2018年9月24日(月)

サマータイム、長所・短所は? システム対応に懸念も

猛暑
経済
政治
2018/8/17 6:00
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 記録的な猛暑を受け、全国一律で夏に時間を早めるサマータイムの導入が政府・自民党内で取り沙汰されている。2020年東京五輪・パラリンピックの暑さ対策の1つとして、大会組織委員会が政府に提案したのがきっかけだ。過去も何度か導入案が検討されながら見送られた歴史がある。長所と短所の両面があり、決め手を欠いたためだ。

 サマータイムは日照時間の長い夏の一定期間、時刻を1~2時間早める制度だ。緯度が高く、夏と冬で日照時間の差が大きい地域で採用されることが多く、欧州や北米を中心に60を超える国で導入実績がある。日本も戦後にGHQ(連合国軍総司令部)の指示で実施され、わずか4年で廃止された歴史がある。

 米国では3月の第2日曜日の午前2時に時計を1時間進め夏時間にする。11月の第1日曜日の午前2時に戻す。夏の明るい夕~夜を仕事や娯楽などの活動に使える。

 経済的なメリットもある。省エネや温暖化ガス削減だ。まず照明をつける時間が減る。気温が比較的低い朝から活動を始めると冷房の使用も減る。日本生産性本部の04年の報告書は、原油換算で93万キロリットル分の省エネになるとはじいた。全国民が使う冷蔵庫の消費電力40日分に相当する。

 夕に余暇が増え消費拡大になるかもしれない。第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは、名目家計消費が7500億円増えると試算する。永浜氏は「システム変更で設備投資が押し上げられる可能性もある」と話す一方「労働時間が増えれば効果が縮減される」とも指摘した。

 デメリットは何か。欧州では生活リズムが変わり体調に悪影響があると懸念が膨らむ。

 社会・経済的なコストもある。導入は日付や時刻が関わるすべてのシステムに影響を与えるからだ。航空機や電車の運行に障害が生じれば生死につながる。企業の決済などにも波及し、システム変更は膨大だ。立命館大学情報理工学部の上原哲太郎教授は「システム改修の時間を考えれば、五輪前の導入は不可能」と語る。行政のシステム改修には約5年かかると見積もる。「ソフトウエア更新に便乗してサイバー攻撃が増える可能性がある」とも強調する。

 今回の導入論の契機は20年7月下旬に開幕する東京五輪への懸念だ。暑さ対策のため、マラソンのスタートを当初より30分早めて午前7時にした。だが今夏はそんな対策がかすむ暑さだった。欧米メディアが開催時期そのものに疑問を呈し、さらなる対策が必要だと盛んに報道した。

 組織委会長の森喜朗元首相は「外国からいろんな声が出ている。何もしないわけにはいかない」と話す。「標準時間のまま開始時間を早めれば済む」との意見もあるが、組織委の遠藤利明会長代行は「早すぎるとボランティアなどの準備が整わない」と説く。開催時期の変更は「国際オリンピック委員会(IOC)との契約で難しい」という。

 具体的な議論はこれからだ。安倍晋三首相は森氏の要請を受け、自民党に議論するよう求めた。党で五輪の実施本部長を兼任する遠藤氏らが近く超党派の議員連盟を発足して検討を始める予定だ。野党にも「一考の余地はある」(立憲民主党の福山哲郎幹事長)との声はある。推進派からは「秋に召集予定の臨時国会で議員立法で導入法案を提出したい」との期待もある。ただ、やはり長所短所ともにあり、国民生活に多大な影響がある話だ。拙速にならないよう十分な議論が必要だ。

■何度も導入検討

札幌市では札幌商工会議所を中心に04~06年にサマータイムを試験実施した

札幌市では札幌商工会議所を中心に04~06年にサマータイムを試験実施した

 日本でのサマータイムの検討は1970~80年代、石油危機を背景に始まった。総理府(現内閣府)が80年に実施した世論調査では賛成42%、反対35%と割れ、導入を見送った。93年に通産省(現経産省)が「サマータイム制度懇談会」を設けたが、先送りとなった。

 95年には超党派の議員連盟が発足。法案をまとめたが提出は見送った。2004年には新たな議連が発足し、標準時から1時間早める法案を05年に作成。08年にも洞爺湖サミットを控えて省エネ機運が高まり法案提出を目指したが断念した。

 地方や企業で試験導入する動きもあった。滋賀県庁は03年夏、県職員の約半数が30分~1時間早めに出勤する実験を実施。終了後のアンケート調査は賛成45%、反対44%と割れた。「夕方から泳ぎ、夏の生活を楽しめた」との賛成論と共に「終業後に来客や事務折衝があった」と反対論もあがった。

 札幌市では札幌商工会議所を中心に04~06年に試験実施した。3年目には1年目の5倍の3万人が参加。アンケートでは44%が心身への影響に変化がなかったと答えた。

 経団連は07年8月「エコワーク月間」と名付け、職員の勤務時間を午前8時半~午後4時と通常より1時間繰り上げた。冷房や照明、エレベーターなどのエネルギー消費量が減り、二酸化炭素(CO2)の排出を前年同月比で約5%削減する効果があったという。

■国会で十分な議論を


 「明るい時間帯を余暇に充てれば活動の幅が広がる」「システムトラブルが起き、日常生活や企業活動に悪影響が出る」。賛成、反対の意見はどちらももっともだ。石油ショックを機に1970年代から浮上した導入論は何度も浮かんでは消えを繰り返してきた。95年から超党派の議連に参加してきた中曽根弘文参院議員は「今回の東京五輪が最後のチャンスだろう」と話す。
 過去に議連がまとめた法案は3度とも提出に至らなかった。経緯をみると必ずしも反対派が賛成派を論破したわけではない。05年の郵政解散や08年のねじれ国会など別の理由が背景にあった。大会組織委員会の森喜朗会長も「国会で最重要課題とならない」と指摘する。この機会に一度、国会で議論を深めなければ、堂々巡りの歴史は報われないと思う。
(児玉章吾)

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