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パウエルFRB議長、失った政策判断の"海図"

「物価指数は最良でない」

【ジャクソンホール(米ワイオミング州)=河浪武史】リーマン・ショックを伴う金融危機から10年。25日閉幕した中央銀行高官らによる国際経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)では物価目標に縛られる中銀の苦悩が浮き彫りになった。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、物価指数を金融政策の「羅針盤」とする従来の考え方に疑問を提示。金利政策の判断基準そのものを問い直し始めた。

「インフレはもはや最良の指針でないかもしれない」。パウエル氏は会議で、中銀が物価指数にこだわりすぎることにまず疑いの目を向けた。

3日間の会議では、物価や賃金を巡り学識経験者らも議論に加わったが、中銀高官の一人は「重い問いかけを発したのはやはりパウエル氏だった」と話す。FRB議長に2月就任し、同会議で初めて講演したパウエル氏は法律専門家。中銀高官や経済学者に語りかけたのは政策のセオリーへの大きな疑問だった。

米経済は成長率が4%に到達。株式市場も24日、S&P500種株価指数とナスダック総合株価指数がともに最高値を更新した。過熱感を欠くのは物価だけともいえる。

パウエル氏は「過去2回の景気後退では、物価でなく金融市場に過熱感があった」とも指摘。物価にこだわりすぎれば、まわりのひずみがみえなくなる。リーマン・ショックの原因は、物価が長期安定する「グレート・モデレーション」に安住して金融バブルの芽を放置したことにあった。

パウエル氏は中銀が強みとする経済推計の手法も自ら疑問視した。FRBは雇用を政策判断の材料とするが、その際に労働市場の巡航速度である「自然失業率」を推計。実数値と比較して過熱具合を見極める。

実際、現在の米失業率は3.9%だが、FRBは自然失業率を4.5%と分析。雇用の過熱を理由に利上げを進めてきた。ただ、パウエル氏は「自然失業率は不正確で、あとから推計がいくらでも変化する」と断罪。2013年以降、この試算が1%分も下がったことを指摘してみせた。

パウエル氏が物価指数や雇用推計の不確かさを指弾したのは、数値に沿って機械的に判断する「ルールベース」の金融政策から、時々の情勢に応じて利上げも利下げも柔軟に決める「実務ベース」の政策運営へと修正するためだ。年4回だった記者会見を19年から年8回に増やし、3カ月おきの利上げという現在の機械的な政策運営を変える布石を打っている。

ただ、何を基準に政策判断するのかは逆に見えにくくなる。市場は当然、物価に着目し金融政策を予測する。パウエル氏は講演で「金融市場の過熱」に言及したが、資産価格で利上げや利下げを判断するわけにもいかない。「実務ベース」の金融政策は裁量的で不透明なスタイルともいえる。

もっともパウエル氏が問いかけたのは「物価の安定」を第一目的とする現在の金融政策のあり方だ。FRBは1913年に創設されたが、当時の目的は頻発した金融危機を防ぐためだった。それが今では逆に、日米欧中銀の大量の緩和マネーが次の金融危機の引き金となるリスクすらある。

パウエル氏は金融政策の難しさを航海にたとえて「モヤがかかる浅瀬の中でカジを握っている」と表現した。中銀が優先するのは物価なのか成長率なのか、市場の安定なのか。節目の年の会議では金融政策の「海図」探しが課題となった。

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