そうめんは夏だけじゃない 「塩そうめん」で年中美味
魅惑のソルトワールド(20)

うだるような暑さが少しは落ち着いてきた今日このごろ。とはいえ、まだまだ厳しい残暑が続いています。ついつい冷たいものばかり食べてしまって、胃が疲れて食欲が落ち気味という人も多いのではないでしょうか。そんな時にお薦めなのが、そうめん。「食べすぎてもう飽きた」という声も聞こえそうですが、冷たくしても温かくしても良しという、年間を通じておいしく食べられる食品なのです。特に塩で調理する「塩そうめん」なら、通年でいけますよ。
まず、なぜそうめんは夏の食べ物としてのイメージがついてしまったのか。それは、そうめんが一般的に民間に広がった経緯にあります。

そうめんは中国から伝来したと言われています。原型は小麦粉と米粉を水で練って塩を加えて縄状にして揚げた「索餅(さくべい)」という食べ物とされ、流行病で亡くなった貴族の子供の霊を鎮めるために、命日の7月7日に毎年お供えされたと言います。ここから、「索餅を備えると流行病にかからない」という中国の故事が生まれ、日本に伝来してからは平安時代に七夕の行事食として、醤(ひしお)という調味料につけるなどして宮中で食べられていました。室町時代の文献にはすでに「索麺(さうめん)」として登場し、江戸時代にはそれが現在の「素麺(そうめん)」に置き換わって庶民に広がったようです。
日本での伝わり方が「7月7日の七夕に食べる行事食」がきっかけだったため、夏場をメインに食べられることが多くなったのではないかと考えられます。また、製造は10月~翌年4月ころの寒い時期が盛んで、一定の熟成期間を置いてから出荷されるため、実際に食べる最盛期が夏場になった、という事情もあるかもしれません。
いずれにせよ、そうめんは通年でおいしく食べられる麺なのです。製造工程で塩を入れて練ることで麺を伸ばし、熟成をコントロールしているので、塩との親和性が非常に高い食品でもあります。今回は定番のめんつゆではなく、塩味でシンプルに食べるアレンジ方法を紹介します。塩味で食べることで、熟成でおいしさを増しているそうめんをより深く味わうことができ、いつもと違う食べ方を知ると通年を通してそうめんを楽しめるようになると思います。

まずはシンプルに塩とオリーブオイルだけで食べてみましょう。塩とオイルだけで食べることで、そうめん本来の小麦のおいしさや、つるつるシコシコとした食感も最大限に味わうことができます。麺にうま味のある本格的な手延べそうめんが手に入った時、ぜひやってみてください。
作り方は簡単です。ゆでたそうめんを冷水で締めて、しっかり水気を切ったあと、オリーブオイルをたっぷりと3回しくらいかけます。そこに塩をひとつまみ入れて、しっかりと全体を混ぜ合わせるだけです。オリーブオイルの苦味と塩味が大人の味わいで、塩の効果で意外にもさっぱりとした味になります。白ワインのお供にもおすすめです。
シンプルなだけに、オイルと塩の質が重要です。オリーブオイルは香り高いエクストラバージンオリーブオイルで鮮度の良いものを。ちょっと苦味があるタイプがお薦めです。塩は、塩そのものにうま味を感じるような、ナトリウム以外のミネラルが多めの塩が良いと思います。私が試してみて、お薦めするのは長崎県雲仙市小浜町で塩分を含んだ温泉水を活用して生産されている「塩の宝石」。適度な苦味がオリーブオイルの苦味とマッチして、うま味が増します。そのほか、沖縄県粟国島の「粟国の塩 釜炊き」も、苦味のうまみのバランスが良く、このレシピに適しています。

次は温かいメニューを。鶏手羽中を水からコトコトと2時間ほどゆでてダシを取り、塩を入れて味を調整し、そこにゆでて水気を切ったそうめんを入れます。薄切りにしたレモンをたくさん添えて、鶏手羽中はそのまま具材としてのせて、最後にネギを飾ったらできあがり。材料は鶏手羽中、レモン、塩、そうめん、ネギと非常にシンプルながら、まるでベトナムの屋台で食べるフォーのようなおいしさになります。お好みで、ゴマ油を少し垂らすのも良いでしょう。優しい味わいなので、朝ご飯や夜食にもぴったりです。
鶏肉の脂に由来する独特のにおいがあるので、そのにおいを少し緩和してくれるような塩がお薦め。特に、海洋深層水から作られ、カリウムが多い塩は鶏肉の脂のにおいを抑えてくれる傾向があると私は思います。日本には全国各地に海洋深層水の研究所があり、その近辺では海洋深層水を活用した塩づくりが行われています。沖縄県久米島町、高知県室戸市、新潟県佐渡市、三重県尾鷲市、北海道羅臼町などが有名ですので、ぜひ探してみてください。

次は、私の住む沖縄県のご当地定番メニュー、「そうめんチャンプルー」です。ゆでたそうめんを、塩とツナ缶と野菜といためるというシンプルな料理です。フライパンにツナ缶を油ごと入れて、その油を活用してニラやニンジンなどの野菜をいためて塩で味付け。そこに、そうめんを入れて混ぜ合わせたらできあがりです。うま味を強くしたい場合は、カツオ節を入れるのもお薦め。上手に作るポイントはゆでたてのそうめんを使わないこと。前日の残りもののそうめんを使うくらいが、麺がダシをしっかり吸ってくれて、うま味たっぷりなそうめんチャンプルーに仕上がります。
マグロやカツオを使ったツナ缶のうま味を最大限に引き立てることが、そうめんチャンプルーをおいしく仕上げるコツで、塩もそれにあったものを選びます。マグロもカツオも海の魚なので塩も海のものがお薦め。特に、海藻のエキスが入った藻塩は魚介類との相性が良いうえ、塩そのものにうま味もたっぷりなので、そうめんチャンプルーのおいしさが一段ランクアップします。最近は全国各地でご当地の海藻を使った藻塩が生産されているので、ぜひ地元の藻塩を探してみてください。量販店などで手に入りやすいものでは、広島県の「海人の藻塩」や、兵庫県淡路島の「淡路島の藻塩」などがあります。
最後に、ちょっと変わり種を。気温が下がってくると、ちょっとこってりとしたものが食べたくなってきます。残暑の中でも時々ある涼しい日にふさわしいのがカルボナーラ風そうめんです。
フライパンにオリーブオイルを少量いれてベーコンをいため、そこに牛乳と卵の黄身、パルメザンチーズ(または細かくしたとろけるチーズでもOK)を混ぜ合わせたものを入れたらさっとかき混ぜ、ゆでて水気をきったそうめんを入れて全体を混ぜ合わせます。皿に盛ったらブラックペッパーを散らしてできあがり。そうめんはパスタに比べてゆでる時間が非常に短くてすみ、手早くパパッと作れますし、卵とからんだそうめんのむちっとした食感がちょっと手打ちパスタのようです。この時の塩は、卵と相性のよいカルシウムの多い塩がおすすめです。
日本で「そうめん」が生産されるようになって1200年以上がたち、すでに日本の伝統食と呼んでも過言ではありません。おいしいだけでなく、ゆで時間が短く手軽に料理ができるのも魅力のひとつ。塩味のアレンジレシピを活用して、夏場だけではなく、通年楽しんでみてくださいね。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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