するという。

米ゼネラル・エレクトリック(GE)や米インテル、米デル、IBM、米シスコシステムズ、独SAP、米AT&Tなどの有力企業もエッジコンピューティングに相次いで資金を投じている。

未公開市場では、デルとインテルが、産業用IoTにエッジコンピューティングサービスを提供する米Foghorn(フォグホーン)に出資。デルは同様のサービスを手がける英IOTech(IOテック)のシードラウンドにも参加している。

シスコやデル、マイクロソフトなど前述した企業の多くは、オープンフォグコンソーシアムも共同設立し、エッジコンピューティングのアプリケーションの標準化を目指している。

センサーの価格やコンピューティング費用が下がり続けているため、ネットにつながる「モノ」は増えるだろう。

こうした機器が増え、クラウドでは非効率的な場合もあることが認識されれば、エッジコンピューティングは多くの産業で使われるようになるだろう。

その兆しはすでに様々な分野にある。

マイクロソフトのケビン・スコット最高技術責任者(CTO)は「クラウドの機能をエッジで担えるようになれば、ネット接続が限定的か全くないエリアでもリアルタイムでの対応が可能になる。まだ初期の段階にすぎないが、こうした新たな機能は世界各地で重要な問題の解決策として使われ始めている」と指摘する。

では、具体的にどんな分野でエッジコンピューティングが活躍しそうか。最後に、以下に列挙しておこう。

輸送

エッジコンピューティング技術の最も有力な用途の一つは輸送、特に自動運転車だろう。

自動運転車にはカメラやレーダーからライダーに至るまでありとあらゆる種類のセンサーが搭載され、走行を支えている。

前述したように、自動運転車はクルマの近くでデータを処理するエッジコンピューティングを使い、貴重なミリ秒を短縮する。自動運転車はまだ主流ではないが、各社は開発を進めている。

エッジ処理の利用推進団体「オートモーティブ・エッジコンピューティング・コンソーシアム(AECC)」は今年、コネクテッドカー事業に乗り出す方針を明らかにした。

AECCの村田賢一プレジデント兼チェアマンは「コネクテッドカーは高級車だけでなく量産モデルにも急速に広がりつつある。クルマで生まれたデータが既存のクラウド、コンピューティング、通信インフラのリソースを上回る転換点に近く達するだろう」と指摘する。

AECCにはデンソートヨタ自動車、AT&T、スウェーデンのエリクソン、インテルなどが参加している。

もっとも、大量のデータをつくり出し、リアルタイムでの処理が必要になるのは自動運転車だけではない。自動運転かどうかにかかわらず、飛行機や列車などの輸送形態にも同じことがいえる。

例えば、カナダの航空機メーカー、ボンバルディアの小型機「Cシリーズ」は、エンジン性能の問題をすぐに検知するために大量のセンサーを搭載している。12時間の飛行で生まれるデータは844テラバイトに上るが、エッジコンピューティングによりこのデータをリアルタイムで処理できる。

医療

活動量計や血糖モニター、スマートウオッチなどの健康管理用ウエアラブル端末の装着感は改善しつつある。

だが、収集された大量のデータのメリットを本当に生かすには、リアルタイムでの分析が必要だ。

健康管理用ウエアラブルには、クラウドに接続しなくても脈拍や睡眠パターンを分析できるものもある。医師はその場ですぐに患者を診断し、データに応じて健康に関するアドバイスを提供できる。

医療分野でのエッジコンピューティングの可能性は、ウエアラブル端末だけにとどまらない。

離れた場所にいる患者のモニタリングや入院患者のケア、病院やクリニック向けの健康管理でデータを素早く処理できるメリットは大きい。

製造業

「スマート・マニュファクチャリング」では、最先端の工場で導入されている膨大な数のセンサーから様々な分析結果が得られる。

エッジコンピューティングによる低遅延のおかげで、ほぼリアルタイムでの分析が可能になる。例えば、機械が過熱する前に運転を停止するのはその一例だ。

工場のロボットがデータを処理できるようになれば、ロボットはさらに自立し、機敏に働けるようになる。機械学習を活用するケースも増えるだろう。

農業

エッジコンピューティングは農業にぴったりだ。農場はネット通信には不向きな遠く離れた場所にあることが多い。

今のところ、ネット接続を改善してスマート農場を実現するには高価な光回線を敷設するか、場所によっては専用の衛星を持つしかない。

だがエッジコンピューティングの技術があれば話は別だ。気温や機器の性能を監視し、散水など様々な機会の動きのプロセスを自動で減速したり、停止したりできるようになる。

エネルギー

エッジコンピューティングはエネルギー業界全般、特に石油・ガス会社による安全性の監視に役立つ。

例えば、気圧や湿度のセンサーは大抵離れた場所にあるため、注意深く監視し、接続が遮断しないようにしなくてはならない。石油輸送管の過熱などの異常を見過ごせば、悲惨な爆発事故につながりかねない。

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