2018年9月25日(火)

(対決関西)訪日客の寺巡り 東大寺vs清水寺

コラム(社会)
関西
2018/8/31 6:30
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 ともに世界文化遺産に登録され、日本を代表する観光名所として知られる清水寺(京都市)と東大寺(奈良市)の周辺で、新たな風景が定着しつつある。主役は急増するインバウンド(訪日外国人)。背景を探ると、「文化のレンタル」「交流サイト(SNS)映え」というキーワードが浮かび上がってきた。(加藤彰介)

東大寺 大仏×シカ、SNS映え

東大寺周辺は野生のシカと触れ合えるスポットとしても人気

東大寺周辺は野生のシカと触れ合えるスポットとしても人気

 東大寺で8月上旬、米国人のマーガレット・ウォークさん(34)が汗だくになりながら「自撮り棒」をかざしていた。狙いは目玉の大仏殿。「大仏と一緒に写真に納まると、幸運が訪れる気がする。友人とSNSでシェアする」と興奮気味だ。

 「野生動物の迫力に感動した。同僚に自慢したい」と笑うのは、中国人の童衛斌さん(41)。寺に隣接する奈良公園で、シカに餌をあげる娘の写真を撮りまくり、さっそくSNSに投稿した。

 大仏とシカ。日本人にはなじみの観光資源だが、外国人の感覚は違う。石造建築が多い欧米の訪問者にとって、木造建築の大仏殿に収まる高さ約15メートルの大仏は「SNS映え」に格好の場所。東大寺寺務所の巻田崇裕さん(35)は「約1300頭ものシカと間近に触れ合える場所は世界でも珍しい」とアピールする。

 旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」が6月に発表した「外国人に人気の日本の観光スポット」で東大寺は4位、奈良公園は12位に入った。担当者は「外国人は大仏とシカをセットで楽しむ。東大寺の評価は順位以上に高い」と分析する。

 課題は「脱・日帰り」だ。近畿運輸局などが今春まとめた訪日客向け交通パス「関西ワンパス」の分析によると、奈良市訪問当日に奈良県内が最終降車駅となった人は7.9%。宿泊施設の不足もあるが、大阪や京都に宿泊し、日帰りで足を運ぶ実態が浮かぶ。

 奈良市は昨年、JR奈良駅近くの観光センターを改装。書道や料理教室といった文化体験スペースを新設し、滞在時間延長を促す。イルミネーションを使った夜のイベントなども充実させる方針で、担当者は「外国人をひき付けるコンテンツを増やし、宿泊増につなげたい」と話している。

清水寺 浴衣で参道、食べ歩き

清水寺周辺はレンタル着物店が20店以上ある

清水寺周辺はレンタル着物店が20店以上ある

 京都市が毎年実施する外国人観光客の実態調査で、訪問先のトップを守り続ける清水寺。猛暑が続いた8月上旬、現地を訪ねると、参道は人波で埋まり、浴衣姿の外国人客らがうちわを片手に参拝に向かっていた。

 「子供のころから日本の映画で着物や浴衣に憧れていた。歴史に溶け込んだ感じがする」。ピンク色の浴衣を着た中国の会社員、余夢琪さん(30)は満足げだ。京都訪問は2回目。今回は個人旅行なので浴衣をレンタルし、街歩きを楽しんだ。

 参道は和菓子や漬物など京都名物の店がずらりと並び、食べ歩きもできる。「暑いけれど、涼しい浴衣で楽しむグルメは格別」と余さん。周辺はレンタル着物店が20店以上あり、6店を構える岡本(東山区)は中国人ら外国人スタッフに加え、予約サイトも英中韓など5カ国語に対応する。昨年の利用客は約18万人と4年前比で3.6倍に増え、うち外国人客が過半数を占めるという。

 岡本奈津喜取締役はこうした外国人客の動向について「観光の関心が買い物から体験型へ移っている。手軽に古都の魅力を体感できる点が評価されている」とみる。外国人の目のつけどころに触発されるように「最近は浴衣をレンタルする日本人の若者や修学旅行生も増えている」と話す。

 ただ、人気上昇には副作用も。浴衣や着物を身に着けて祇園などに歩いて出かける外国人客がいる一方、観光バスの増加で周辺は交通渋滞が常態化している。市は10月から寺周辺でバスの混雑エリアに誘導員を配置し、空いた駐車場へ誘導する実証実験を始めるが、スピリット・オブ・ジャパン・トラベル(京都市)の高山傑社長は「国内外を問わず、客から参道の通行料を徴取するなどの対策を検討する必要がある」としている。

日本人と違う楽しみ発掘
 清水寺と東大寺は今も昔も修学旅行の定番だ。海外の旅行ガイドにも必ずといっていいほど掲載されているが、現地で外国人客に接すると、慣れ親しんだ日本人とは違った楽しみ方の「ツボ」があることに気付く。
 清水寺では拝観と文化体験、東大寺では大仏とシカのコラボを楽しみ、SNSを通じて家族や友人とリアルタイムで共有する。一つ一つに目新しさはないが、複数の観光資源を有機的に組み合わせることによって、旅の思い出を深めていこうという工夫が随所に光る。
 近畿大の高橋一夫教授(観光マーケティング)は「外国人は日本人が気付かなかった楽しみ方を発掘し、観光地の価値を高める原動力になっている」と話す。外国人目線そのものに、魅力が詰まっている。

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