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人と働く「コーボット」開発相次ぐ 米欧新興勢が主役

CBINSIGHTS
産業用ロボットといえば、一糸乱れない正確無比な動きでクルマや家電を組み立てる工場の風景を思い浮かべる人が多いだろう。人間に代わって単純で危険な作業を黙々と続けるロボットは、世界中の工場で広く使われている。だが今、注目されているのは決められた作業だけをこなすのではなく、もっと気の利いたロボだ。人と一緒に働く「コーボット」の開発が加速している。主役は従来の大手機械メーカーではなく米欧のスタートアップ企業だ。
ロボットアーム「ユニメート」

ガレージのドアの自動開閉機を発明したジョージ・デボル氏がロボットアーム「ユニメート」を売り出した当初、周囲の反応は芳しくなかった。だが「このロボットにはメリットがある。1日3シフト、つまり24時間働ける」と強調すると、状況は変わった。

この初の産業用ロボットは、1960年代初めには米ゼネラル・モーターズ(GM)の工場で活躍した。

それから50年。ロボットを巡る状況は大きく変わった。

工場のロボットといえば、大きな柵で囲まれ人間の代わりに単調で危険な作業をこなすものとされてきた。だが現在では技術の進化で器用な小型ロボットが工場で使われるようになっている。

軽く小さなロボットに人工知能(AI)やセンサーを搭載し、工場などで人間と協働できる「コーボット」が誕生したのだ。小さな物体をつかんだり、見たり、特異な状況で発生する事例(エッジケース)への対応を学んだりと、様々なタスクをこなせる。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週1回掲載しています。

コーボットは現時点では400億ドルの規模を誇る産業用ロボット市場のほんの一部にすぎない。だが、今後10年で100億ドル以上に拡大するとみられている。

ロボット業界はこれまで、数々の問題に悪戦苦闘してきた。ざっと次の通りだろう。

・視覚の問題。ロボットが物や人を特定したり、避けて動いたりできる視覚技術はなかなか進展しなかった。そのためロボットを柵に入れて人間の周りで作業できないようにして人間を守ってきた。

・器用さの問題。物をつかむ能力はまだ限定的だ。

・投下資本利益率(ROI)の低さ。労働コストが安いため農業や製造業などの分野ではロボットの必要性がなかなか高まらなかった。

この記事では、企業がコーボットでこうした技術的な問題にどう対処し始めているのか、さらにコーボットの登場で製造業やネット通販、農業、外食産業にどんな変化が起きているのか調べる。

コーボットは新しい視覚技術をどれほど生かせているか

ロボットが世界各地の工場に普及したのを受け、物を認識し安全に避けて動けるようにする「ビジョンシステム」という考え方が生まれた。

これまで安全策といえば人間が危険なほどロボットに近づかないよう柵で囲むのが定番だった。だが、状況は変わりつつある。

ここ数年で、ライダーなど視覚機能を持つ機器の価格が大幅に下がって性能が向上し、普及が進んだ。その結果、センサーを搭載し、視覚機能を持つコーボットの開発に取り組むスタートアップ企業が相次いでいる。

コーボットは1996年ごろに考案された。形や大きさは様々で、人間が働く職場を念頭に置いて設計されている。プログラムの変更が容易だが、ローテクの産業ロボットのようなパワーはない。

3Dプリンターの補助や医療機器の生産、倉庫での注文品の取り出しなど、高度な認知機能を求められるタスクを完了するなど、人間がなお介在している小規模工場での作業に適しているようだ。

もちろん、ロボットの視覚機能にはなお改善の余地がある。

今年1月、米ラスベガスで開かれた家電見本市「CES」で卓球ロボットを実演したオムロンの竹内勝氏は、英フィナンシャル・タイムズ紙に対し「ロボットは物体をつかんで素早く動かすことはできる。だが、それが何で、どう動かせばよいのかを判断するのはまだ難しい」と語っている。

コーボットの現状

ロボットに物の位置を把握させ、うまく扱うよう教えるのは至難の業だ。だが、米グーグル傘下の英DeepMind(ディープマインド)と米カリフォルニア大学バークレー校による数々の研究の進展で、コーボットが大量の訓練データがなくても一目見ただけで新たな物を認識できるようになったことが示された。

未来のロボットは人間を一度観察しただけでタスクを習得したり、仮想現実(VR)のジェスチャーコントロール機能(米Covariant.ai〈コーバリアントAI〉が開発した手法)を使ってプログラムできたりするようになるかもしれない。

このテクノロジーはまだ開発途上だが、現行システムは既にロボットが人間と協働できる水準に達している。コーボットアームやその親戚にあたる車輪付きの自動搬送車(AGV)は、製造業や倉庫などで当たり前の存在になっている。

ロボットの形や大きさ、知性は様々

ロボットは反復的で予測可能なことなら、やすやすとこなせる。一方、ランダムな組み合わせからアイテムを選び出すような作業では、アルゴリズムで特殊な処理が必要となる状況がはるかに増える。人間との真の協働には、AGVが自発的に人間を「見て」、それに応じて行動することが必要だ。

こうしたエッジケースを処理するアルゴリズムの開発は、AIやコンピュータービジョン、自動運転車の研究にも役立つ。AIと機械学習では、9割の状況に対する反応を自動化するのは易しいが、残りの1割が極めて難しい。米ベンチャーキャピタル(VC)、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)のベネディクト・エバンス氏は、機械学習は「これまで『人間にとっては簡単だが、コンピューターには難しかった』ような問題、つまり『人間がコンピューターに説明しにくい』類の問題(に対処している)」と指摘する。

機械学習を搭載したツールが使いやすくなったため、スタートアップ各社はロボットの新しい波を支えるコンピュータービジョンの開発に取り組んでいる。

下の写真は産業用の「ピック・アンド・ソート(つかんで仕分けする)」機能のビジョンの仕組みを示した米Veo Robotics(ベオ・ロボティクス、左)と米Osaro(オサロ、右)の実演風景だ。米Rethink Robotics(リシンク・ロボティクス)の元社員が創業したベオは人間を感知できる目を持つことで、「スマートではない」ロボットアームを改良しようとしている。

ピーター・ティール氏やエラッド・ジル氏、ショーン・パーカー氏など著名なエンジェル投資家が出資者に名を連ねるオサロは、医薬品産業や外食産業などで使われる視覚ソフトウエアの開発に取り組んでいる。

コーボットの視覚が進化すれば、導入も広がるだろう。安全性と能力が増せば、システムの需要は一段と増え、もっと多くのスタートアップがさらに進んだコンピュータービジョンを開発するようになる好循環を生む可能性が高まる。

技巧の問題の克服

ロボットは当たり前の存在になりつつあるが、映画「スペースファミリー/ジェットソンズ」や「ターミネーター2」から期待するような知性や器用さはまだ持ち合わせていない。著名なロボット研究者ハンス・モラベック氏は「モラベックのパラドックス」と呼ばれるこんな見解を示している。

「コンピューターに知能テストで成人並みの成績を上げさせるのは比較的簡単だが、認知や移動に関しては1歳児のスキルを習得させるのも難しいか、不可能だ」

言い換えれば、高次の推論には計算はほとんど要らないが、感覚や運動能力には膨大な計算が必要になる、ということになる。

物体を器用に扱うのはロボットにとって大きなハードルだが、ハード面の進化に伴いコーボットの性能は向上している。

コーボットのハード機器の価格が下がり、性能も向上したため、スタートアップ各社はコンピュータービジョンの開発に専念し、特定のタスクに合ったソフトウエアをつくれるようになった。

コーボットメーカーの最大手はデンマークのUniversal Robots(ユニバーサルロボット、UR)で、同社は2015年に米Teradyne(テラダイン)に買収された。URのコーボットアームはスタートアップ各社に代わり骨の折れる仕事を担っている。

米Ready Robotics(レディー・ロボティクス)、米Fetch Robotics(フェッチ・ロボティクス)、米Voodoo Manufacturing(ブードゥー・マニュファクチャリング)などVCの支援を受けているスタートアップ企業はいずれも、URのコーボットアームを使ってシステムを構築している。レディー・ロボティクスは産業用の自動化タスクに特化した「ロボティクス・アズ・ア・サービス(RaaS)」を提供。フェッチのコーボットはネット通販の仕分け作業を担い、ブードゥーは複数の3Dプリンターを自動管理するためにコーボットを使っている。

URによると、一部のアームは平均195日の稼働で元が取れるという。

業界全体ではコーボットの平均価格は2万4000ドルで、市場規模は2020年には30億ドルになるとみられている。

URなどの既製コーボットアーム、スタートアップ企業に可能性をもたらす

器用になったとはいえ、「ユニバーサルなエンドエフェクター」、つまりどんな物体でも巧みに扱えるロボットハンドの開発は依然として難しい。

現時点では、ロボット「ハンド」は多目的の利用には適していない。だが各社は工夫を凝らし、様々な物体をつかめるエンドエフェクターの開発に取り組んでいる。

例えば、米Empire Robotics(エンパイア・ロボティクス)と米Soft Robotics(ソフト・ロボティクス)は、軟らかい素材や液体、もしくは空気圧を使ったソフトロボットの開発に特化している。ロボットの扱いはまだ完璧ではないため、ソフトロボットは無駄な力を加えて物体を潰さないようにする次善の策だ。グリップ部分は米食品医薬品局(FDA)から食品を扱う認可を受けており、現在は食品の包装に使われている。

それほどデリケートではない素材に対しては、米Grabit(グラブイット)は既存のロボットアームに熱接着を採用し、ハンガリーのOptoforce(オプトフォース)は用途を絞ったセンサーやツーリングを生産している。

「ユニバーサルなエンドエフェクター」を追求しているのはロボットメーカーだけではない。

米アマゾン・ドット・コムが最近取得した特許「Robotic Gripper with Digits Controlled By Shared Fluid Volume(液量の共有で制御する数字付きロボットグリッパー)」では、頑丈で重い物体も軟らかく軽い物体も扱えるロボット操縦機について詳述している。

現状では人間の器用さに遠く及ばないが、未来のコーボットには何でもスマートに扱えるエンドエフェクターが搭載されるだろう。

既存のロボットメーカー、コーボットブームに出遅れ

産業用ロボットメーカー大手は、これまで解説したようなコーボット開発の新しい波に不意を突かれたようだ。

ファナックのある役員は「大手メーカーがこうしたロボットを使いたがるとは思わなかった。軽い物体しか持ち上げられず、機能も限られるからだ」と振り返る。

既存メーカーは今やテラダイン傘下のURに追い付こうと躍起になっている。スイスのABB、ファナック、安川電機、独クーカ、独ボッシュなど大手各社は、コーボット市場ではURの後じんを拝している。

遅れを取り戻そうと提携も相次いでいる。川崎重工業はライバルのABBと共同で、ロボットのプラグラミングの共通化に乗り出している。

大手ロボットメーカーもコーボットに参入

コーボットの需要はなぜいきなり増えてきたのか。

主な理由の一つとして考えられるのは、世界各地で労働コストが上昇している点だ。経済成長に伴い、工業国の賃金は急上昇している。例えば、中国の平均賃金は06年以降で2倍以上に跳ね上がり、もはや低コストの工場とはみなされなくなった。

実際、中国の労働コストは非常に高いため、家電業界の雇用はベトナムなど低コストの近隣国に流出しつつあり、ロボットへの需要を昨年だけで20%以上押し上げている。

先進国の間では、労働コストが高くても国内生産を増やす動きも広がっており、ロボットの普及で生産拠点を米国に回帰する「リショアリング」が増えている。

ボストンコンサルティンググループが15年に実施した調査では、調査の対象となった米メーカーの20%が生産拠点を中国から米国に積極的に移しているか、今後2年間でそうする予定だと回答した。

企業は従来の労働力や「スマートではない」ロボットよりもコストが安いコーボットに目を向けつつある。大企業だけではない。テラダインのグレゴリー・ビーチャー最高財務責任者(CFO)は1月の決算発表でコーボットの顧客の約半数が中小企業だと述べた。

コーボット市場はまだ群雄割拠の状態だ。当面の課題は市場の認識不足だろう。URは「コーボットについて本当に理解しているのは、おそらく当社のターゲット市場の10%にとどまる。つまり、90%の可能性は開拓されていない」と言う。

倉庫・ネット通販

アマゾンのような大手でも物流センターでの労働者の確保には苦労している。17年8月に開催した鳴り物入りの雇用イベント「ジョブズデー」の応募者は2万人で、目標の5万人を大きく下回った。

アマゾンが倉庫用ロボットメーカーの米Kiva Systems(キバ・システムズ)を7億7500万ドルで買収したのを機に、ロボットメーカー間の開発競争の火ぶたが切られたとされる。

一方、ネット通販ブームで倉庫スペースの需要も爆発的に増えている。倉庫で協働ロボットの需要が増えているのも驚きではない。

ネット通販ブームで業界全体が期日通りに注文を配達する圧力にさらされているため、配送効率の改善を手がけるロボットスタートアップ企業が爆発的に増えている。多くはキバのように、資材を運んだり商品を取り出したりするAGVの開発に取り組んでいる。

例えば、米Seegrid(シーグリッド)などは荷積みやフォークリフト作業、カナダのClearpath Robotics(クリアパス・ロボティクス)傘下のOtto(オットー)は資材運搬に注力。米Fetch robotics(フェッチ・ロボティクス)と米6 River Systems(6リバー・システムズ)は倉庫の棚から商品を取り出す移動ロボットを手がけている。

協働型の移動ロボット、倉庫でのスタンダードに

消費者の購入量が増えるほど、様々な商品を取り出して箱詰めするロボットの必要性も高まる。米Kindred(キンドレッド)の仕分けロボット「ソート」(写真下左)は、米衣料品チェーン大手ギャップの配送センターで商品を仕分けるために試験導入されている。一方、米Righthand Robotics(ライトハンド・ロボティクス、写真下右)はネット通販の商品の取り出しを担う。

倉庫のROIは高いため、スタートアップ各社は好調なこの分野向けの技術開発を続ける可能性が高い。例えば、アマゾンは先日、様々な新型ロボットにどれほど資金を投じているかを公表。中国のネット通販大手、京東集団(JDドットコム)も、1日最大20万件の注文を処理できる延べ床面積10万平方フィートの施設を公開した。この施設には従業員は4人しかいない。

農業

米農機大手ディアが米Blue River Technology(ブルーリバー・テクノロジー)を3億500万ドルで買収したのを受け、17年に農業ロボットへの関心が大きく高まった。

自動運転トラクターから摘み取り用ロボットアームに至るまで、スタートアップ各社は農機の自動化に取り組んでいる。

深刻な人手不足と移民規制の強化でカリフォルニア州では昨年作物をほとんど収穫できなかったため、農業ではロボットで労働力を増強する時期にきている。この分野に取り組んでいるのが、イチゴの収穫を手がける米Agrobot(アグロボット、写真下)だ。ロボットにとって、イチゴを潰さずに収穫するのは難しい作業だ。

17年に米NPOのSRI International(SRIインターナショナル)から分離独立した米Abundant Robotics(アバンダント・ロボティクス)は、リンゴ園向けに似たような収穫ロボットを開発した。同社はGoogle Ventures(グーグル・ベンチャーズ)やヤマハ・モーター・ベンチャーズなどのVCから1000万ドルを調達している。

農業用の資材運搬ロボットを提供する米Harvest Automation(ハーベスト・オートメーション)や、搾乳ロボットを手がけるオランダのLely(リリー)なども、コーボットの新たな利用法を編み出している。

外食産業

コーボット各社は一般に離職率が高い外食産業にも狙いを定めている。外食各社は十分な人員を確保できない事情からロボットに投資しているのだ。

新興の外食各社は調理プロセスを自動化しようと、専用AIやコーボットアームを取り入れている。南カリフォルニアの外食チェーンCaliBurger(カリバーガー)は今年3月、米Miso Robotics(ミソ・ロボティクス)が開発したハンバーガー用のパテをひっくり返すコーボットアーム「フリッピー」(写真上左)を試験的に導入した。米公共ラジオ局NPRによると、このバーガーボットは現在6万ドルで販売されているという。

別の自動ハンバーガー店、米Creator(クリエーター、写真上右)はコンピューター20台、センサー350台、アクチュエーターシステム50台を駆使し、価格6ドルのバーガーを5分で提供する。ロボットが作ったバーガーを人間が顧客に運ぶという協働といえる。

飲み物に関しては、米Hypergiant(ハイパージャイアント)が注文に応じたカクテルを提供するAIバーテンダー「フラナガン」を開発するために、米外食大手TGIフライデーズと提携すると発表した。

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