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缶詰ブーム、サバからイワシへ 女性の消費が支え

(更新)

缶詰ブームはサバからイワシへ――。マルハニチロなど水産大手はサバが海外への輸出増加で不足気味のため、イワシの加工にも狙いを定め始めた。健康志向の女性がサラダやパスタに合わせる消費の変化を背景に商品を開発、足元の市場は伸びている。かつての大衆魚の代名詞が、缶詰として再び食卓を彩る。

水産最大手のマルハニチロは30日、北海道産のイワシを塩で味付けした「いわし塩焼」を発表した。缶詰のロングセラー「どん帳」シリーズに追加し、9月1日に発売する。75グラムで店頭想定価格は税別170円。北海道近海でとれた魚を漁港近くのグループ会社で加工。独自の焙焼機で魚全体に均一に近い熱を与える。

缶詰の種類は年々増えており、イワシではスーパーで変わった味付けの商品が並ぶ。水産3位の極洋が3月、カゴメとの共同開発で発売したのがトマト味の「いわしのトマトパッツァ」(90グラム、税別180円)。焼いたいわしを完熟ソースで煮込む。缶詰と言えばかば焼きのたれ風味が定番だったが今はオリーブオイル、ガーリックなど洋風もある。

業界団体の調べでは、丸缶全体の生産量は17年に16年比3%減の約9万9000トン。最もシェアが高い品目はサバ缶の40%で、2位にツナ缶が34%と迫る。サバは16年にツナを上回った。3位はサンマ缶で10%、4位がイワシ缶の5%だ。

イワシ缶市場の伸びはサバと並ぶようだ。調査会社のインテージによると、2018年4~7月のイワシ缶販売額は前年同月に比べ47%増で、サバの49%とほぼ横並び。マルハニチロの同じ期間のイワシ缶販売額は2.6倍。極洋は1~7月のナショナルブランド商品の売上高が2割増えた。

イワシ缶市場が伸びる理由はいくつかある。ひとつは20~30代の女性が缶詰を様々な料理に合わせて食べ始めていることにある。マルハニチロは新商品の食べ方として、大根下ろしやかんきつを添える焼き魚だけでなく、パンにはさむ具材としても提案する。東京都内で働く会社員の女性(24)は「イワシはそうめんのつけ汁に入れて食べるとおいしい」と話す。

イワシはサバと同じ青魚で、血中の中性脂肪を減らすとされる栄養素のドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)を多く含み、健康食品として取り上げられてきた。商品によってはサバ缶より多い場合もある。極洋の井上誠社長は「サバより多少くせがあるが、ほとんど気にならないレベル」と話し、女性にも買いやすいとみる。

働く女性や共働き世帯の増加で食の「時短」志向が高まり、調理に手間のかかる魚が敬遠されている事情もある。

水産会社側の事情としてサバの仕入れ不足がある。17年の日本の漁獲量は約46万トンで、08年とほぼ同じ。ただ、輸出の比率が27%から50%へと拡大した。輸出先のトップはエジプト、2位タイ、3位ガーナだ。薫製やスープなどの食べ方で需要が伸びている。高い価格で買い取ってしまうといい、水産2位、日本水産の外山邦彦・常温食品事業部長は「調達が難しくなっている」と話す。

買い付けるサバの原材料が上がっているため、マルハニチロは流通に販売するサバ缶を9月1日から4年ぶりに値上げする。上げ幅は約10%で、消費が鈍る可能性がある。

一方、農林水産省によると、主原料であるマイワシの漁獲量は17年に約51万トンで5年前から約4割増えた。水産庁は「理由は明確でないが、海洋環境が変わり漁獲量が上向きに転じるレジームシフトが影響しているのではないか」とみている。

缶詰ブームを受け、水産各社は北海道や青森、岩手などに持つ加工工場の稼働率を高めている。風味を高める技術も開発しており、日水は17年に発売したサバ缶で、魚に熱を加えたあとアクを捨てることで魚臭さをできるだけなくす手法を開発。身崩れしにくい利点もある。手に強い力を入れなくてもふたを開けやすくする工夫もある。

マルハニチロの2018年4~6月期の連結決算は純利益が前年同期比26%減の42億円で、エビやホタテなどの仕入れ価格上昇が響いた。水産各社はイワシの漁獲量が増えている間に、缶詰市場を一層開拓しておく必要がある。

(薬袋大輝)

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