2019年3月25日(月)

なぜ人材派遣会社が 大阪発「世界最速EV」への挑戦

2018/8/17 11:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

「世界最速」の電気自動車(EV)に挑む人材派遣会社がある。大阪市に拠点を置くアスパークだ。自社で設計し、必要な部品を世界各国からかき集めた。停止状態から時速100キロメートルに1秒台で加速する「ゼロヒャク」のEVを開発し、各国の富裕層向けに販売する計画を掲げる。なぜ人材派遣会社がモンスターEVなのか。

2018年2月に栃木県にある協力会社の敷地内で「ゼロヒャク」1秒89を記録した

2018年2月に栃木県にある協力会社の敷地内で「ゼロヒャク」1秒89を記録した

ギュルルル――。モーターの駆動音と、タイヤが路面を蹴る音が混ざる。カーボン製のボディーをまとうスポーツカーがあっという間に過ぎ去った。アスパークが開発したEV「owl(アウル)」だ。2018年2月に停止状態から時速100キロメートルに1秒89で到達する記録を打ち立てた。

06年に、自動車レースの最高峰F1のハンガリーグランプリで優勝したホンダのマシン「RA106」が100キロに到達するのに約3.7秒かかるというから、その速さが際立つ。公表されているEVの試作車では世界最速だとみられる。

「絶対に2秒を切る。車体はかっこええ意匠に。そのほかは開発陣に任せたんですわ」。快活な関西弁で話す吉田真教社長は、京都大学大学院修了後、大手人材派遣会社を経て2005年にアスパークを興した。

起業の理由は「人が成長できる場を整えたい」というもので、この強い思いは今も変わっていない。同社は人材派遣の中でも、ものづくりを担う人材に軸足を置いており、自動車メーカーや航空機メーカーなどに多数の社員を送り込む。これも「個人個人が持つ能力を最大化する努力が引き出せるから」。最速EVへの開発も同じ文脈で、社員が成長できる環境づくりが狙いだ。

だとしても、数あるものづくりの分野の中からなぜEVを選んだのか。「もともと土木系の理系人間。何かを自分で作りたくなるのは自然だった。(アニメの)ガンダムみたいなロボットや、自動車の研究所を持ちたいと日ごろから思っていた」と吉田社長は話す。

ものづくりのプロジェクトが走り始めたのは、08年ごろだ。当初は医療ロボットなどを検討したが「趣味のような」(吉田社長)レベルで、2~3年で立ち消えに。「やっぱり本気で何かをつくろう」と再びアクセルを踏み始めたのは、12年ごろで、社内でアイデアを募ったという。

2017年のフランクフルト国際自動車ショーで試作車を展示した(写真中央が吉田社長)

2017年のフランクフルト国際自動車ショーで試作車を展示した(写真中央が吉田社長)

出てきた案が「カートとか農機具とか……。テンションが下がりますでしょ。せっかく作るんなら『世界最速の車をつくろうや』ということになった」(吉田社長)

乗用車ならターゲットはそれなりに多く、作る側も親近感も持てる。また「最速」の称号があれば、趣味ではなくビジネスにもなる――。

とはいえ、一口に最速といっても「スピードそのものが速い」「サーキット走行が速い」など様々な最速がある。そこでアスパークは加速性能を選んだ。「時速400キロで走り続ける車は現実的じゃない。公道も走れる速度で走り去った方が痛快」とゼロヒャクで一番を目標に決めた。

もっとも、アスパークには自動車メーカーのように恒常的に乗用車を作るというノウハウの蓄積はほとんど無い。R&D事業部の川中清之氏は、試作車を開発するにあたり「部品はほとんどあり物(既製品)を活用した」と話す。

アウルはサーキットのようなグリップ力のある加速に理想的な路面ではなく、公道で走るのが前提だ。どうやってグリップ力を得るか。モーターの出力をロス無く路面を蹴る力に変えるにはどうしたらいいか、試行錯誤を重ねた。

また、モーターの出力が弱いときも効率良く加速するには、車体を制御するソフトウエアが必要になる。自動車開発のイケヤフォーミュラ(栃木県鹿沼市)や海外部品メーカーなどの協力を仰ぎながら、約4年で完成させた。

17年9月、ドイツで開かれたフランクフルト国際自動車ショーの会場に吉田社長の姿があった。完成したアウルの試作車を展示し市場の反応を見た。販売価格は350万ユーロ(約4億4200万円)に設定したが、10台近くの引き合いがあったという。

18年10月のパリ国際自動車ショーで正式に受注を始める計画だ。「何台も車を持っているような富裕層をターゲット」(川中氏)に、19年度末をめどに50台を販売したい考えだ。「2号機を作ってもいいし、車は続けたい」と話す吉田社長。一方で「今度は『飛行する何か』を作ってみたいね。ドローンとか、飛行機のような」。すでにアウルの次を見据えている。  (矢野摂士)

[日経産業新聞 2018年8月17日付]

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