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難しいトランプ氏の弾劾(The Economist)

The Economist

テレビのリアリティー番組の制作者なら、あれだけの重大ニュースが重なったのは最高の瞬間だっただろう。21日、トランプ米大統領がウエストバージニア州での選挙集会へ向かう途中、2016年の大統領選挙で彼の選対本部長を務めたポール・マナフォート氏に、脱税や銀行詐欺など8つの罪状で有罪判決が下った。その数分前には、トランプ氏の元個人弁護士マイケル・コーエン氏が法廷で、脱税や詐欺、選挙資金法違反など8件の罪状について有罪を認めたからだ。

ケーブルニュース番組はどこも、あまりに重要なニュースがほぼ同時発生したため画面を複数に分割して報道したほどだった。この一連の疑惑はかねて人々の注目を集めてきたが、今回の展開で一つ、重大な変化が起きた。トランプ大統領は、選挙に勝つために自ら法を犯したという正式な告発に初めて直面することになったということだ。

コーエン氏が有罪を認めたのは衝撃

マナフォート氏の裁判の経過を追っていた人や、同氏が長年、政治コンサルタントとして各国の独裁者やそれに近い指導者たちに仕えてきたことを知る人には、有罪判決は特に驚く結果ではなかった。だが、コーエン氏が有罪を認めたのは衝撃的だった。

彼は単なる弁護士ではなく、トランプ氏の厄介事を処理する存在だったからだ。大統領選中の16年に、トランプ氏と交際していたとされる女性2人に口止め料を支払っていた(トランプ氏は2人との関係を否定しており、2人への支払いを後で知ったと主張している)。コーエン氏は裁判中の宣誓証言で、「大統領選の候補者に指示され」口止め料を払ったと明言した。つまり、トランプ氏はコーエン氏に法を犯すよう命じ、それを隠すために嘘をついたことになる。

マナフォート氏の有罪判決も、コーエン氏が有罪を認めたことも、トランプ陣営につきまとっているロシアと共謀していたという疑惑に直接は関係しない。だがこの疑惑に関するモラー特別検察官による捜査がなければ、マナフォート氏とコーエン氏が起訴され、有罪になるということはなかっただろう。21日の有罪判決を含めた一連の出来事で、モラー氏の立場は強くなったといえる。もはや、トランプ氏が司法妨害の疑いを招かずしてモラー氏を解任することは難しい。

しかもこうした事件では、有罪判決を受けた側は自分の身を守ろうと、司法取引をしようとするため、別の有罪判決につながる場合が多い。つまり、マナフォート氏とコーエン氏が自分の刑罰を少しでも軽くしようと、今後、かつてのボスに対して不利な証言をするのか、もしする場合はどこまで不利な証言をするのかが焦点となる。

浮上するトランプ大統領の正当性

そして事実が少しずつ明らかになり、有罪判決が下されていく過程で、米国民はある単純な疑問を突きつけられることになる。「トランプ氏は法を超えた存在なのか」という問いだ。

コーエン氏がトランプ氏の指示で払ったとされる口止め料は、一般市民なら違法にはならない。だが、当時のトランプ氏は大統領選に出馬している候補であり、その代理として支払われた資金は、未申告の政治献金となる。米国では、選挙資金法違反は、カネの問題というよりスピード違反程度の罪と思われている。資金の申告書の記入方法を誤ったり、選挙資金支出の会計処理を間違えたりするケースが多いからだ。こうした寛大な見方をするのには理由がある。選挙法を違反した人物が当選した場合、裁判所と有権者との間に問題が生じることになり、その解決は容易ではないからだ。

ただ、トランプ氏は書類への記載方法を間違えて批判されているのではない。自分に不利な事実を賄賂でもみ消そうとしたとの疑惑に直面している。この方が罪ははるかに重い。08年の大統領選で民主党の指名候補を目指していたジョン・エドワーズ氏は、同様の行為を働いて政治生命を絶たれている。

収賄していたことが世間に知れていてもトランプ氏が選挙で勝利していたかどうかは、知るすべがない。それでも敗北していた可能性があるということは、トランプ氏が選挙資金法を守っていたかどうかだけでなく、彼が正当な大統領なのかどうかという疑問にもつながる。

ニクソン大統領以降、司法省には現職の大統領を起訴しないという慣習がある。これにも正当な理由がある。選挙資金法の違反と同様、大統領には民主的に重要な仕事が託されているため、その大統領と司法などの官僚組織が対立すると、どう解決するのかという難題に行き着く。例えば現職の大統領が殺人を犯したという確たる証拠があるなら、この慣習は間違いなく無効になる。だが、不都合な不倫関係を隠すために口止め料を支払うのは、殺人に比べれば格段に軽微な罪だ。

米憲法の起草者たちは、大統領には余計な邪魔が入ることなくその職務を全うしてほしいと考えた。だが英国の王、ジョージ3世を相手に独立戦争を終えたばかりだったこともあり、大統領は選挙で選ぶにしても、米国を王制にはしないという点ははっきりしていた。つまり、大統領といえども、国王のように法を超えた存在であってはならないということだ。

今、米国が直面しつつある憲法上の問題は、大統領は起訴しないという司法省の前時代的な慣習だ。これはニクソン氏のように、問題を起こした大統領は起訴される前にわずかな尊厳を維持して自ら辞任することが期待できた時代のものだ。だが、もはやそんな不文律は通用しない。神経のずぶとい大統領ならたとえ法を犯しても、事実上、法を超えた存在になれるというのがこの慣習の実態だ。

問われる建国の父らが託した上院の責任

つまり、トランプ氏と司法が招きうる裁判所と有権者が対立する場合、政治的手段で解決するしかない。最終的に大統領を退任させるかは、法律で決まるのではなく、政治の問題になるということだ。建国の父たちが予見した通り、それ以外、方法はない。

その一人であるアレクサンダー・ハミルトンは、自らも執筆し米憲法に関する論文集「ザ・フェデラリスト」の第65篇の中で、大統領を裁くのは最高裁判所ではなく上院であるべきだと書いた。その根拠として、「国家のために、尋問者としての役割を適切に果たせるのは、市民の代表者たちの他にいるだろうか」と指摘している。その状況で必要とされる「信頼ある組織」は上院の他にない、と考えたのだ。

だが、悲しいことに今の上院にはもはやそのような信頼はない。そのために米国の民主主義は奇妙な状況に置かれている。これまでのところ、連邦議会の共和党議員はトランプ氏に味方している。唯一風向きが変わる可能性があるとすれば、11月の中間選挙の結果が共和党にとってあまりに悪く、選挙を戦う上でトランプ氏がお荷物になると判断された場合だ。民主党が下院で過半数を勝ち取る可能性は十分あるが、大統領を弾劾によって解任するために必要な上院の3分の2議席の獲得はできそうにない。

コーエン氏が有罪を認めたことで、米大統領は2件の連邦犯罪で未起訴の共謀者となった。その意味では、米国にとって先週は悲しい1週間だった。だが、共和党には恥ずべき1週間となった。というのも、議員たちはトランプ氏の違法行為を軽微なものに見せようとするばかりで、大統領を含め、いかなる者も法を超えることはないという理想を守ろうとはしていないからだ。

(c)2018 The Economist Newspaper Limited. Aug. 25, 2018 all rights reserved.

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