2018年9月25日(火)

片付かぬ原発避難地 公費支援相次ぎ終了(災害考)

コラム(社会)
2018/9/1 22:18
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 東京電力福島第1原子力発電所事故の旧避難指示区域で、被災者の希望に応じて国が行う家屋の解体が相次いで終了している。避難中に荒れた家の片付けで出るゴミの公費処理も、来年3月末で受け付けが終わる。多くの住民が帰還の判断がつかず、自宅の扱いなどで迷うなか、公費による解体・処理の打ち切りに戸惑う声が少なくない。

食堂兼住居の公費解体を申し込んだが、気持ちが揺らぐ鈴木宏孝さん、キミ子さん夫妻(6月、福島県浪江町)

食堂兼住居の公費解体を申し込んだが、気持ちが揺らぐ鈴木宏孝さん、キミ子さん夫妻(6月、福島県浪江町)

 JR常磐線浪江駅にほど近い福島県浪江町権現堂の商店街。事故前まで約50年間続いた「やよい食堂」の店主、鈴木宏孝さん(77)と妻、キミ子さん(75)が6月中旬、廃業を決めた店舗兼住宅内の片付けに訪れた。

 避難先は車で3時間半かかる同県会津若松市。今年3月末に公費解体の受け付けが締めきられることになり、期限ぎりぎりで申し込んだ宏孝さんの気持ちは今、揺らいでいる。「店を再開する気はないが、この家が更地になると町とのつながりを失ってしまうのでは」

 同町は2017年3月末、帰還困難区域を除き避難指示が解かれたが、日中の人通りはまばら。店の常連客だった女性が車で通りかかり、キミ子さんは7年ぶりの再会を喜んだ。「カレー、焼きそば……。また食べたいね」「今度つくって公営住宅の方に送っから」

 解体の申し込みは多く、家が実際に解体されるまで1~2年かかると宏孝さんはみる。「重い決断をせかされた。本当はもっと、長い時間をかけて考えたい」

 環境省は被災者への支援として、避難区域内の家屋の持ち主の希望があれば公費で解体。屋内や敷地内の物品なども希望に応じて処分してきた。対象は避難指示が出た12市町村全てで、その多くにゴミなどの仮設焼却施設が設けられている。

 しかしゴミの公費処理は多くの市町村で終了。受け付けが続いている浪江町も9月末、富岡町は来年3月末で終わる。避難指示が解除された地域の家屋の公費解体の受け付けも終了した。同省福島環境事務所は「避難指示の解除で事故以前の状態に戻ったという認識だ。地元自治体と協議し、住民への周知も丁寧にしてきた」と説明する。

避難指示解除後も人通りや行き交う車両は少ない(6月、福島県浪江町)

避難指示解除後も人通りや行き交う車両は少ない(6月、福島県浪江町)

 実態は異なり、ゴミ処理のニーズは依然ある。17年3月に国がゴミの引き取りなどを打ち切った南相馬市で生活の再建を手伝っているNPO法人代表、松本光雄さんによると、市内の旧避難指示区域の住民からは家の片付けや草刈り、木や竹の伐採などの依頼が寄せられ続けている。

 「国の判断材料は道路上や道路から見える(住宅などの)様子だけ。道にがれきが落ちていないから片付けは終了だと思っているが、全く違う」。こう話す松本さんのもとには、市内や隣接する浪江町の住民から毎日のようにSOSが入る。

 国は避難指示が解除された地域の避難者への支援に期限を設け順次、打ち切ってきた。だが、避難者の多くは人生設計の大きな変更を余儀なくされ、避難先から戻るかどうかも短い間には決められない。被災者の時間軸に合わせた柔軟な対応が必要だ。

(小林隆)

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