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得意もあれば苦手も 「球場との相性」の不思議

8月12日、巨人がマツダスタジアムでの連敗を13で止めた。その前に勝ったのが昨年の8月11日なので、実に1年ぶりの勝利となった。一方、24日にヤフオクドームで先発した西武の菊池雄星は3失点で完投しながら負け投手になった。あれほどの投手がプロ9年目の今季まで、ソフトバンクには13連敗と1つも勝てていない。特にヤフオクドームでは昨年も初球に2段モーションを注意されて崩れるなど、苦い経験をしている。

これらはかなり極端な例だが「球場との相性」というのは確かに存在する。実力が拮抗したプロ同士の戦いでなぜこうした事態が起きるのか。

選手のメンタルをも左右

広島は8月までマツダスタジアムでの勝率が7割2分9厘(35勝13敗2分け)。巨人戦に限らずホームではとにかく強い。チームの地力に加えて、球場の一体感も理由の一つだろう。リードされていても、ファンが諦めずに応援し、何かが起きそうなムードをつくってくれる。その空気に乗せられ、脂の乗りきった選手たちが躍動している。

現役時代を思い出すと、甲子園の雰囲気も独特だった。阪神ファンの声がマウンドまで聞こえ、2死一塁でもピンチのような重圧を受ける。先頭打者を出せば即座に大ピンチだ。神宮はやや苦手意識があった。真偽のほどは定かでないが、本塁から外野に向かって緩やかな打ち下ろしになっているといわれる。マウンドからは投げ上げるような感覚で、気付くと乱打戦になっていることが多かった。得意だったのは広島市民球場だ。プレートを蹴る左足の甲から血がにじむほど硬いマウンドがしっくりときて、好きだった。

菊池(右)は8月24日の試合でも勝てず、ソフトバンクに13連敗している=共同

ナゴヤドームは広いうえに緩やかな傾斜のマウンドが投げやすく、投手にはありがたい球場だ。「ここでホームランを打たれたら仕方ない」と割り切れた。オープンした1997年に開幕投手を任され、この年最多勝も獲得した。一つ困ったのは、相手チームの投手にも好投されてしまうこと。現ソフトバンク監督の工藤公康さんもナゴヤドームが好きで、来るたびに調子を上げて帰っていった。噂によると、横浜(現DeNA)の投手たちまで「横浜もナゴヤドームのようなマウンドにしてほしい」とリクエストしたとか。横浜スタジアムのマウンドが、あるとき明らかに変わっていたのを覚えている。

投手にとってはスピードガンも無視できない。スピード表示が出やすい球場は気持ちよく投げられるが、出にくいと球が走っていないような錯覚に陥る。機械を設置する角度、投手の左右、投げたコースによっても誤差は生じる。「東京ドームは概して出にくい」「甲子園では左投手の右打者内角が出にくい」などそれぞれの特徴を頭に入れ、無駄に振り回されないよう注意した。

最近、日本でも150キロを超える投手が増えたのは、筋力トレーニングや技術の向上だけでなく、スピードガンの進化も影響していると思う。以前は日本の投手が米大リーグにいくとスピードが伸びた。しかし日本に戻ってくると、渡米前と変わっていない。マイル表示で端数が切り上げられただけでは説明がつかないから、スピードガン自体に違いがあったと考えるのが自然だ。最近は日本も米国に近づいているのだろう。エンターテインメント性が高まるし、メーカーにすれば、出やすい方が売れるのは間違いないのだから。

巨人が強かった90年代、中日はなかなか東京ドームで勝てなかった。当時、チーム内でまことしやかにささやかれたのが「巨人は先発によってマウンドを変えている」という風説だ。「きょうは斎藤(雅樹)だから低いぞ」「桑田(真澄)だから高いな」。そもそもそんなことはできるわけないのだが、先輩たちは半ば真面目に口にしていた。「ベンチに隠しカメラかマイクが仕掛けていないか」「サインを盗まれている可能性もある。すべて変えよう」。こうなるとキリがなくなる。

疑心暗鬼、普段着の野球阻む

冷静に考えれば、こんな疑心暗鬼にとらわれた時点で既に後手に回っている。戦々恐々と戦っているから、普段着の野球ができなくなる。2006年、中日は優勝を争った阪神にナゴヤドームで10連勝した。こちらに特別な意識はなくても、後になって聞くと、相手はやはり「ナゴヤドームには何かある」と思っていたという。有利に試合を進めてもミスなどから崩れ、勝手にコケてくれていた。阪神の岡田彰布監督は対策として甲子園のブルペンにナゴヤドーム仕様のマウンドをつくらせた。しかし中日にしてみれば、そこで投げている選手を調べれば先発投手の予想がつくのだから(当時はまだ予告先発ではなかった)、どちらを利したかはわからない。

8月12日の広島戦に勝ち喜ぶ巨人ナイン。マツダスタジアムでの連敗を13で止めた=共同

ナゴヤドームができる前はナゴヤ球場が本拠だった。ドームに比べれば明らかに狭くて古かったが、それはそれで風情があった。まだ明るさが残る中、ざわざわとした喧騒(けんそう)の中で試合が始まり、徐々に暮れていく。暗くなるとどこからともなく2匹のコウモリが現れ、マウンド付近を飛び回っていた。「昼間はどこにいるんだろう」。ナイターではそんなことを考えていた。

当時の収容人数は3万5000人といわれていたが、実際は2万8000人程度。ぎっしり埋まった熱気のあるスタンドがテレビに映ると、ファンは生で見たくなる。カウンターしかなく、行列ができているラーメン店の前を通ると是が非でも食べてみたくなるのと同じだ。それが連日満員につながっていたのだろう。広いドームになると空席も増えるため「いつでも行ける」とファンの切迫感は薄れる。器が大きいのも一長一短だ。

最適とは限らぬ恵まれた環境

ナゴヤ球場での経験は投手としての礎にもなった。一発を避けるために、低めをついてゴロを打たせる基本が身につき、逆風になる方向に飛ぶよう配球を工夫することも覚えた。やはり狭かった広島市民球場での強力赤ヘル打線との対決も、度胸と自信を育んでくれた。

近年、ヤフオクドームや楽天生命パーク宮城で外野フェンス前にテラス席が設置され、ホームランが出やすくなった。一発逆転が起きやすくなり、投手には厳しくなったが、私は歓迎している。個人成績が落ちるとしても、条件は相手も同じだ。味方打線の援護も増えるわけで、しっかりと空振りを取れ、ゴロを打たせられる投手が相対的には有利になる。いい投手が育つには、恵まれた環境が最適とは限らない。

(野球評論家)

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