2018年9月25日(火)

地方企業のお悩み、「複業」で解決します
「複業×地方創生」COMEMOルポ

働き方改革
サービス・食品
九州・沖縄
2018/8/30 6:30
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 人手やアイデア不足は地方の企業の共通の悩みだ。そんな課題を解決するため「複業」を活用する試みが始まった。鹿児島県の焼酎メーカーが大都市で働くビジネスパーソンを期間限定のアドバイザーとして招き、焼酎の消費拡大策を考えてもらう。消費者としての感覚や企画・マーケティングといった知見、スキルを期待する。複業というスタイルは地方創生の一翼を担えるのかーー。1回目の現地ミーティングを取材した。

大口酒造の社員(左側)と議論するプロジェクトメンバー

大口酒造の社員(左側)と議論するプロジェクトメンバー

 8月24日。雨の中、鹿児島県伊佐市の焼酎メーカー「大口酒造」の工場に首都圏在住の20~40代の男女7人が集まった。「パラレルワークで焼酎の未来を創造する 大口酒造プロジェクト」のメンバーだ。この企画は「伊佐錦」「黒伊佐錦」のブランドで知られる大口酒造と一般社団法人SIDELINE(横浜市)が共同で立ち上げた。メンバーの募集やプロジェクト全体のマネジメントはSIDELINEが担当する。SIDELINEの篠原敏文代表理事は「起業や転職ではない複業の機会を創出したい」という思いから2017年12月にこの社団法人を設立した。今年7月下旬から10月までの契約でメンバーの報酬は1人月間5万円。

 ■焼酎人気、テコ入れ目指す

 若者のアルコール離れや低アルコール飲料の人気で焼酎市場は頭打ちになっている。大口酒造の山田浩一常務は話す。「人口減のペース以上に消費が減っている。この状況を打破するため、異業種の人からアドバイスを受けたいと思った。我々の常識をひっくり返す発想やアイデアが出てくるのを期待したい」

 プロジェクトメンバーは6月の選考で30人の応募者から選ばれた。女性向けアプリ開発のuni'que(ユニック=東京・渋谷)CEOの若宮和男さんは「うちの会社はママ業、学業も複業です。一つの企業に100%時間を注いだ人が偉い、という考えがおかしい。いっぱい時間を注いだ人が偉いとなったら、体力的にも女性より男性が偉いってなっちゃうじゃないですか。でもママ業をやっているときの社会貢献も見逃せない。いろんなところでちょっとずつでも社会に貢献しているのが偉いよ、というのを推進したい。複業はどんどん当たり前になっていきます」と力を込める。建設会社に勤める川股美都里さんは「もともと友人がいる鹿児島が好きで年に2、3回来ていた。地方とのかかわりをいろんな場面で刺激にしていきたい」と目を輝かせる。

 まず工場担当者の案内で製造工程を見学していく。「1日に使用するサツマイモの量は」「発酵時間によって色はどう変化していくのか」。メンバーから次々に質問が飛ぶ。初めて焼酎の製造工程を目の当たりにしたメンバーにとって新しい発見ばかりだ。焼酎に対して持っていた先入観がどんどん覆され、PRへのイメージが膨らんでいく。

工場見学の際、焼酎の特徴について説明を受ける

工場見学の際、焼酎の特徴について説明を受ける

 見学後は車で5分ほどの場所にある本社に移動。大口酒造の社員も交えたメンバーで2チームに分かれワークショップが始まった。ひとつのチームは事前に実施したウエブアンケートの調査結果をもとに現状を分析していく。アンケートで焼酎に対するイメージ、さらに芋焼酎に対するイメージと細かく聞いた。「芋焼酎」に対するイメージは「アルコール度数が高い」「くさい」…。厳しい指摘があがる。「細かく数字をみていくと、焼酎をよく飲むお酒」と回答している女性はものすごく少ないんですよ。メンバーがてきぱきと結果を発表していく。

 ■売り手の意思と消費者にズレ

 首都圏のお客さんがこう思ってるという調査結果を踏まえ、20~30代に焼酎をはやらせるためにどうするか。全員でアイデアを出しまくった。社員からは「イメージ戦略や認知戦略が大事。営業も男性的はスペック重視の視点でやっている。女性は飲む際のシーンを重視する。大きなズレを改めて感じた」、「焼酎に対しての認知度の低さを改めて認識した」といった感想が聞かれた。

消費者の実像をあぶりだすため、「デプスインタビュー」を試みたチームも

消費者の実像をあぶりだすため、「デプスインタビュー」を試みたチームも

 もうひとつのチームは「Yさん:着物大好き本格グルメ」「Eさん:とにかく酔いたい歴史好き」など6人の消費者を対象にしたデプスインタビューという手法をとった。その後、伊佐錦らしさや大口酒造らしさを社員から聞き取り、掘り下げていった。「ほか(のメーカー)になくて伊佐錦にある特徴をどんどん紙に書いていってください。思いつくだけ書いてください」。メンバーが社員に呼びかける。「癖が少ない」「一番歴史が長い」「芋焼酎しか造っていない」…。社員がメモ用紙にキーワードを次々と書き込んでいく。「それを足がかかりにして企画を考えていく。新しい文化を生むためにまったく新しいニーズを引きだしたかった」と若宮さん。

 ミーティング終了後、九州大学大学院の坂口光一教授は「新しい商品を作るにはサーチライトをどう当てていくかが大事。きょうはたくさんサーチライトになるような候補をいただいた。まだ存在しない欲求を喚起しないといけない。ライトの当て方次第で大成功になるだろう」と総括した。

 大口酒造の山田常務は「東京で一回お会いしていたので、すごい発想力のある人たちだなとは分かっていた。きょうは改めて引き出し方がすごく上手だなと。一つのブランド『伊佐錦』を我々がどう思っているのか。その本音がみえないと取り掛かれない。いろんな角度から聞かれ、我々の本音、ぐちっぽいところも出せた」と手ごたえを感じている様子だ。

 ■「小口化」でメリット大きく

 期間限定のこのプロジェクトは「パラレルワークの小口化」ではないだろうかと思った。大勢のメンバーで意見を出し合えば、企業側のニーズと提案側の意見と企業側のニーズのズレも小さくなり、実践的な内容になりそうだ。メンバーの負担も分散され、仕事量も「複業」に適したサイズになる。企業側にとってもリスクも少なくなる。

 プロジェクトメンバーが大口酒造の社員に強みや弱みを丁寧にヒアリングしていたのも印象的だった。今後もマーケティングのテクニックだけが先行した議論にはならないだろう。大口酒造の社員とプロジェクトメンバーはネットを利用した会議やメールでやりとりし、議論をすすめていく。10月半ばに予定されているプレゼンテーションが今から楽しみだ。(村野孝直)

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