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勝利への必要条件 積極走塁のリスクとリターン

野球データアナリスト 岡田友輔

今回は走塁を取り上げたい。緻密な日本の野球において「機動力」は非常に重視されている。盗塁はもちろん、貪欲に先の塁を狙う姿勢はゲームに緊張感とスピード感をもたらし、チームの士気を高める。プロ、アマ問わず「機動力野球」をモットーとするチームは少なくない。では実際、走塁の優劣は得点力にどれほど影響するのか。(記録は16日終了時点)

まずは盗塁をみてみよう。これまで何度か出てきた「得点期待値」という考え方を思い出してほしい。ある状況から、そのイニングの終わりまでに平均で何点入るかを統計的に示したものだ。この数値をどれだけ上げられるかが盗塁の価値を示していると考えられる。

2014~16年のプロ野球では無死一塁での得点期待値が0.793だった。ここから走者が盗塁を決め、無死二塁になると期待値は1.057になる。上昇した0.264点分がこの盗塁の価値ということになる。同じ二盗でも1死では0.180、2死だと0.103とアウトカウントが増えるごとに価値は減る。無死二塁からの三盗では得点期待値が1.057から1.279に上がり、貢献度は0.222となる。

しかし、盗塁にはリスクがつきものだ。アウトになった場合のダメージにも目を向けなければならない。無死一塁からの二盗に失敗したとする。1死走者なしになると得点期待値は0.237に下がるから、0.793からのマイナス0.556点分が失敗の代償ということになる。1死からの失敗ならマイナス0.391、2死では攻撃終了となるから得点期待値の0.203がそのまま損失だ。

盗塁、成功率7割でトントン

ここで強調したいのは、成功によるプラスと失敗によるマイナスの不均衡である。たとえば無死一塁からの二盗では、成功しても得点期待値は0.264点しか上がらないのに対し、失敗した場合はマイナス0.556とダメージは倍以上になる。つまり3回走って2度成功しても、得点への貢献では割に合わない。この不均衡は全ての盗塁に当てはまる。盗塁は得られるリターンに対し、リスクが非常に高い作戦なのだ。成功率7割でようやくプラスマイナスゼロになる。

なぜこうなるかというと、野球は27個のアウトを使ってできるだけ多くの得点を挙げるゲームだからだ。時間制限はないのだから、アウトにさえならなければ、いくらでも点が入る。アウト1つの価値は、1つの進塁よりはるかに大きい。米大リーグではこうした認識が浸透し、いちかばちかの盗塁は避ける傾向が強まっている。日本で多用される送りバントや進塁打が限られた場面でしか使われないのも、アウトと進塁の価値を秤(はかり)にかけているからだ。

盗塁成功によるプラスと失敗によるマイナスを合算した数字を「wSB(weighted Stolen Base runs)」と呼ぶ。すべての盗塁企図がもたらした得点への貢献度を示している。2017年、この数字が最も優れていたのは西川遥輝(日本ハム)。シーズンを通じて4.1点分のプラスをもたらした。西川は39盗塁でパ・リーグの盗塁王を獲得したが、成功数に劣らず価値があるのは、失敗が5つしかなかったことだ。走れる場面か否かの状況判断、センスがそれだけ優れているのだろう。一方、セ・リーグ盗塁王の田中広輔(広島)は35盗塁を決めた半面、13の失敗が響き、wSBは0.8にとどまった。西川は今年も28盗塁を決め、失敗は2回だけ。セでは山田哲人(ヤクルト)が成功27回、失敗3回と高い成功率を誇っている。

ヤクルト・山田哲(右)は盗塁成功率でも球界トップクラス=共同

盗塁以外の走塁はどのように評価すればいいか。単打1本で走者が一塁から三塁まで進めたか、二塁から生還できたか。緊迫した試合では一つの好走塁が勝負を分けることがある。盗塁を除く走塁による貢献度を測ったのが「UBR(Ultimate Base Running)」と呼ばれる指標だ。

見逃せない「快足の落とし穴」

データの取り方はいくらでも細分化することができるが、野球のデータ分析などを手掛ける「DELTA」ではとりわけ次の4ポイントに絞って収集したデータに基づいて算出している。

(1)一塁走者が単打でどこまで進めたか
(2)一塁走者が二塁打でどこまで進めたか
(3)二塁走者が単打で生還できたか
(4)三塁走者が外野フライで生還できたか

いずれも前の塁に走者が詰まっていないケースが対象となる。アウトカウント、打球の方向と強さを踏まえ、各状況で走者がどのような走塁をしたかを記録する。12球団全選手の平均との差が、走塁の巧拙の目安になると考えられる。

計算の基本的な考え方は盗塁と同じだ。具体例を挙げてみよう。無死一塁から二塁打が出たとする。普通に二、三塁になった場合、得点期待値は1.802となる。では一塁走者が三塁を回った場合はどうか。生還してなお無死二塁となると、実際に入った1点に加え、さらに無死二塁での得点期待値1.057が残る。このとき、2つを合わせた2.057から、三塁で止まった場合の期待値1.802を差し引いた0.255点分を走者による貢献とみなすことができる。一方、本塁でアウトになった場合は1点も入らず、1死二塁での得点期待値0.660が残る。生還できた場合に比べたマイナスは1.397。これが走者の責任として計上される。憤死した場合の損失が不釣り合いに大きいのは盗塁と同じだ。

17年シーズン、最も高いUBRを記録したのは丸佳浩(広島)と源田壮亮(西武)だった。いずれも12球団平均に対して6.7点のプラスを生み出した。3~4点のプラスなら一流と評価できるUBRでこの数字は傑出している。一方、ワーストはセ・リーグ首位打者の宮崎敏郎(DeNA)でマイナス7.2。「ハマのプーさん」の愛称を持つ宮崎のこの数字は仕方ないかもしれないが、見逃せないのは「快足の落とし穴」だ。23盗塁を記録した京田陽太(中日)をはじめ、桑原将志(DeNA)、島内宏明(楽天)といった俊足の選手たちはwSB、UBRともマイナスを記録している。彼らは足に自信があるために無理をして先の塁を狙い、高い代償を払っている。「積極的な走塁」といえば聞こえはいいが、アウトになっては元も子もない。

走塁の神髄は「状況判断」にあり

さて、こうした走塁の巧拙は攻撃全体のなかでどれほどの重みをもつのだろうか。大まかな結論からいえば「1割程度」というのがその答えとなる。打って走れる選手をみればわかりやすい。15年の山田哲は打率3割2分9厘、38本塁打、34盗塁で「トリプル3」を達成し、wSB4.2、UBR7.7と走塁の指標でも球界トップクラスの貢献をした。しかし、打撃における得点の上積みは平均より69.6ものプラス。打力と走力を比べれば、打力の寄与ははるかに大きい。

西武・源田は昨季、走塁による得点への貢献度でトップタイだった=共同

チーム単位でも同じことがいえる。圧倒的な攻撃力で2連覇を果たした昨季の広島はその打棒でリーグ平均を142.4点も上回る得点を挙げた。一方、走塁はwSBが3.1、UBRが16.9。機動力野球の伝統があり、球界トップクラスの走れるチームをもってしても、影響はこれぐらい。以前、4月29日付のコラムでも書いた通り、得点力は出塁能力と長打力で9割決まる。足はあくまで付加価値なのだ。

誤解しないでほしいのは「だから機動力は二の次でいい」とか「アウトの代償がそれほど大きいなら、走らないのが一番」という結論にはならないということだ。走塁による得点の上積みが難しいのは、重要性が低いからではなく、プロの世界ではどこのチームもある程度の走塁を実践しているので、差がつきにくいからである。ゴルフのショートパットを思い浮かべてほしい。プロは誰でも1メートルのパットを入れられるから、ショートパットがいくら得意でもそれだけで勝てるわけではない。だからといって1メートルを外していては戦えない。

付け加えると、盗塁の価値は場面によっても変わる。1点を争う終盤、打者に長打が期待できない状況での二盗には、大差がついた場面や試合の序盤に比べてはるかに大きな価値がある。つまり、高いリスクを負うべきときと場合がある。走塁の神髄は、状況ごとのリスクとリターンを考慮したうえで、いくべきところと自重すべきところを正確に見極め、リターンを最大化することにある。

12球団でトップとワーストのチームを比べると、走塁の巧拙でシーズン40得点前後の差がつく。ソツのない走塁は勝利への「十分条件」にはならないが「必要条件」ではある。それだけでは勝てないものの、勝つには欠かせない大前提と理解してほしい。

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